『ザ・クラウン』直撃インタビュー:スティーヴン・ダルドリー編

今なお絶大な影響力を持つ英国女王エリザベス2世の知られざる素顔を浮き彫りにしていくNetflixオリジナルドラマ『ザ・クラウン』。1952年に25歳で即位して以来、女王として、エディンバラ公爵フィリップの妻として、母として直面する葛藤をドラマティックに描いている。本作から、製作総指揮・監督を務めるスティーヴン・ダルドリー、主演のクレア・フォイ(『ウルフ・ホール』)とマット・スミス(『ドクター・フー』)に話を聞いた。

『リトル・ダンサー』や『めぐりあう時間たち』の監督として知られるダルドリーは、『クィーン』の脚本家ピーター・モーガンとともに舞台『ザ・オーディエンス』でもエリザベス2世を取り上げていた。クレアはエリザベス2世、マットは彼女の夫エディンバラ公爵フィリップを演じる。1回目の今回はダルドリーのインタビューをお届けしよう。

 

――なぜ今、『ザ・クラウン』という作品を作ろうと思ったのですか?

脚本家のピーター・モーガンと舞台『ザ・オーディエンス』で一緒に仕事をしたことがきっかけなんだ。これは歴代の英国首相がエリザベス女王と謁見した様を描いているんだが、映画『クィーン』の脚本家でもある彼と組んだことでこの題材に対する興味が深まっていったんだよ。この作品でのエリザベス女王はまだ若い頃で、突然即位することになった経験の浅い女性が、非常に大変な時代を、年老いたウィンストン・チャーチル首相に導かれて歩んでいくという面白いストーリーを描きたいと思ったんだ。

 

――モーガンとともに本作を作る上で特に気を使ったことは?

今回はドラマシリーズということで、90分や120分の映画ではできないようなストーリーを描くことができた。シリーズ1では女王の妹であるマーガレットとピーターの関係、女王と彼女を取り巻く人々の関わり合い、チャーチルと若い秘書の友情といった事柄も掘り下げられた。キャラクターやストーリーに深みを持たせて、非常に自由に作れたんだ。Netflixは素晴らしいパートナーで、私とピーターに大きな自由を与えてくれた。女王と肉親の関係、彼女の結婚生活といった英国王室に関する物事について、どこまで踏み込むのか、どういうテイストにするのかといったことはこの作品を作る上でポイントになったところなんだが、そういうことを判断するにあたってNetflixは一切口を挟まなかった。私とピーターだけで決めることができたんだ。

――製作総指揮、監督を務めるあなたは、いつ頃からこの作品に関わっていたのですか?

最初からだよ。今から3年前にNetflixと会合を持ったんだ。その時、ピーターは第1話の脚本の一部をすでに書いていて、それを見せながら、まずは20時間分のストーリーを作りたいと伝えた。Netflixの反応はすごくポジティブで、その最初の会合の中でもうYESと言ってもらえたのさ。

――本作は全6シーズンで、2シーズンごとに時代が10年以上飛ぶことを受けて、主役の二人、エリザベスと夫フィリップを演じる俳優が代わるという記事を読みました。主役交代という選択はリスクが高いと思いますが、CGやメイクアップの技術が進歩している中、同じ俳優に演じ続けさせるという選択肢を取らないのはなぜですか?

女王の人生を長期間にわたって描くにあたって、クレア・フォイ一人にずっと演じさせるのは難しいからだよ。我々は当初から、女王の若い頃、中年の頃、そして...シニアの頃という3つの時代にはそれぞれ別の女優をエリザベス役に起用しようと考えていた。クレアに老けメイクをさせるのも大変だし、もし作品が好評で7、8シーズンも続くことになればクレアを長い間拘束することになってしまうからね。その方が理に適った判断だから、そう決めたんだよ。ちなみに断っておくと、中年期のキャスティングは、今話している段階でまだ決まってないよ。

 

――クレア・フォイ、マット・スミス、ジョン・リスゴーらのキャスティングについて教えてください。

ジョンの舞台での演技をずっと観てきたんだ、これまで多くの英国俳優がチャーチルを演じてきたが、アメリカ人が演じるのはフレッシュな試みだと思う。彼はチャーチル役には背が高いが、彼にはそれを補ってあまりあるほどの深みと技術がある。実は渋る彼を私が説得したんだが、チャーチルは母親がアメリカ人だったので、それほど突飛な選択ではないと思う。女王役のキャスティングにあたっては実に多くの才能ある女優に会ったが、クレアのスクリーンテストを観て、すぐに彼女こそこの役を演じる人だと分かった。彼女には女王に必要な深み、複雑さ、ストイックさをしっかり表現できたからね。マットとの相性も素晴らしかった。マットは男らしさを体現するだけでなく、フィリップの孤独感も表現しなければならなかったが、見事にこなしてくれた。全員、素晴らしい演技をしてくれたと思う。

――多くの人が楽しめるような娯楽的な作品を作りながらも、実在する人々の真実を描くということで、その2点のバランスはどのように取っていたのですか?

