『ベター・コール・ソウル』ソウル/ジミーの声を担当している安原義人インタビュー

『ブレイキング・バッド』の人気キャラクター、ソウル・グッドマンを主人公に、彼がジミー・マッギルからソウルへとなるまでの姿を描くスピンオフ作品『ベター・コール・ソウル』で、本家から引き続きソウル/ジミーの声を担当している安原義人。数々の吹替えを担当してきたベテラン声優ながら、謙虚な姿勢を持ち続ける彼は、「あんまりちゃんとしゃべれませんけど」と前置きしながらも、軽妙なトークで『ベター・コール・ソウル』はもちろん、本家『ブレイキング・バッド』の魅力をも語ってくれた。

 

――『ベター・コール・ソウル』は『ブレイキング・バッド』のスピンオフですが、ソウルが主人公になると思っていましたか?

夢にも思ってなかったです(笑) そもそもスピンオフというのをやった事がなかったんですよね。「そんな事があるんだ、世の中に」って思ったもん(笑) スピンオフってそんなにたくさんないですよね? 日本だと『相棒』くらいしか思いつかない(笑) 最近多いんですか?

――昔よりは増えているので少ないというほどではないと思いますけど、すごく多いわけでもないですよね。やっぱり本家の人気がなければできないものですし。それに最近はフランチャイズ式が多いので、『ベター・コール・ソウル』のようにサブキャラクターを主役にするスピンオフは正統派と言えますね。

そうですよね。ソウルは『ブレイキング・バッド』には途中から登場したのですが、それがここまで......。私、Tシャツ持ってますよ、ソウルの(笑) やっぱり人気あるんですよね。今日着てくれば良かった、失敗した(笑)

 

――キャラクターとしてもやっぱり面白い人物ですが、安原さんから見たソウル/ジミーの魅力とは?

やっぱりちょっと悪っぽいところですよね。『ベター・コール・ソウル』でのジミーは、言ってみればチンピラがのし上がっていくっていう感じなので、そういうのに人は魅力を感じますよね。ただの優等生よりは、落ちこぼれがだんだん弁護士になっていく姿がいいわけで。まぁ、たいした弁護士にはなってないんだけど(笑) 半端な男がだんだんのし上がっていくところが、こちらとしてもすごく好きだし、楽しいですよ。

――よくよく考えてみれば彼も一応弁護士なわけで、弁護士って本来エリートのイメージじゃないですか。それを落ちこぼれキャラにしているのが絶妙ですよね。

そうそう。お兄さんはちゃんとエリートなんだよね。でもジミーはお兄さんとは逆の、ドロドロした部分もある人間臭い弁護士になっていく。

 

――『ベター・コール・ソウル』ではソウルの過去が描かれると同時に、マイクとの関係も大きくクローズアップされていく事になりますが、マイク役の有本欽隆さんとのコンビネーションはいかがですか?

ちょうどいい感じじゃないかな。あのいい声で渋くキメてくれて。こっちはそんないい音持ってないから、のたうち回ってセリフを崩しまくるみたいな(笑) ホント、両極端なんですよ(笑)

――お二人とも大ベテランですし、その二人の掛け合いの妙がファンの人も楽しみだと思うんですよね。もっとも、マイクはそれほどしゃべるキャラクターではないのですが(笑)

あれがいいんですよね。なんでも、マイクの出演が最も早く決まったそうですよ。ソウルを主役にスピンオフを作ることになって、「じゃあ、他に誰を使うんだ」ってなった時に、彼が最初に浮かんだそうで。存在感ありますもんね。ああいうのには勝てないですよ。こっちは口八丁手八丁でやってくしかないし、でもその対比が面白いんです。

 

――ジミーを演じる上で気を配っている事などはあるんでしょうか?

そうですね。(ジミー役の俳優)ボブ・オデンカークが持っているスピード感とか、言葉に対するリズムとか、そういったところは崩さないようになんとかついて行きたいと思っていて。今のところついて行ってるだけなんですけど、まだ続くのであれば、最終的には自分のものにしていきたいとは思ってます。彼の持ち味を壊さないように、そこに自分の個性を乗せていく。自分の言葉として話せるよう、翻訳の人にも頼んでます(笑)

――TVシリーズの場合、シーズンがいつまで続くか分からないところが難しいですよね。

そうなんですよ。いきなりキャラクターがいなくなったりね。それが怖い(笑) でも今回はさすがにソウルがいなくなる事はないと思うけど。向こうも気合い入ってるみたいだし。

――とはいえ長いスパンで見ると、やっぱり予測がつかないですよね。どういう経緯で『ブレイキング・バッド』に繋がっていくのか、全然見えない。

『ブレイキング・バッド』もそうでしたもんね。もうどうなっちゃうの?って感じだったし。ウォルターって先生だったんでしょ? 俺は途中からの参加だったから、最初どういう話なんだ?って思ったもん(笑) 冴えない奴が変わっていくという点では『ベター・コール・ソウル』も同じだよね。彼も結構とんでもない目に遭うんだけど、それが快感なんだよね。人の不幸は蜜の味で(笑)

 

――最終的に行き着くところは『ブレイキング・バッド』のソウルなわけですが、そこに至るまでのジミーの紆余曲折が見どころですよね。

やっぱり人間臭いところがいいんですよ。人間の裏側を描いているところが見ている人にとっては面白い。そもそもみんな変なやつばっかりですよね。それがすごく好き。

――まっとうな人はいないですよね(笑) でも、まっとうじゃないけど、決して不自然じゃないところがすごいと思います。

それはもう俳優の力だと思います。『ブレイキング・バッド』も『ベター・コール・ソウル』もそうなんだけど、特に女優がいい! 『ベター・コール・ソウル』でも、キムの声を聞いてるだけでグっと来るんだよね。あと、『ブレイキング・バッド』なら主人公のカミさんの女優(アンナ・ガン)なんて、もう最高だよね。あの人出てきてくれないかなって思ってるんだけど(笑)

