ウォシャウスキー姉弟が手掛ける初のドラマ・シリーズ『センス8』。クラスターと呼ばれる互いの意識をシンクロさせる事ができる8人の男女の姿を描いた本作で、主要キャラクターの一人、サンを演じている韓国人女優ペ・ドゥナが来日した。映画『クラウド・アトラス』『ジュピター』に続き、3度目のタッグとなるウォシャウスキー作品で、クールな存在感を放っている彼女。作品の魅力やウォシャウスキー監督との仕事について、『センス8』の驚くべきスケール感について語ってくれた。
――この作品はTVシリーズとしては難解な部分があると思いますが、あなたから見たドラマの魅力はどんな点でしょう?
確かにこのドラマには様々なストーリーやモチーフが盛り込まれていて、しかも登場人物も多いので、最初はちょっと難解に感じるかもしれない。例えば映画なら2時間程度でストーリーを全て語るけれど、ドラマには12時間の時間が与えられているので、そう考えるとちゃんとドラマに適したストーリー展開になっていると思ってるんです。それがこのドラマの優れたポイントになっていて、最初の1、2話は分かり難い部分もあるかもしれないけど、3話、4話と気になってきて、5話以降はもう見ないわけにはいかない、って感じなんです。キャラクターはみなバラエティに富んでいて、人種を超えて様々な姿が描かれているので、見ている方が心を寄り添わせていけるキャラクターがたくさんいるんです。8人の主要キャラクターはみんな、若干社会の中ではアウトサイダー的な存在で、そこに多くの人が魅力を感じてくれるのではないかと思います。それにひとつの作品の中にいろんな文化が描かれているのもこの作品の長所です。例えばムンバイの祭の様子だったり、サンフランシスコのパレードの様子だったり、都市の持ついろんなカラーを知る事ができるんです。そういう多彩な魅力があるので、みなさんきっとドラマに没頭する事ができると思います。
――あなたが演じるサンはストーリーが進むに連れどんどんカッコ良くなっていって、見ていて惚れ惚れしていたのですが、あなたから見たサンはどんな人物ですか?
私もサンの事はすごくカッコイイと思います。彼女は幼い頃から長い間ずっと気持ちを鍛錬してきた人で、だからこそどんな状況でも落ち着いていられる。彼女は何事かに左右される事があまりないんです。何か悲しい出来事があっても取り乱したりせず、冷静を保っている。でも彼女がそうした態度でいられるのは、人知れず荒波を潜り抜けてきたからだと思います。だから彼女はカリスマ性があるし、戦いを楽しんでいるようなところもあるんです。実は彼女、戦っている時だけ、微笑んでいるんですよ(笑)。 それが彼女が戦いを楽しんでいる証拠ですよね。彼女にとっては戦うという事が唯一、今の状況から抜け出せる出口のようなものなんです。サンは途中から刑務所の中にいるわけですが、サンフランシスコで仲間がピンチになったら、寝ていてもパっと起きてすぐに助けに行く。そういうところが演じていてすごく楽しかったです。誰かが危機的状況にあると、サっと行ってサっと戦って、風のように去って行く。どこか英雄的な部分を持っている人物ですね。
――アクション・シークエンスについてはどんな訓練をしたんですか?
アクションに関しては本格的に挑戦したのは今回が初めてだったんです。だから長い時間をかけて訓練したんですが、トレーニングの時は振付のようなものも習って、スタントの人たちときちんと段取りをつけていったんです。だから撮影しながも常に次のアクション・シーンの振付を習っているような感じでした。でもせっかく覚えた振付も結構現場で変更になって......(笑)。 例え1か月練習したアクション・シーンでも、現場に行ったらあっさり変更されたりするので、結構即興的な対応というか、融通が必要でした。だから練習している時もあんまり信じていなかったんです。これは使われるか分からないな、って(笑)。
――8人のキャラクターが意識をシンクロさせていくのもこのドラマの魅力ですよね。
このドラマはSFだと言う人もいれば、スリラーだったりラブ・ストーリーだったり、見る人によって見方が変わってくるかと思うのですが、その中で揺るぎない核となるのが、登場人物たちが精神、つまり心をシェアリングする事だと思うんです。それによってシリアスにもなれば、ユーモラスになることもある。サンが生理中の時にメキシコにいるリトに、生理痛の症状が出たりして(笑) 誰かが寂しい気持ちでいたり、また何かを決断しなければいけない時にも、登場人物みんなが同じ気持ちで共有するんです。完成した作品を見て改めてこのドラマがすごいなと思ったのは、8人みんなの気持ちの波が一緒なんです。例えば誰かが孤独を感じた時、誰かのその感情にみんなが影響されるのではなく、それぞれが同じ時に同じような孤独を感じていて、それがシンクロしていく。特にみんなで一緒に歌を歌うシーンはすごく好きですね。
――ウォシャウスキー監督たちはどんな方なんですか?
