「あなたの知らないアカデミー賞へ!」放送後記 Vol.1 本年度の未放送インタビュー&中継秘話を初公開!!!

「We all dream in gold.」

これが2016年のOSCARSのキャッチフレーズです。
黒をベースにした今年のポスターには、金色の、この文字が踊りました。

 

「私たちは皆、黄金の夢を見る」

レッドカーペットの装飾は、ゴールドを基調にデザインされたことで、
いつになく眩しく見えました。今年は上空も素晴らしく晴れてくれましたしね!!
今年、一緒に現地ナビゲーターを務めて下さった武田梨奈さんのお着物も
背中の大きな帯が金色(こんじき)で素敵でした。

そしてオスカー像の金色。

あの色は本当に、何度目にしても良いものです。今年であの場に臨むのは
6回目でしたが、何回足を踏み入れても、あの高揚感と祝福ムードは特別で、
映画人にはたまらないものなんです。毎回、初心の時のように身が引き締まり、背筋が伸びます。

さて、今年のWOWOWのアカデミー賞生中継は

『あなたの知らないアカデミー賞へ!』

というテーマでお届けしたわけですが、本コラムでは、中継時間の都合で
放送に映像が乗らなかった、あるいは語れなかったトピックをお届けします。

 

よくツイッターなどで、視聴者の方が

「レッドカーペットをずっと映してくれていればいいのに...」

あるいは、

「生中継なのに、なんで収録済の(インタビュー)VTRを流すんだよ?」

という感想を、呟いていらっしゃるのを目にします。

お気持ちは、とっても分かります。
でも、もちろん、中継の形には理由があるんです。

レッドカーペットが正式にオープンし、出席者たちが到着し始めるのは、午後2時。
武田梨奈さんと僕は、それより早い午後1時頃から中継地でスタンバイしています。
ここから、授賞式の始まる直前の午後5時過ぎまで、レッドカーペットでの
インタビューの奮闘が続くんです。

つまり約3時間、トイレに行くことも無く(笑)、演技賞ノミネート者の俳優・女優20名、
監督賞候補の5名、そのほか撮影スタッフや、他の部門の候補の皆さん...
そして今年に関して言えば、総勢50組以上のプレゼ ンターやパフォーマーたちを
待ち受けるわけです。

 

彼らがレッドカーペットに到着する時間は、まったくバラバラ。誰がいつ来るのかも判らない。
もの凄く早い時間帯に注目のノミニーが現れることもあれば、待てども待てどもなかなか姿が
見えてこない時間帯もあります。逆に、一気に話題のスターたちが同時刻に押し寄せてしまうことも!!

この3時間のうち、授賞式の前にWOWOWの東京のスタジオとレッドカーペット上の僕らとを
つなげてお届けする生のアカデミー直前番組は『1 時間』。
(※授賞式スタートが間近に迫ったところで、現地の放送局ABCが全米に流す映像に
切り替わります。授賞式の最中も、CM中の間だけ、 東京のスタジオでカビラさんや高島さんや
ゲストの皆さんが解説や感想トークをお届けしていく... というのが全体像です)

つまり武田さんと僕のペアが挑み、成功したインタビューの数々は、"ライヴ"の部分も、
"収録"の部分も、その『1時間』に凝縮してお伝えしなくてはならないんです。

皆さんに、より多くのスターたちの表情や声をお届けするために、生中継開始の直前まで
僕らがすでに捕まえている相手のインタビューは、当然、収録済の映像になります。

過去5回、僕はこの中継に挑んできたわけですが、必ずしもこの「1時間」の間に
スターたちがタイミングよく報道陣の前に登場するとは限らず、レッドカーペット上には
目立った人物がいない状態が何分間も続くこともあり ます。

そういう、空白の時間を無駄にしないように、東京では猛烈なスピードでVTRの編集を進め、
より多くの収録インタビューをこまめに挿入したり、 スタジオの町山智浩さんらを中心に
作品賞候補作などの解説(※ 多くの候補作がこの時点では日本未公開なので、作品や候補者について
知っていただくために)をお送りしているのです。

