文学で読むルシウス・ファミリーの関係 『Empire/エンパイア 成功の代償』

華やかな音楽業界の裏側で渦巻く権力争いをゴージャスに描く『Empire/エンパイア 成功の代償』。今回は、元ネタであるウィリアム・シェイクスピアの四代悲劇の一つ「リア王」との比較を交えて、『Empire』の世界を紹介していきたい。

「リア王」は、年老いて領土と財産を三人の娘に譲ることにした王リアが主人公。娘たちのうち、上の二人は父親を褒めそやして望むものを手に入れる一方、秘蔵っ子だった末の娘コーディリアは父親への愛情を言葉で飾り立てることを嫌ったためにリアの怒りを買い、勘当されてしまう。その後、上の娘たちにないがしろにされたリアは狂気に陥り、廃人同然のところをコーディリアに助けられるも、最後は彼女ともども陰謀によって命を落とす...というストーリーだ。

対して『Empire』の主人公は、難病により余命半年と宣告されたルシウス・ライオン。彼は一代で築き上げた音楽レーベル、"エンパイア(帝国)"を三人の息子の誰に継がせるかを決めようとする。三人の子どもが「娘」から「息子」へ、そして選ばれるのは一人のみと、後継者争いにより重点を置いた内容となっている。その中で、コーディリアに当たる存在と言えるのは次男のジャマル。父親以上の音楽の才能に恵まれているが、同性愛者であることからルシウスに受け入れてもらえない。父親の望むような言動をせず、自分らしくあろうとして勘当されるという展開はコーディリアと同じだ。とはいえ、長男のアンドレ、三男のハキームも父親をないがしろにすることはなく、むしろ彼らは三人とも重度のファーザー・コンプレックスを抱えている。偉大な父に認められたい、愛されたいという欲求が彼らの争いの原動力となっているのだ。そのためなら兄弟の足を引っ張ることも、他人を使って襲撃することも厭わない。

そんな後継者争いに首を突っ込むのが、ルシウスの別れた妻クッキー。下積み時代のルシウスの裏稼業、ヤクの運び屋の仕事を手伝い、一人で罪を被って17年間服役していた彼女は、突然の刑期短縮により出所。獄中の彼女と別れて若い女性と付き合っているルシウスを敵視し、"エンパイア"における経営権を主張してくる。「リア王」に妻は出てこず、獄中に入っていた登場人物もいない。だが、クッキーはドラマオリジナルのキャラクターというよりも、リアの娘たちの合わさった姿と言えるのではないか。ルシウスの傲慢ぶりを責め立て、隙あらば会社を自分のものにしようとする姿は強欲な上の娘たちと重なる一方、彼の病気を知った時や息子たちが困難に陥った際に慈悲深く支える様はコーディリアを彷彿とさせる。クッキーのこの二面的な性格は、家族だからこその複雑な関係性も現しているのだろうが、三人の娘の集合体と見ればよりしっくりとくる。

もちろん、「リア王」はあくまでもベースであり、物語の大部分はオリジナルだ。同じように悲劇的な最後を迎えるとは限らない。ただ、ルシウスのファミリーネームは「ライオン」であり、リアの末娘の名前「コーディリア」は「ライオンの心」を意味すると言われている。そうしたことも念頭に置いておくと、より深く『Empire』の世界を楽しめるのではないだろうか。

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■ルシウス・ライオン
ラッパーとして数々のヒットを飛ばした後、自身のレーベルを立ち上げて、今やアパレルなど他の分野にも手を広げて"帝国"を築いた帝王。周囲を意のままに動かしたがり、逆らう者には激昂する、唯我独尊的な性格。ある日、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病にかかっていると診断されるが...。

テレンス・ハワード...『ハッスル&フロウ』(2005年)でルシウスの若き頃を彷彿とさせるラッパーを演じてアカデミー賞主演男優賞候補に。『Ray/レイ』『クラッシュ』『アイアンマン』『ビッグ・ママス・ハウス』などシリアスからアクション、コメディまで様々なジャンルで活躍。M・ナイト・シャマラン(『シックス・センス』)の手掛けるミステリードラマ『ウェイワード・パインズ 出口のない街』にも出演している。

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■クッキー・ライオン
ルシウスの別れた妻であり三人の息子たちの母親。17年間刑務所に入っていたが突然出所する。確かな耳と商才、度胸を持ち合わせており、音楽面でもルシウスを支えてきたが、今は愛憎半ばする関係。

タラジ・P・ヘンソン...本作でゴールデン・グローブ賞の女優賞を獲得。また、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』でブラッド・ピット扮する主人公の育ての母を演じ、アカデミー賞助演女優賞候補となった。テレンスとは『ハッスル&フロウ』で共演済。『Person of Interest/パーソン・オブ・インタレスト』のジョス・カーター役でも知られる。

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■アンドレ・ライオン
ルシウスの長男。兄弟の中で一人だけ音楽の才能がないものの、大学で経営を学び、父親の会社をサポートしている。大学時代から双極性障害に苦しむ。

トレイ・バイヤーズ...名門イェール大学の演劇部門で学ぶ。青春ドラマ『新ビバリーヒルズ青春白書』でアレック・マーティンを演じた。また、公民権運動を描いた『グローリー/明日への行進』にも出演している。2016年4月、本作の共演者、アニタ役のグレース・ギアリーと結婚。

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■ジャマル・ライオン
ルシウスの次男。R&Bを得意とするシンガーソングライター。父親をもしのぐ音楽的な才能を持つ。同性愛者であることで父親から認められず、心に傷を負っている。

ジャシー・スモレット...『飛べないアヒル』や『ノース/ちいさな旅人』で子役の頃から活動。『リベンジ』にゲスト出演していた。『エイリアン』シリーズ最新作『Alien: Covenant(原題)』への出演が決まっている。自身もシンガーソングライターであり、2012年にミニアルバムをリリース。同作放送開始直後に大手レコード会社と契約を結んでいる。本編で歌った数曲は自ら書いたもの。

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■ハキーム・ライオン
ルシウスの三男。父親同様、ラップを得意とする。生まれて間もなく母親が刑務所に入り、その後一度も面会に行くことを許されなかったため、クッキーとは疎遠。

ブリシェア・グレイ...16歳で音楽の道に入り、様々な音楽フェスに出演。ラッパーとしての名前はヤズ・ザ・グレイテスト。同作放送開始直後、ジャシーとともに大手レコード会社と契約した。実在のボーイズグループを描くドラマ『New Edition: The Movie』に出演することが決まっている。

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<作品情報>
『Empire/エンパイア 成功の代償』はPlayStation™Videoで配信中!

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Photo:
テレンス・ハワード
タラジ・P・ヘンソン
トレイ・バイヤーズ
ジャシー・スモレット
ブリシェア・グレイ
(C) Everett Collection/amanaimages
『Empire/エンパイア 成功の代償』
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