――今後の展開次第では無きにしもあらずですよね。

そうだよね(笑) だいたいマイクだって『ブレイキング・バッド』に出てきた時は、「よう!」って感じじゃなかったよね。いつ知り合ってたんだ!?って(笑) そういうちょっと無理やりなところもないわけじゃない(笑)

 

――スピンオフだけにどうしても『ブレイキング・バッド』の影響というのは避けられないですが、ドラマとしては違いも出していかなければならないですよね。そういう意味で、安原さんの中でソウルを演じていた時と、ソウルになる前のジミーを演じる時とで、意識している点なんかはあるのでしょうか?

そうなんだよね。俺も最初に『ベター・コール・ソウル』の台本をもらった時は、ひと言も俺の役のセリフがないじゃん!ってなったよ(笑) で、一歩置いてから「あ、(役名が)ジミーだった」って気付いた(笑) 基本的には調子のいい男だな、って感覚でやっているから、特にソウルとジミーの違いは意識してないですね。

――登場人物みんなキャラが濃いですけど、吹替えの現場はどんな感じですか? 錚々たるメンバーが揃っていて、吹替えキャストも相当濃いな、と思ったんですが(笑)

これはもうだって、羽佐間道夫さん(ジミーの兄チャック役)が出てますからね。楽しいですよ~。羽佐間さんがいるともう楽しくて仕方ない(笑) チャックは結構渋い役なんだけど、羽佐間さんがやると人間臭さが加わってもっと面白くなるんですよ。

――現場では羽佐間さんがムードメーカーなんですか?

もちろんですよ。私は師匠だと思ってますからね。羽佐間さんは完璧にはやらないんですよね。ちょっとセリフを崩してくる。あの感覚はずっと見習いたいと思ってるんです。吹替えメンバーは相当豪華ですよ。悪いけど『ブレイキング・バッド』より豪華なんじゃないかと思ってます(笑)

 

――安原さんも長年吹替えをされてきて、最近のドラマは変わったと思うようなところはあるんですか?

脚本が面白いと感じる作品が増えましたね。それにスピード感。そこが私なんかは好きなところなんですけどね。あと、結構アブないセリフも平気で言ってますよね。そのブラックなところは「え、いいの、そんな事言っちゃって」と慌てる事もあるけど、好きなんですよね。そういう脚本はすごいと思います。

――ちなみに、言っていて楽しいセリフなんていうのはありますか?

ソウルに関しては全部楽しいですよ。彼はもうほとんど詐欺師みたいなものなので、話していてすごく楽しいんです。

――安原さんはこれまでたくさんの映画・海外ドラマで吹替えをされてきて、ゲイリー・オールドマンとかリチャード・ギアとか錚々たる俳優の声を担当されてますよね。その中でソウル/ジミーというのはどんな存在ですか?

一番好きなんですよ、ジミーみたいなキャラクターが。カチンとしたキャラクターはダメなんです。だいたいC調か、ちょっといっちゃってるワルか、どっちかなんですよ(笑) 優等生とか軍人とかマッチョとか、そういうのはできない(笑) そんな低い声も持っていないし、セリフをこねくり回してやるのが昔からのやり方なんだけど、ソウルは本当にやっと巡り会えたと思えるキャラクターなんです。今までもいろいろ演じてきたけど、こんなには話さないから。ジミーみたいに1時間しゃべりっぱなしみたいなキャラクターはこれまでいなかったから、やっと巡り会えたという感覚はすごく強いですね。

――まさに運命の出会いですね。ではドラマとして、ここは要注目だと思うポイントは?

どう転んでいくのか分からないけど、やっぱり人間関係ですよね。優等生な弁護士の兄と落ちこぼれ弁護士の弟の確執だとか、同じ弁護士でもハワードのような弁護士もいて、その関係も面白い。そこにキムも絡んできて、キャラクターの持っていき方がすごく上手い。みんなすごく存在感があるし、俳優さんもいい。相当な実力を持ってますよね。

 

――その中でもお気に入りのキャラクターというと、やっぱりキムですか?

はい(笑) いやほんと、音がいいんだよ、この人は。ちょっとハスキーで、男っぽい声だから、吹替えで声を当ててるとどっちがどっちだか分からなくなる(笑) いやほんとあの声はいい。それとやっぱり『ブレイキング・バッド』のカミさんね(笑) いやぁ、女優の使い方が本当に上手いよ、ここのスタッフは(笑)

――では最後に、『ベター・コール・ソウル』を見ようかどうしようか迷っている人に、背中を押すひと言をぜひお願いします。

そうですね、私、安原のセリフ回しをお楽しみ頂ければ。これからもっと上手くなりますから! まだ今は成長過程で、もっと上手くなりますんでよろしくお願いします。私の成長に期待して下さい!(笑)

 

『ベター・コール・ソウル』シーズン1 商品情報
ブルーレイ&DVD発売、DVDレンタル中

■COMPLETE BOX【初回生産限定】ブルーレイ
3枚組(第1話~10話収録) 12,000円+税
■COMPLETE BOX【初回生産限定】DVD
3枚組(第1話~10話収録) 9,333円+税

※レンタルはDVDのみとなります。

発売元・販売元:(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

Photo:『ベター・コール・ソウル』
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