本当に分刻み・秒刻みで、東京のスタジオとロサンゼルスの中継地を、その時の状況に合わせて
切り替えているんですよ。

 

今年の挑戦で言えば、まさに"LIVE"の中継の瞬間に、主演男優賞候補の
ブライアン・クランストン(『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男(TRUMBO)』) の「コンニチワ!」の挨拶の流れから、
『クリード チャンプを継ぐ男(CREED)』 で助演男優賞にノミネートされていた大注目のシルベスター・スタローンを、
我々のカメラの前に迎えた一部始終を皆さんにお届けできたこと、
そこから続けて3月に世界公開となる『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生
(BATMAN v SUPERMAN DAWN OF JUSTICE)』の主役ヘンリー・カヴィルを捕まえ、
(この部分はVTR収録となりましたが、現地の僕らには連続して起きています!)彼の素の
フレンドリーな表情をお届けできたこと、
さらにその後、再びLIVE映像の間に主演候補のマイケル・ファスベンダー(『スティーブ・
ジョブズ(STEVE JOBS)』)の笑顔と日本への挨拶もキャッチした展開は、
現地で戦う者としては本当に心の中でガッツポーズものなんです!!!

毎年、狙いを絞った人物が必ず捕まるとは限らないですから。

僕が一番話を聴いてみたかったのは、言うまでもなく本年度の目玉といえるレオナルド・
ディカプリオ (『レヴェナント:蘇えりし者(THE REVENANT)』)でしたが、さすがに
彼は米国の大手メディアに引っ張りだこで、捕まえることが叶いませんでした。

主演候補の多くは、ABCの中継ステージにライヴで登場することが最優先です。次に
優先するのが米国内の主要メディア。スターたちのパブリシスト(広報担当者)も
いかにそれらの取材を確実に、時間通りに受けるか、その課題で必死なのです。
150メートルあるレッドカーペット上にひしめいている、ほとんどの外国メディアには
応える時間は残念ながらありません。特にカーペットの半分以降は素通りで手を振る
だけになっていきます。

そういう、一瞬、一瞬の判断の闘いの状況下で、あの日のカーペットで、

『リリーのすべて(THE DANISH GIRL)』の演技で助演女優賞を
見事に獲得したアリシア・ヴィキャンダー、

最多6部門を受賞した『マッドマックス 怒りのデス・ロード(MAD MAX
FURY ROAD)』のジョージ・ミラー監督、

プレゼンターの中でも注目の的だった『ルーム(ROOM)』のジェイコブ・トレンブレイくん、

そして作品賞を最後に獲得した『スポットライト 世紀のスクープ(SPOTLIGHT)』
のトム・マッカーシー監督、

といった方々に、比較的じっくり語ってもらえたことなどは奇跡なんです、本当に。

僕らの取材エリアは、今年もエンターテインメント・チャンネル『E!』のライアン・シークレストの
真横でした。カーペットの入り口に近い、素晴らしいポジション。
そんな好位置に陣取っているからこそ、これまで6回、素晴らしいスターたちがWOWOWのカメラの
前で語ってくれているんです。

それでもやはり、あっという間の「1時間」。

話したくても時間の許さなかった話題や、皆さんに観ていただきたかったのに間に合わなかった
インタビューというのが毎年あります。

まず、放送時の同時通訳では少し伝わりにくかったかもしれない話題をここでご説明します。

これも(心の中で...笑)ガッツポーズでしたが、きっと日本の映画ファンも大いに喜んでくれたであろう
と思うのが、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒 (STAR WARS THE FORCE AWAKENS)』の
主人公レイ役で一躍世界的なスターになったデイジー・リドリーをキャッチできたことです。

