『エクスタント』真田広之さん インタビュー vol.02 「ちゃんとしたプロットを13話で描ききる作品が僕にはベスト」

スティーヴン・スピルバーグ製作総指揮、ハリー・ベリー主演のSFミステリー『エクスタント』。
この話題作には、日本を代表する国際派俳優:真田広之氏がレギュラー出演。物語のカギを握る謎めいた日本人実業家:ヒデキ・ヤスモトを演じている。
アメリカ・CBSで昨年夏にオンエアされ、すでに第2シーズンの製作も決まっている本作。日本でも、今年4月4日からWOWOWでレギュラー放送がスタート。その日本語吹替版で、自らの役にアフレコを行うため帰国した真田氏を直撃。作品の魅力をはじめ、ハリウッドで活動する日本人俳優として抱く思いなどについて訊いた。

――海外進出から10年以上が経ちました。外から日本を見て改めて感じること、ハリウッドと日本の違いは?

「土壌の違いはありますし、歴史背景や価値観や習慣の違いも大きいですが、ただ、物語を観るとかそういうことに関しては、日本人の感受性、ワビ・サビがわかるところとか、向こうの人には説明しづらい《粋》と《野暮》の違い、ちょっとしたことでニュアンスが変わることを感じ取る能力ってすごいなと思うんですよね。
向こうでは、ある意味、普遍的なものを作ろうというか、マーケットが大きいだけに世界中どこでも通用することを前提に作られてる。逆に日本はドメスティックな強みというか、日本人だからできる・日本だから生まれたアイデアを武器として外に発信できると。歴史の深さとか、伝統文化が持つ底力を理解していることが、これから外に打って出るときの強みになる。技術的なこととかシステムとかマーケティングみたいに、どんどん導入しないといけないことはあるけれども、逆に世界が日本に求めているものは、日本らしさ・日本人らしさだったりする。
それらを誇りに思う半面、『じゃ、自分はどこまで知っているのか?』と。これからの世代は、外の世界を見ることも大事だし、日本が世界の中で今どんな状況に置かれているのかを知ることも、自分のルーツというか自分の国の文化を勉強することも大事。僕もそうしなきゃいけないし、そうできるといいなって」

――本格的に拠点をアメリカへ移した当時と比べて、考え方や気持ちの上で変わったことは?

「漠然と『やるぞ!』という気持ちで、何の当てもなく怖いもの知らずで飛び込んだんですが、なかなか思うようにいかない日々が続き、畑を耕すところから始めて、種をまいて水をやって肥料をやって・・・気付いたら月日が経ってしまって。で、やっと芽が出てきたかなというのが、この10年という時間だった気がします。
やればやるほど、挑んだことの"大それた感"というか"無謀だった感"があって、よくサバイブできたなという思いもありますし、ようやく店頭に並んだかなという状況なので、やっとこれからという思いと両方ですかね。
英語ひとつにしてもどんどん壁が高くなる。今までは《日本生まれの日本人》しか演っていないから許されている、というのもあると思います。ネイティブスピーカーの役は決してまだできないと思っていますし、それを求められて『まだそれは無理』と辞退した役もありました。ハッタリで『やります!』と手を挙げて、それでコケたらもう次はないという世界だと思うので。
射程距離を見極める、そして少しでも次の目標をアップする。ハードルを上げるためには準備ができてないとダメだし・・・そのへんのバランスですかね。それは、やればやるほど怖くなってくるんですよね。(セリフのちょっとした違いや意味すら解っていなくて)『よく使ってくれてたな、今まで』みたいな。
だけど、仕事のお話を頂くことも増えて、その中から、その時の自分の嗜好に合ったものを選ぶ。やるべきなのか・やれるのかやれないのか、それをちゃんと見極めながら、ちょっとずつ続けていくしかないのかなって」

 

――本作への出演に関して、スティーヴン・スピルバーグ氏とは?

「別のプロジェクトで組もうとしていたときに、僕がどういう人間で英語や演技のレベルがどうだっていうのは全部さらけ出していた。その上で彼がこのドラマのプロデューサーに僕を推薦してくれたので、それを信じて、どこまで応えられるか飛び込んでみようと。
(スピルバーグ氏は)気さくな方で、あれほどの巨匠なのに人に威圧感を与えず、絶対に人を傷つけない。普段の会話でもそうですが、演出するときのほうが無邪気な映画少年みたいな感じで。『きっと他の作品の現場でもこうやってきたんだろうな』っていうのが垣間見られて、演出受けながらミーハー的に喜んでましたけど(笑)。
アイデアが浮かぶとすぐやらないと気が済まないような、純粋なクリエイターとしての無邪気な面というか、ブロックを組み立ててる少年みたいなキラキラした目が眼鏡の奥に光っていて。あのポジションにいながら映画少年のような心を失っていない。だからこそ君臨し続けているんだと思います」

――これまでアメリカで多くの作品に出演されてきましたが、本作は1シーズン全13話と、通常のテレビシリーズに比べてエピソード数がおよそ半分。視聴者からは「ストーリーが凝縮されて見やすい」「展開が早くていい」という意見もありますが、演じる側として違いは感じますか?

「一話完結で何年も継続することを目指しているシリーズと(本作と)は一線を画しています。ひとつのストーリーを(少ない話数の1シーズンで)潔く伝えて終わる。僕は、そちらのほうが観るほうとしても好きだし、演る側としても『長寿番組に出たい』という思いは全くないので・・・。
《3時間ほどの映画では描ききれない物語・方向性・キャラクターを、13話かけてしっかり描く》《映画ではできない題材、だからこそ連続ドラマの形でやるべき作品》――ミニシリーズやケーブルテレビの作品もそうですが――僕はそういうものが好きだし、自分に向いていると思っています。基本は俳優ですから、テレビでも映画でも舞台でも、いろんなフィールドでやれることはありがたいんですが、映画を自分の故郷というか、軸足にというつもりでいるので、ちゃんとしたプロットを13話で描ききる作品が僕にはベストですね。
今は映画とテレビの垣根がなくなり、テレビドラマのクオリティもこれだけ上がってきてますし、影響力もある。だからこの作品をお受けしたときも、スピルバーグのチームでハリー・ベリーという女優さんを筆頭にロングバージョンの映画を撮るようなつもりで飛び込んだといいますか、自分の意識としては『テレビだ映画だというよりは、スクリーンで映してもまったく遜色ないクオリティのものを13話分かけて描く。それに参加するんだ』と。そういった意識でお受けしました」

 

映画に匹敵、もしかするとそれ以上のスケールとクオリティを誇るかもしれない『エクスタント』。ハリウッドのビッグネームが集う中で《俳優:真田広之》が今度はどんな演技を見せてくれるのか、大いに注目したい。

<先行無料放送>
3月1日(日)よる6:30~[第一話]
<レギュラー放送>
4月4日(土)二か国語版・毎週土曜よる11:00~/字幕版・毎週水曜よる10:00~
※第一話無料放送

Photo:真田広之