どこから話せばいいかな...。本作は私に言わせると、大きな変化に見舞われる家族のエモーショナルな作品だ。若い女性が突然、大きな重圧を背負うことになり、それにより家族内でも緊張が生じるというのは、非常に現代的なテーマだと思う。彼女は国の君主、英国教会の首長としての重圧に耐えながら、海軍の軍人である夫を持ち、強い女性であらなければならなかった。これは、世界中の女性が現在直面している問題でもあると思う。今は政治の世界でも女性のリーダーが数多くいるしね。そこに興味を持ったんだ。そして、エリザベスの場合は女王でありながらも自分の意見を言うことができない。自分の意見を胸に秘めたまま、求められる振る舞いをしなければならないことで葛藤を抱えている。これは批判ではないが、エリザベスは少し偏った教育を受けていた。それなのに突然、世界中のリーダーと、世界で起きていることについて話さなければならなくなったことで引け目を感じてしまう。また、英国教会の首長としてモラル面での手本でもなければならない。こうした事柄は非常に現代的だから、視聴者もなぞらえて見ることができると思う。だから、この作品は歴史シリーズではなく10時間の映画というイメージで作ったんだ。

 

――あなたのこれまでの作品の主人公は一般の人々でしたが、今回は英国王室。おそらく予算がご自身にとって過去最高額だと思いますが、そのことにプレッシャーは感じましたか? また、これまでとアプローチの方法を変えたりしましたか?

いや、我々はこの作品はドラマシリーズではなく10時間の映画ととらえていたので、アプローチは変えていないし、妥当な予算だと思う。宮殿が舞台なので壮麗さが必要だし、数多くのエキストラや豪華な衣装も必要になるからね。我々が実現したいことについてこれだけの製作費がかかることをNetflixは理解してくれた。実在する英国王室の人々を描くということで膨大なリサーチをして、そこで知り得た出来事のいくつかを本作は描いているわけだけど、物事は観ている人の視点によって変わるものだ。『ザ・クラウン』が描いているのは、出来事に対する我々なりの解釈だと考えてもらいたい。ドキュメンタリードラマを作っているわけじゃないからね。

――日本では皇室の方々はアンタッチャブルな存在のため、皇室を舞台にした作品を作ることが考えられないのですが、英国王室は『クィーン』や今作のように何度も映像化されています。監督は、王室の人々についてどのように考えていらっしゃるのでしょうか? ピーター・モーガンは、以前「英国の王室はゴシップやスキャンダルの格好のネタで、国民の娯楽的要素になっている」と発言していますが、あなたのご意見は?

エリザベス女王は非常に人気がある。もしも今、王室を存続させるべきかという国民投票を行ったら、「存続させるべき」という意見が85%以上の票を集めると思うよ。女王の人気は上がったり下がったりしてきたけれど、彼女が激動の時代を生き延びてきたことは多くの人が同意してくれると思う。ヨーロッパの様々な国が君主制から共和制に変わっていく中で、英国はいまだに君主制だ。政治家に失望させられることがあっても、その上に女王が存在していることで安心できるのは貴重なことだと思う。しかし、君主制というのはバカげたものだよね。だって、女王自身は、神が彼女を女王にしたのだと信じていると思うから。神に選ばれた存在だと信じるのは少し途方もない話だ。国民は王室の人々に特別な思いを抱いているが、娯楽的に見てはいないと思う。スキャンダルといえば、本作ではマーガレットの相手であるピーターが一般人であり離婚を経験していてスタッフだったことで、彼らの結婚をめぐって家庭も国も引き裂く事態に発展していく様を描いている。ただ、私自身は女王に多大な尊敬を抱いているよ。特に、難しい時代を生き延びてきたことは素晴らしいと思うからね。

 

英国君主としての苦悩と、妻であり母である一人の女性の情熱と葛藤が描かれる『ザ・クラウン』は、Netflixにてシーズン1が配信中。

Photo:『ザ・クラウン』
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