僕は、スター・ウォーズについての質問の他に、もうひとつ、『ONLY YESTERDAY』という
タイトルの作品について彼女に聞きました。このタイトル、実は2月に米国市場で初めて英語吹き替え版を
公開したスタジオジブリのアニメ『おもいでぽろぽろ』のことなんです。デイジーは、米国版で
主人公タエ子の声を演じています。プレゼンターとしてオスカーの場に登場するのは、もちろん
この作品の宣伝も兼ねているからなんです。声を演じた感想を聞いてみると、彼女は満面の笑みで、
「そうよ、タカハタ(高畑勲監督)よ! あぁ...もう最高だったわ。ビジュアルが驚くほど美しくって...」
と、ジブリの世界観に飛び込んだ感動を語ってくれました。

この言葉を彼女から聞きたかったんです! パブリシストからは「質問はひとつだけ!」と言われて
いたのですが、そこは瞬時の駆け引きです。二つ目をぶつけてみて大正解でした。

毎年誰かしら、発する言葉や佇まいに魅了されてしまい、その場でファンになってしまうような
スターがいます。過去には、クリスチャン・ベール、マシュー・マコノヘイ、J.K.シモンズなど...。

今年、もの凄く僕にとって好印象だったのは、『スティーブ・ジョブズ(STEVE JOBS)』で
助演女優賞にノミネートされていたケイト・ウィンスレットです。

 

ディカプリオと伴って、粋な演出でレッドカーペットに登場した彼女。この時、僕らの付近の
取材エリアには、彼女ら二人の他に、レディ・ガガ、スティーブン・スピルバーグ監督、
マーク・ライランス(『ブリッジ・オブ・スパイ(Bridge of Spies)』で見事に助演男優賞を
受賞)、クリスチャン・ベールらが一気に流れ込んできていました。

もう、こうなるとカオスです(笑)。
いったい、誰を捕まえることができるのか...。

彼らのほとんどが、レッドカーペットの中央に走っている、"優先レーン"で先を急ぎ、
主要メディア以外には対応できませんでした。授賞式開始が刻々と迫っているからです。

その中で、ケイトが僕らのもとに来てくれたんですよ♪

 

その模様の全文です:

ケイト: 「(武田さんの着物を見て)わぁ、すごい」

「ハロー!」

W: 「おめでとうございます!」

ケ: 「どうもありがとう」

W: 「レオと一緒に出てくるなんて、素敵でしたねぇ」

ケ: 「そうなの、興奮するわね。素晴らしいわ」

W: 「"ジョアンナ・ホフマン" を演じましたね、非常にチャレンジングな役柄でした」

ケ: 「本当に。大きな挑戦だったわ」

W: 「どうしてこの役を引き受けたんですか? 何が決断させたんでしょう?」

ケ: 「脚本が送られてきて、それを見た時、アーロン・ソーキン(脚本家)って
書いてあったの」

W: 「そうですよね!!」

ケ: 「来たわっ!って思ったわ。こういう(彼の名の入った作品の)脚本を
受け取るには、優れた俳優でなくてはならないの。
役を読んでみると、とてつもないチャ レンジになると感じた。
自分とはまったく異なる人物だったし。マイケル・ファスベンダー、
ダニー・ボイル監督とも仕事できる。そういうすべての要素があって決めたのよ」

W: 「あなたの役の描写は完璧でした」

ケ: 「ありがとう。親切ね」

W: 「こちらこそ、ありがとうございます!」

ケ: 「本当にありがとう」

彼女は脚本を手にしたときの喜びを、目を輝かせて語ってくれました。
アーロン・ソーキンは、映画『ソーシャル・ネットワーク』やテレビドラマ
『ニュースルーム』で知られる、米国でも最高峰に位置する売れっ子脚本家です。
僕は、『ア・フュー・グッドメン』の舞台と映画版の脚本が大好きで、
それ以来のファンなので、ケイトの興奮がとても嬉しかったんです。

肩を露出したラルフ・ローレンのドレスも決して派手でなく、むしろ表情や
髪の輝きを引き立てていて、彼女の堂々としたオーラにも惹き込まれました。

さて、今回はさらにもうひとつ、

放送に乗らなかった、かなり珍しいやりとりを公開しましょう!

