「今」だからこそ人々をいっそう魅了する。マーベルを知り尽くした男が語る、マーベル作品の凄み

70年以上の歴史を誇り、今やコミックだけでなく映画、ドラマ、ゲーム、アトラクションなどあらゆる形でファンにエンターテイメントを提供しているマーベル。なぜこれほどまでにマーベルが私たちを惹きつけるのかについて、入社16年目、バイスプレジデントのC・B・セブルスキー氏に話を聞いた。大学卒業後に日本で4年あまり暮らしたという日本通でもある彼が語る、アメコミの世界の魅力とは。

"マーベルが伝えているのは人間ドラマ。人間性を持ったキャラクターであり、どんな人にも愛してもらえる存在であるということを分かってもらわないと"

――まずは、あなたのお仕事の内容を教えてください。

マーベルでいろんな仕事に関わってきたよ。ライター(脚本家)、コンサルタント、編集者、タレントのスカウトとね。そして今は上海に住んで、アジアにおけるブランド管理&開発を担当しているんだ。具体的にどんなことをしているのかというと、アジア全域にあるディズニーの支社と組んで、マーベルのテレビ、ゲーム、コミック、スマートフォンのデジタルコンテンツなどを展開させていくために適したクリエイターやパートナーを探したり、今後どんなことが新たにできるかを模索したりといったことだね。今では誰もがマーベルの映画を知っている。僕の使命は、マーベルの映画を観に行った人が次のマーベル映画が公開されるまでの空白期間に、その作品を楽しめるような別のスタイルを提供し浸透させることなんだ。それぞれのキャラクターのストーリーはコミックやゲームにも描かれているし、Tシャツなどのグッズを通してその世界に浸ることもできるからね。
中には、スーパーヒーローの世界がよく分からない人もいるよね。スーパーヒーロー=派手なコスチューム姿でスーパーパワーを持ったキャラクターでしょ?って。でも、彼らはみんな、スーパーヒーローである前に、英雄的な考えを持ったリアルな一人の人間なんだ。ピーター・パーカー、トニー・スターク、スティーヴ・ロジャーズといった彼らの素顔を人々に伝えていくのも僕らの役割なんだよ。マーベルが伝えているのはそうした人間ドラマだ。人間性を持ったキャラクターであり、どんな人にも愛してもらえる存在であるということを分かってもらわなければならないと考えているよ。

――編集者としての経験から、アメリカのほか、日本やヨーロッパのコミックにもお詳しいそうですが、他国のものと比べてアメリカン・コミックの魅力とは何でしょう?

アメリカのコミックとヨーロッパのコミックには、アメリカのコミックと日本のマンガよりも大きな差があると思う。マーベル・コミックに登場するヒーローはそもそも普通の人間で、その頃から善行をしていたけれど、何かのきっかけ、往々にしてスーパーパワーを得たことを機に、より大きなことを成し遂げていく。日本のマンガも似ていて、「機動戦士ガンダム」「ドラゴンボール」「ワンピース」「スラムダンク」などでも、リアルな登場人物が問題に遭遇し、何かしらのコスチュームを身につけて大きな冒険に繰り出す。唯一の違いとしては、マンガはそれぞれの世界は繋がっていないけれど、マーベルはあらゆる登場人物が壮大な一つの世界に存在していることだね。

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――アメリカン・コミックスには世界情勢を反映したキャラクターやストーリーが存在しますよね。昨今、様々な社会問題が報じられる中、アメコミの何がこれほどに今の人々を惹きつけるのだと思われますか?

いい質問だね。「今」というのがキーワードだと思う。現代では過去に例がないほど、インターネットやSNSを通じて、人々が世の中に存在する様々な悪をリアルタイムで目にできるようになった。マーベルのコミックはいろんなレベルで物語を展開しているけれど、根底にあるテーマは善と悪なんだ。こういう言い方は良くないかもしれないけれど、現代には悪のアイデアがいっぱいあるよね。ただ、問題があって、誰もが実際に世の中で起きているニュースはテレビや新聞を通して知っているから、それをマーベルが繰り返しても意味がないんだ。人々がマーベルを読むのは、ある意味で現実逃避のためだから、CNNで報じられていたニュースがそのまま載っていたら楽しめないよね。極端に言えば、キャプテン・アメリカが北朝鮮と戦うことはできないといった風にね。テロに対しても同じで、何か特定の事件をストーリーに組み込むと、反ってテロのプロモーションになってしまうから避けなければならない。ストーリーを選ぶにあたっては細心の注意を払う必要がある。言い換えるなら、事件の背景にあるテーマを入れるのはいいけれど、再現してはいけないということだね。だから、マーベルで描かれるリアリズムというのは、人々の現実逃避になるものでなければならないんだ。

――マーベルでライター(脚本家)もされていたとおっしゃっていましたが、そうした条件下でどうやってストーリーを考えていらしたのですか?

