映画『シックス・センス』(99)や、『サイン』(02)『ヴィレッジ』(04)など、そのミステリアスで独特のムードを持った作風が人気を集めるM・ナイト・シャマラン監督。現在、FOXチャンネルにて絶賛放送中の脱出ミステリードラマ『ウェイワード・パインズ 出口のない街』で初のTVシリーズを手掛けた監督に、海外ドラマNAVIファンからの質問を直撃! 初めてのドラマ制作について、大いに語ってくれた。
――『ウェイワード・パインズ』はシャマラン監督らしいミステリアスな作品ですが、どうして今回このドラマを制作する事になったのでしょう?
これまではTVシリーズに関わる事をちょっと躊躇していたところがあって、だからTVシリーズに関しては、自分の中でしっくり来る作品に出会えるまで待っていようと思っていたんだ。TVドラマをやるならまず楽しんでできるもの、そして自分の求めるクオリティで制作できる作品である事が大事だった。『ウェイワード・パインズ』はその両方の条件を満たした作品だったんだ。
――マット・ディロンを起用した理由は?
主人公に求める条件として、まずTVシリーズに主演した事がない人、映画俳優である事というのがあったんだ。そしてイーサンはシークレットサービスの人間だから、タフな男らしい雰囲気を持つ人物、それでいてきちんとドラマを演じられる俳優を求めていたんだ。この条件に当てはまる俳優と言ったらもうマット・ディロンくらいしかいないかなって感じだったんだけど、幸いにもマットがイエスと言ってくれたので、こうして実現したんだ。
――他にもテレンス・ハワードやメリッサ・レオ、ジュリエット・ルイスなど、映画界で活躍する俳優たちが大勢出演していますが、彼らを起用した理由は?
キャスティングに関しては、TVも映画もそれほど変わらないと思うんだけど、キャスト全員でひとつのフレーバーを作っていくという感じなんだ。一人一人の持っているスパイスを効かせるのではなく、彼らの味が合わさって相乗効果が生まれた時に、新しいフレーバーになるんだ。例えば僕の映画『サイン』で例えると、主人公はメル・ギブソンだけど、作品のフレーバーが決まったのは、ホアキン・フェニックスの出演が決まった時だった。『ウェイワード・パインズ』については、どういうフレーバーにするか、実はちょっと時間がかかったんだよ。マットの出演は決まったけれど、まだそこでは全体のフレーバーが見えてこなかった。次にメリッサ・レオの出演が決まって、そこで初めて「これはNYのインディ映画の雰囲気だ」という方向性が見えてきたんだ。エッジが効いていて、メインストリームからちょっとだけ外れた何かを持っている俳優がこのドラマには似合うと思ったんだ。
――実際に彼らと仕事をした印象は?
最高だったよ。僕はパイロット版を監督したんだけれど、俳優たちがそれぞれに自分のシーンをモノにした瞬間に立ち会えた。マットならベッドに手錠で繋がれて身動きできないシーン、メリッサなら「アイアイ、キャプテン」と陽気に答えるシーンだね。一見優しい雰囲気なのに、何か違和感があるあの独特の気味悪さ、テレンスなら不気味なアイスクリームのシーンだし、カーラ・グギノはポーチでマットと会話しているシーン、それぞれが素晴らしい演技を見せてくれてるんだ。
――今回初めてのドラマシリーズと言う事で、ドラマと映画の違いを実感した事や、ドラマならではのメリットを感じたのはどういうところだったのでしょう?
ドラマはとにかく時間がないよね。少ない時間の中でとにかく多くの撮影をこなさなければならない。僕は自分の事を割と早いペースで撮影をするタイプの映画監督だと思っていたけれど、それ以上に早いペースを求められるんだ。これを職業として毎回やっている人たちの事を本当に尊敬したよ。でも映画ではなかなかできない、長い時間をかけてキャラクターを描く事ができるのは、TVシリーズならではの素晴らしい点だと思うよ。
――2話目以降は映画界の新進気鋭の若手監督をエピソード監督に起用していますが、その理由は?
エピソード監督を起用するのは僕にとってすごく楽しい事だったね。基本的にフィルムベースで活動している監督を起用するようにしたんだ。特に海外の作品を見て、気に入った人に声をかけたし、あとキャストの推薦で決めた人もいる。3話と4話を監督したザル・バトマングリッジも、彼が監督した『ザ・イースト』を見たカーラがすごくいい作品を撮ると勧めてくれた人物だし、9話を監督したニムロッド・アーントルは『モーテル』というホラー映画を撮った監督なんだけど、マットの方からすごくいい作品だからぜひ見て欲しいと言われて作品を見てみたら、僕自身もすごく気に入ったから声をかけたんだ。
――TVシリーズにおいてパイロット版はかなり重要ですが、そのパイロットを撮影するにあたって最も注意した点はどんな事だったんでしょう?
