30年後の未来にあって、一見、非の打ち所の無い豊かな家庭を築くウッズ一家。
そして着実に前進を遂げ、目を見張る技術革新を見せる新時代。
すべては、順風満帆に映る社会。
しかし、主人公モリー・ウッズ(ハリー・ベリー)の宇宙ステーションでの13ヶ月間に及ぶ滞在任務からの帰還が、すべてを変える。
彼女は、単独で宇宙にいた。
しかし地球に戻ったモリーには、彼女が「生命」をお腹に宿していることが告げられる。
「いったい、彼女が妊った"もの"は、何なのか...?」
新たな人類の命が芽吹いたのか?
ならば父親は誰なのか?
宇宙では孤独だったのに、どうやって?
「生命」ではなく、「物体」 なのか?
いや、ひょっとしたらエイリアンなのか?
かつて、スピルバーグをモンスター・パニック映画の作り手のイメージから、一躍、SF宇宙作品を描く旗手へと押し上げた傑作映画『未知との遭遇』(1977年)は、その作品のキャッチコピーに
「WE ARE NOT ALONE.」
という一文を用いた。
今、『エクスタント』の女性主人公モリーが置かれた状況は、
「SHE DID NOT COME BACK ALONE.」
("EXTANT" 米国版ブルーレイより)
というコピーの一文で言い表されている。
まるで、『エクスタント』が『未知との遭遇』に対する38年後のアンサー・ドラマであるかのように...。
(※事実、この作品の終盤では、あるスピルバーグの過去作への、気の利いたオマージュ場面がある。映画ファンの方には、そんな一瞬の遊びも是非楽しんで頂きたい)
宇宙飛行士であり、ごく普通の妻であるモリーは、トップクリエーターであるミッキー・フィッシャーが手がけ、緻密に練り込んで仕組んだ脚本の中で、さらに二つの困難を抱えている。
一つは、
彼女を宇宙に送り出した国際宇宙開発事業を担う組織"The International Space Exploration Agency(ISEA/国際宇宙探査局)"と、その事業にまで強い影響を及ぼす巨大企業ヤスモト・コーポレーションの存在。
その社のトップであるヤスモト・ヒデキ氏(真田広之)は、モリーの夫ジョン(ゴラン・ヴィシュニック)に接近し、妻モリーに宇宙で何が起きたのかを監視している。
ヤスモト氏は、果たしてモリーの「何」を狙っているのか?
そしてもう一つは、
彼女の息子の存在だ。
ジョンとの間の息子、イーサン(ピアース・ガニォン)は、"ヒューマニック"というアンドロイドの試作品である。その最先端ロボットを開発したのは、ジョンである。
モリーとジョンの間には、血のつながった子供がいない。
「二人で家庭の愛情を培いたい」「子供を育てる、ということをテクノロジーで現実のものにしたい」という強い思いから、ジョンは高性能の独立発達型アンドロイドを生み出し、その技術の普及で社会にも貢献しようというのだ。
ジョンたちが、"実の子" のように接するイーサンには、通常のロボットやコンピューター・プログラムのように、その所有者やユーザーたちが主導で情報をインプットする必要が無い。自分の体験を元に自ら発達できるヒューマニックであるイーサンは、出会い関わりを持った人や、遊び道具、本、家、自然、といった生活環境すべてから取り込んだ情報を学んで吸収し、蓄積された知識や経験値を感情や行動に反映させることができる。
つまり、「自分の意思で育っていく」まさに未来型の人類のパートナーなのだ。
イーサンは、社会生活の中にも歩み出す。学校にさえ通い始める。
一見、"人間"との見境はつかない造形である彼には、何の問題もないように思える。
しかし、クラスメートらやその親たちは、イーサンが「マシン(ロボットでしょうか)/機械」であることに抵抗を示す。
そして"母"として接するモリーも、宇宙から戻った後には、イーサンの自分への反応が以前とは違う... 説明のつかない予兆に気づき始めるのだ。
国際的な宇宙開発プロジェクトを自らの支配下に置くヤスモト氏は、モリーをコントロールしようとする。
一方、モリーは息子イーサンに起きている変化をコントロールできない。
しかも、自分の身体の中には、ジョンの子供では決してない、コントロールの及ばない
"何か"がいるのだ...。
自分の置かれた危機的状況に、周囲の人間は気づかない。告白することもできない。
いや、実はすべて密かに監視されている...。
肉体的に「alone」ではない状態で帰還した彼女は、
精神的に「alone」な状態に徐々に追い込まれていく。
彼女の運命を待ち受ける未来に、いったい何が起きるというのか??