僕はそもそもマーベル・コミックを読んで育った世代だから、キャラクターたちのことを熟知していて、彼らは僕の親友と言っても過言ではないくらいの存在なんだ。だから、様々なシチュエーションでこのキャラクターならどう行動するだろうと考えながらストーリーを練っていった。往々にして、素晴らしいストーリーというのは作り手のパーソナルな要素が反映されているものだ。だから僕自身も、自分が経験したことや目にした事件を、僕がスーパーヒーローだったらどう行動したか、そのキャラクターならどう行動したかといった風に考えていった。例えば、スパイダーマンのストーリーを考える時は、スパイダーマンではなくあくまでピーター・パーカーとしての視点に立つ。ピーターは高校生だから、自分の高校時代を思い返して、それを背景にしてピーターならどう行動したか、さらにはそれによってスパイダーマンがどういう出来事に巻き込まれていくのか、どんな活躍を見せるのかについてイメージしながら物語を構築していったんだ。ただし、編集者からこういうストーリーを書けと言われたら、従わなくちゃいけないんだけど(笑) 冗談はさておき、マーベルではコラボレーションを本当に重要視しているんだ。ここではコラボレーションが実現しやすい環境にあり、編集者、脚本家、アーティストが連携している。これまでのマーベルの歴史を見ても、特に素晴らしい物語というのは脚本家とアーティストがいい意味でコラボレーションしたことで生まれたものだと思う。例えば、スタン・リーとジャック・カービー、ジョン・ロミータ・Jr、スティーヴ・ディッコが作り上げたものだね。

――マーベルはコミックスのほか、映画、ドラマシリーズ、ゲーム、アトラクションなど様々な形で展開しており、映画一つをとってもMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のように一つの大きなジャンルを築いていますが、映画とドラマ、コミックスと映画、というように違う分野のものをうまく結びつけるためのポイントとは何ですか?

マーベルはすごく距離感が近い職場で、みんなが手を携えて、一致団結して仕事をしているんだ。よく人から「どうすればマーベルに入社できるの?」と聞かれるんだけど、君がマーベルの出版部門、映画部門、ゲーム部門、法律部門といったどの部門で働きたいにしろ、絶対に一つだけ持っておかなければならないのは、マーベルのキャラクターの素晴らしいストーリーを伝えたいという強い気持ちだ。僕らはとにかくマーベルのキャラクターが大好きな人間の集まりだから、他の部門がどんなことをしているのかについて興味津々なんだよ。出版部門の人がテレビや映画やゲームの人の仕事ぶりを眺めたり、ゲームの人がコミックを読んだり、アニメの人が映画とうまく関連させたりしている。みんなが自分のやっていることを周囲と共有し、互いのやることにとてつもない興味を抱いている集団なんだけど、その根底には、自分が子どもの頃から愛しているものをより多くの人に知ってもらいたいという情熱があるんだよね。マーベルのもう一つの秘密は、従業員が何千人もいるような大企業だと思われがちだけど、実はフルタイムで働く社員は350人くらいということかな。

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――6月2日(金)よりMovieNEXが発売となるドクター・ストレンジは、魔術を使うという異色のキャラクターですが、彼のどんな点に注目してほしいですか?

新しい映画なので新しいキャラクターだと思われがちだけど、ドクター・ストレンジはマーベルの歴史では古いキャラクター(1963年に初登場)で、長年続いているんだ。マーベルは現実世界を反映していると話したけど、キャラクターは二つのタイプに分けられると思う。一つは、一人でパワーを得て判断し行動するタイプで、キャプテン・アメリカやアイアンマン、スパイダーマンがそれに当たる。もう一つは、誰かから教えてもらってパワーを得たり、誰かと相談しながら行動するタイプだ。後者に当たるスティーヴン・ストレンジは、他のキャラクターと同じくいろんな欠点を持っていて、事故によって外科医として重要な手の機能を失った後、悪の道に足を踏み入れそうになる。だけど、たまたま周囲に助けられて正義の道を歩むことになるんだ。これは今の時代で大きな意味を持つメッセージだと思う。現代では自分だけでやっていこうとする人が多いけれど、誰であっても決して一人では生きていけず、周りの助けが必要で、それを求めていいんだということを、このキャラクターは教えてくれるんだ。あと、この作品のCG技術は、それまでは実現不可能と考えられていたようなものを表現している。世界の先端を行っている日本のアニメの技術に並んだと言えるようなシーンがたくさんあるよ。

――六本木ヒルズで開催中のマーベル展を拝見したのですが、その展示で注目してほしいポイントを教えてください。

先日訪れた際、僕でもこれまで目にしたことのないようなものがたくさん展示されていて、涙が出そうなくらい感動したよ。1939年に発行されたマーベル・コミックの初版から、少し前に配信スタートしたばかりの『Marvel アイアン・フィスト』も観られるなんて、そんな展覧会はこれまで行われたことがなかった。だから僕のお薦めは、全部だね。例えば、特に興味があるのが映画であっても、それを生んだコミックも観てほしい。そしてオリジナルアートを観れば、いかにしてキャラクターが生まれたのかが分かるはずだ。興味の対象は人によって様々だと思うけど、ぜひ何も飛ばすことなく全部観て、その流れを堪能してもらいたい。どんな人でも楽しめるものが集合しているから。

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「マーベル展 時代が創造したヒーローの世界」は6月25日(日)まで六本木ヒルズ森タワー52階 東京シティビューにて開催中。同期間中は、「マーベル プロジェクト@六本木ヒルズ」というスペシャルプロジェクトも展開しており、六本木ヒルズ各所で飲食店での限定メニュー、等身大フィギュアの展示、フォトスポット設置といった形でマーベルの世界観を楽しむことができる。

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また、マーベル・スタジオが贈る"超感覚"映像体験『ドクター・ストレンジ』は6月2日(金)にMovieNEX(4,000円+税)発売、5月3日(水)先行デジタル配信開始! マーベルが放つ、闇を切り裂くリアルなアクション『マーベル/デアデビル シーズン2』ブルーレイ&DVDも、6月2日(金)同時リリース、デジタル配信開始!

Photo:
C・B・セブルスキー氏
『ドクター・ストレンジ』
(C) 2017 MARVEL