ここ数年、空前のアメコミ・ブームが到来しているTV界。次々と新作が登場する中、アメコミ・ベースの作品ながらその独自の世界観で人気を集めているのが『GOTHAM/ゴッサム』だ。
映画『ダークナイト』シリーズに登場したジェームズ(ジム)・ゴードンの新人刑事時代にスポットを当てた本作は、闇の騎士が登場する以前のゴッサム・シティを舞台にしたクライム・ドラマだが、これまで原作コミックスや映画シリーズでは多くを語られる事がなかったゴードンの人間像を深く掘り下げていくと同時に、数々の有名ヴィランの若き姿を描いていくキャラクター・ドラマが大きなポイントになっている。
その魅力はゴードンを演じるベン・マッケンジー曰く「スーパーヒーローのいないヒーロー・ドラマ」だという事。主人公のジムは腐敗がはびこるゴッサム・シティの中で正義を貫こうとする誠実な人物だが、通常のアメコミ・ドラマの主人公のようにスーパーパワーを持っているわけでもない。ただ愚直なまでに自身の考える正義に向き合い、葛藤しながらも前へ進もうとしている。ジムの相棒であるベテラン刑事ハービー・ブロックにしても、裏社会に通じ、状況次第では見て見ぬふりすらするが、彼なりの正義の一線というものを持ち、それを曲げないようにサバイブしてきたタフな人物だ。
両親を何者かに殺害され、幼くして天涯孤独の身になった少年ブルース・ウェインは、自ら両親殺害の真相に迫ろうと、時に危険な状況に身を投じる。執事のアルフレッドはそんな彼を守るためなら、命を懸ける事も辞さない。彼らはみな、スーパーパワーにも特殊な技術にも頼らず、己の身ひとつで悪に立ち向かっていく。そんな彼らの姿を通して、様々な正義の形を描き出していく本作は、まさにスーパーヒーローのいないヒーロー・ドラマだと言える。
ヒーローがいれば、それに対峙するヴィランの存在も重要になるが、その点でも『GOTHAM/ゴッサム』は魅力にあふれている。周囲から蔑まれながら、実は誰よりも残虐で野心を持ったペンギン、そのペンギンのボスで、ゴッサム・シティの裏社会の頂点を狙うフィッシュ・ムーニー、暗黒街のボスで政界にも通じるファルコンなど、強烈な個性を持ったキャラクターが続々と登場する。そして何より、誰もが知る有名ヴィランの誰も知らない若き姿がじっくりと描かれているのが、第2のポイント。ペンギンはどうやって暗黒街でのし上がっていくのか、リドラーは如何にして悪に堕ちていくのか、キャットとブルースの出会いとは!? など、原作や映画のファンなら思わずニヤりとしてしまうストーリーが満載だ。ポイズン・アイビーやトゥー・フェイス、スケアクロウやハーレクインと思われる人物や、ゆくゆくはジョーカーも登場する予定だと言うからこれは見逃せない。
そしてドラマの舞台となるゴッサム・シティそのものがまた魅力的だ。以前のバットマン・シリーズのデフォルメされた都市ではなく、『ダークナイト』シリーズの世界観を踏襲し、現実世界を反映させたこの街は、ニューヨークのようでもあり、アル・カポネら大物マフィアが暗躍した時代のシカゴの雰囲気も併せ持つ。リアルでありながらフィクショナルな舞台は、まさに『GOTHAM/ゴッサム』の世界観を象徴しているのだ。
こうした仕掛けがドラマの大きな魅力になっているが、『GOTHAM/ゴッサム』はまず人間ドラマありきでしっかりとした世界観を構築し、原作や映画を知らない人でもノワール風の犯罪ドラマとしても十分に楽しめる。こうしたドラマ作りの鍵となるのがクリエイターのブルーノ・ヘラーだ。『メンタリスト』のクリエイターとして知られている彼だが、もともとHBO製作のドラマ『ROME』で名を挙げた人物。重厚な人間ドラマを繰り広げる群像劇こそ、彼の得意分野なのだ。『GOTHAM/ゴッサム』のバラエティ豊かなキャラクターと、複雑に絡み合う人間ドラマはまさにその手腕が発揮されていると言えるだろう。アメコミ・ベースの作品ながらリアルに根差したドラマ作りで、ジャンルものの枠を超え、幅広い層にアピールする作品に仕上がっている『GOTHAM/ゴッサム』。一度見始めたら最後、そのディープなゴッサム・ワールドにグっと引き込まれるのは必至だ。
Photo:『GOTHAM/ゴッサム』
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