この6年間で初めて、前述したエンターテインメント・チャンネル『E!』の
ライアン・シークレストが、WOWOWのカメラに向かって語ってくれたんです。
彼は、『アメリカン・アイドル』などで世界的に知られる、米国屈指の名ホストです。

本来であれば、オスカーの会場で、ライアンの真横で、国と放送局は違えど同じ
ミッションを背負ってマイクを握っているなんて、あり得ない。
このことだけでも、6年前からすでに「奇跡」なんです、実に(笑)♪

 

今年は、レッドカーペットが開く前の準備中に武田さんを彼に紹介していた時から、
本番途中でいいタイミングがあれば、僕らのカメラの前に登場してくれる
と、 彼は言ってくれていました。

実際には、やはり本番途中にはこちらも向こうサイドも、番組をクロスオーバー
するのは難しいわけですが、ケイト・ウィンスレットのインタビューを終えて
一息ついた頃に、それが実現したんです。

もう、授賞式へのカウントダウンが始まっている夕刻ですから、ライアンの手が
空いていたんですね。

きっかけは、彼が僕らと記念撮影をしようとしてくれた時でした。

W: 「ライアン、(我々の中継に)入ってくれる? 出てくれる?」

と問いかけると、

ライアン: 「もちろん!」

まずは武田さんと一緒に自分の携帯でセルフィーを撮っているライアン。

僕は驚きながら、カメラに向かって話します。

W: 「(日本語で)ライアン・シークレストさん、いつも隣で凄く親切にして
下さってるんです」

W: 「(ライアンに)日本の皆さんにメッセージを頂いてもいいですか?」

ラ: 「(日本の視聴者に向けて)皆さんが観て下さっていること、素晴らしいです。

(武田さんと僕の肩に腕を回して)彼らは、レッドカーペット上でベストの
インタビュアーなんだよ。
彼らが話していることを僕はずっと聴いていて、彼らが俳優たちにしている
質問を全部盗んでいるんだ!
だから、アメリカ側の私たちの放送を助けてくれているんだよ、ありがとう!」

W: 「おぉ! なんて親切な(笑)」

ラ: 「会えて嬉しいよ」

W: 「あなたの隣に今年もいられることは誇りですよ!」

ラ: 「そうだ、僕らはタキシードのサイズも同じくらいだから、お互いシェアできるね」
いつでも隣で頼むよ。

(武田さんに)君はラブリーだね♪ 多くの成功、おめでとう! 今夜は楽しんでね」

W: 「ありがとう」

ラ: 「(最後にカメラ目線で)では、スタジオにお返ししま す!!!」

もう、僕も武田さんもスタッフも、彼とのやりとりに大笑いでした。常にジョークを
忘れないんですねぇ。まさか、あのライアン・シークレストからレッドカーペットの
ホストぶりに関して褒め殺しにあうなんて(笑)。

「授賞式」と聞くと、正装もするし、"かしこまった場" とつい思ってしまうでしょう。
でも、実際は違うんです。
皆があの場で、気さくにカジュアルに振る舞っています。

映画を「祝福するお祭り」だから、堅苦しくないんです。

それをあらためて感じさせてくれたライアンのサービス精神旺盛のショーマンシップ
でした。さすが、一流の司会者です。

 

このやりとり、是非映像でお見せしたかったですねぇ。

でも、こういう素敵な「一瞬」を生中継の時間内に乗せるべく、もっともっと
機転を利かせ、反省を次に生かしてみたいと思います。

こんな秘話が隠れている、怒涛の3時間を武田梨奈さんと僕は過ごしていたんです。

本当に、

「What a lovely day!!!!!」(ジョー ジ・ミラー監督に、開口一番、投げかけた言葉♪)

と言える、素敵な1日でした。