実は最初はパイロット版の重要性をあまり分かっていなかったんだ。だから製作スタジオのFOXから、目標とするべき事なんかをレクチャーしてもらったんだ。TVシリーズは1話だいたい45分くらいだけど、映画の中の45分であれば、ある程度ペース配分ができるけれど、TVシリーズのペース配分を掴むのにはちょっと時間がかかったよ。だから撮影が始まったばかりの頃は、本当は1時間に50マイル進んでいなければいけないものが、30マイルくらいしか進んでなかったり、でちょっとノロノロ運転だったんだ。でもTVのペースに慣れたら、逆に映画撮影って難しいんだという事に改めて気付いた。わずか2時間の間に起承転結をつけて、さらに観客が満足する形で提供しなければならないんだからね。この作品を制作した事で、映画について新しい手法を学んだよ。
――どんな事を学んだんでしょう?
実は昔ほど自分にプレッシャーを与えながら現場にいるような事がなくなっていたというか、どこかでちょっと緩んでいたところがあったんだけど、TVシリーズをやって、そんな自分に気付いて反省したんだ。緩んでる場合じゃない、スプリント・ランナーみたいにならなければいけないんだって。だから『ウェイワード・パインズ』の後に撮った映画『THE VISIT』では、ずっとスプリント・ランナーのような姿勢で撮影に挑む事が出来た。観客的な視点にも変化があって、すごく謙虚な気持ちになったよ。TVっていうのはいつでもチャンネルを変えられるから、常に視聴者を惹きつけなくてはならない。もちろん映画だって気に入らなければ途中で出ていく事は可能だけど、基本的には例えつまらないと思っても出ていく人は少ないよね。わざわざ映画館に足を運んでくれている観客をいかに楽しませるか、それは視聴者を惹きつけるためにいろんな工夫をするTVから学ぶ事がたくさんあったよ。
――TVシリーズをやってみて、もっと早く知っていればと思った事は?
テクニカルな面で言えば、ドラマをやって学んだのは、TVっていうのは撮影したシーンをいちいちプレイバックでチェックしないという事。だから『THE VISIT』でもプレイバックは一切使わなかったんだ。これはなかなか勇気がいる事だったけど、実際やってみたらすごく良かった。プレイバックを使わないというのは、実は長い間考えていた事ではあったんだ。でも『THE VISIT』の前に撮った2本の作品には結構CGも使われていたから、そうなってくるとプレイバックなしでは難しいんだよね。CGスタッフはプレイバックを見ながら、細かい部分を調整するから。でも今後は勇気を振り絞らなくても、「TVではこうしてる」って堂々と言えるようになったよ(笑) 技術的な面でなくても、やっぱりいつでもチャレンジする事、そして緊張感っていうのは大事だと痛感したよ。以前海外のTV局の重役と話していた時、作品のアイデアについて聞かれて、窓の外を見ながらその場で思いついた事を言ったら、「いいね、買いましょう!」って言われたんだけど、そんな風に必要に迫られてイマジネーションが生まれる事もあるわけだし、どんな時でもチャレンジする姿勢を持っていなくてならないんだ。
――必要に迫られた時以外に、監督のその独特のアイデアの着想というのはどんな時に生まれるんでしょう?
それは多分キャラクターと設定の枠の中から生まれてくるものだと思うんだ。その両方が面白いと思った瞬間に、僕はその状況について、そのキャラクターについてもっと知りたいと思うんだよ。例えば飛行機事故で唯一残った男性に、ちょっとイカれた人が来て「実はあなたはスーパーヒーローなんだ」と言う、という設定があったとして、もっと知りたいと思ったらそこから話が生まれてくる。常にその先を知りたいという好奇心がアイデアの源になっているんだ。
――今回の作品の中で、TVシリーズだからこそのチャレンジになった事とは?
構造上の問題の中でちょっと変えてみたいと思ったのが、通常TVシリーズというのは大きな謎を1シーズン、時には数シーズンかけて引っ張っていくけど、それを僕はシーズンの中盤くらいで明かしてしまったんだ。それは自分にとってすごくエキサイティングな事だったよ。普通なら視聴者はその謎についてずっと「何なんだ」って思って、時にはイライラさせられたり、引っ張りすぎて最後は肩透かしをくらったりするけど、『ウェイワード・パインズ』は5話で謎が明らかになって、そこから全体の意味について視聴者が考える事ができる作りになっているんだ。それって『LOST』で言えば、シリーズ最大の謎がシリーズ中盤で明らかになってしまうっていうくらいある意味乱暴な事なんだけど、それをTVシリーズで実現出来たのはすごくチャレンジングな事だったよ。
――最後に、シャマラン監督はよく自分の作品にカメオ出演していますが、今回は?
残念ながら今回はしていないよ(笑) でも今後『ウェイワード・パインズ』がシリーズになったら、その時はどこかに登場したいね(笑)
Photo:『ウェイワード・パインズ 出口のない街』M・ナイト・シャマラン監督
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