これだけの何層にも絡んだミステリーの伏線が、全13回の贅沢な時間でじっくりと語られていく。
この仕組まれた《プロットの巧みさ》が、キャスト陣をこのドラマへの参加に引き込んだのだ。
そしてハリー・ベリー、真田広之、ゴラン・ヴィシュニックという優れた俳優をズラリと揃えながら、最も驚かされるのはピアース・ガニォン演じるイーサンの存在だ。
このSF大作ドラマには、すべての登場人物に見せ場がたっぷりと用意されているが、
この壮大なミステリーの《プロット》の中心にあるのは、アンドロイド"イーサン"と、
モリーの体内にある"もうひとつの命"なのである。
大人の俳優たちは、その卓越した演技力で、この物語の「深み」を描写し、
ピアースくんという子役の俳優は、この大作の「面白さ」を牽引している、
と言っても過言ではない。
予告編や宣伝、あるいは第1話をご覧になって、皆さんはイーサンがロボットだと
いうことはすでにご存知だろう。しかし一言に、"ロボット"や"アンドロイド"と
言っても、それを体現する演技は想像以上に難しいはずである。
身体の動かし方は制限され、感情は抑えられた表現に留めなければ、機械的な
印象を視聴者に感じさせることはできない。
と同時に、あざとくロボティックな動きをしてしまえば、
「最先端の発達と感情生成が可能で、限りなく人間に近い人工知能...」
という設定が嘘にみえてしまう。
その中間を、ピアースくんは見事に演じている。
しかも彼は劇中、ヤスモト社の研究室や、自宅の彼の部屋で、映像で合成される3Dのホログラム(研究室の立体投影ツールや、立体のゲームなど)に触れ、遊ぶシーンが何度となくあるのだが、実際の撮影時には目には見えないそれらのホログラムとの演技を、まるで苦労も無いかのように、淡々と演じて見せるのだ(のちに視覚効果で合成される対象を相手にする演技は、大人の俳優でも難しいものだ)。
実に、末恐ろしい力量だと言える。
アンドロイドらしい、表情を乏しく抑えた演技でそれらをやってのけるだけに、
おもちゃと彼が戯れるだけで、不気味なほどの印象を与える。
ストーリーが進む中、親たちへの愛や情がありながら、どことなく血の通わないように見える眼のイーサンは、見る者に何か脅威を抱かせる。
クラスメートの親たちや、親のモリーをも怯えさせる彼の存在感は抜群だ。これはもうドラマを実際に視聴して確認して頂くしか無いだろう。
その能力の高さから、人知の及ばない暴走さえもしかねないイーサンを、モリーとジョンは抑え、愛し続けることができるのか、「家族」という絆を彼らは持ち続けることができるだろうか。
深まる謎は、不安を拡大させていく。
幸せに見えた豊かな家庭は、知らぬ間に、一気にダークな渦へと巻き込まれていくのだ。
果たして...
【イーサンのような、恐ろしいほど高性能なのアンドロイドの能力】
が、人類を脅かすのか?
【モリーのお腹に宿った、得体の知れない新生命】
が、人類を脅かすのか?
それとも、
【その二人を支配下に置こうと試みるヤスモト氏の陰謀】
が、人類を脅かすのか?
このドラマには、ドラマファンや批評家たちも唸る面白さがある。
放送は、先が読めない驚くべき後半へ向け、怒涛の展開を見せる。
思いがけない闇にハマっていくスリルは、息をつかせない。
* * * * * * *
次回(最終回)は、
もう一人のミステリーの担い手、ヤスモト氏を演じる真田広之さんの
役柄に迫りつつ、第11話での共演で体験させて頂いた、素晴らしい時間の
舞台裏を皆さんにお話ししようと思う。
■『エクスタント』WOWOWプライムにて放送中!
<レギュラー放送>
二か国語版・毎週土曜よる11:00~/字幕版・毎週水曜よる10:00~
※第一話無料放送
Photo:
『エクスタント』
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