今回『センス8』で一緒に仕事をして、さらに尊敬の気持ちが強くなりました。実は今回の作品にはCGなどはほとんど使用していないんですよ。あの人が入れ替わったように見えるシーンも、ダンスの振付のような感じで全て合成なしで演じているんです。あの2人の中にはそういうアイデアがたくさんあって、脚本を読んだ時にはどう撮影するのか想像もできないシーンも、いとも簡単に撮影してしまうんです。普通ならCGで処理するようなシーンをカメラワークだけで切り替えていくという新たな一面を知る事ができたので、『クラウド・アトラス』や『ジュピター』の頃よりもさらに尊敬の気持ちが大きくなりました。それに彼らは俳優たちと家族のように接してくれるんです。私たちが決して寂しい状況に陥らないよう心を配ってくれました。彼らはモニターの後ろで常に俳優たちの心を見てくれます。監督であると同時に作家でもあるので、キャラクターの事を繊細に話す事ができるんです。確かに即興的な現場ではあるけれど、土台は決して変わらない。でも良いアイデアが浮かべばためらう事なくトライしていくんです。今回、私の出演シーンが例え1、2シーンしかなくても、何週間も現場に一緒に行ってたんです。もしかしたら明日ドゥナが必要になるかもしれないからって(笑)。 実際そんな風にして取り入れられたシーンもいくつかありました(笑)。
――今回でウォシャウスキー姉弟との仕事も3度目になりますが、その中でも一番驚いた事は何ですか?
私、なかなか驚かない性分なんです(笑)。既に韓国で即興的な監督さんたちと仕事をしてきたので、いろんな事に慣れてしまっていて、ちょっとやそっとじゃ驚かなくなりました(笑)。他の外国の俳優さんだったら戸惑ったり驚いたりする事もあったかもしれないですが、少なくとも監督に驚いたりはしなかったです。ただ今回の撮影で私が一番驚いた事を話すと、サンのオフィスが出て来るんですが、そこでデスクの上に急に鶏が登場したシーンにはさすがにちょっと驚きました。ソウルのど真ん中のオフィスビルの中での撮影だし、CGで処理すると思っていたら、本物の鶏が出てきたのでビックリしました(笑)。
――さきほど出演シーンがなくても現場に行っていたとおっしゃってましたが、このドラマの中には8か国9都市もの場所が出てきますよね。あれも実際に周っていたのですか?
そうなんです。今回はセットでの撮影がほとんどなくて、ほぼ全編現地ロケだったんです。最終話まで全て脚本が出来上がっている状態だったので、1本の12時間の映画を撮るような感じでした。それでそれぞれの都市を周って撮影していったんです。サンフランシスコから始まって、そこの3週間滞在して12話までのサンフランシスコのシーンを全て撮り、その後シカゴに移動して12話までの必要なシーンを撮影し、次はロンドンに行き......という感じでスタッフも俳優たちもみんな一緒に引っ越しながら、だいたい各地3週間くらいで撮影していました。他にもメキシコとかムンバイとかアイスランドなどにも行きましたが、アイスランドは夏と冬のシーンが必要だったので、まず夏のシーンを撮影してからムンバイに移動し、アイスランドが冬になってからまた戻って冬のシーンを撮影しました。7月にはシカゴで撮影していたのですが、それは独立記念日の花火を作品の中に収めたいという事で、どうしても7月4日はシカゴで撮影する必要があったからなんです。サンフランシスコではゲイ・パレードも撮影したし、ムンバイでこの日に祭があるとなれば、その日に行って一番リアルなタイミングで現地の様子を撮影していたんです。その都市ごとに大事なイベントがある時はそこに合わせて撮影するようにしていました。
――この作品には家族というテーマもあると思いますが、その辺りはどう解釈して演じていたのですか?
今質問されるまで家族という事はあまり意識していなかったのですが、彼らの能力によってクラスターというまた新しい家族が生まれる、という流れでもあるので、確かに家族としてのテーマもありますね。私が演じている時には、家族という事よりも、以前日本で撮影した『空気人形』で出てきた「命は」という詩が浮かんでいたんです。その詩の内容というのが、人間というのは一人では完成しないもの、お互いに入り混じって人は完成できるんだ、というもので、花にはオシベとメシベがあって、それをハチが繋いで、みたいな話だったんですけど、そんなふうに人はお互いを必要としているんだなって事を、この詩を通して感じながら演じていました。でも家族の意味もそれに通じるものがありますよね。今悟りました(笑)。
『センス8』はNetflixで配信中!
Photo:ペ・ドゥナ
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