今年のLAスクリーニングは粒ぞろいの新シリーズが多かったように思える。お気に入り番組トップ5に入りきれなかった新シリーズがこんなにいくつもあるのは初めてかもしれない。ここ数年TVドラマの熾烈な生き残りバトルが繰り返されるうちに、番組の質がますます向上している証なのだろう。
そんなわけで、トップ5に入りきれなかった秀作新シリーズのお話しをチョコッとさせていただく。実話を元にしたミュージカル・ドラマ『Rise』という新シリーズがやたらと印象に残っている。
Behind every dreamer stands a believer. From Jason Katims, #Rise is coming soon to @NBC. pic.twitter.com/OYMmmtJYix
— Rise (@NBCRise) May 14, 2017
やる気のない生徒たちを前に苦悩する高校の教師が、情熱を持って目的に向かう素晴らしさを生徒に感じてもらいたいと思っていた矢先に、優秀だがマンネリ化したミュージカル・クラブの責任者となるチャンスが舞い込んでくる。定例の発表会で、当たり障りのないこれまでの出し物から、問題を定義しティーンの心に訴えかけるミュージカルを新たな出し物として決定し、生徒たちはもちろん学校の関係者や生徒の父母たちも巻き込み、試行錯誤しながら生徒と共に成長していく、というのが第1話。「金八先生」(古っ!)のミュージカル版とでも言おうか。本来はミュージカルが苦手な筆者も大いに気に入った本シリーズは、最近のテレビ番組ではあまり見かけなくなった、"見ていて元気の出るドラマ"で、以前『glee』や『ハイスクール・ミュージカル』が大いに流行った日本でもかなり受けるのではないかと思う。
気がついたら番組紹介になってしまったが、『Rise』に関してはぜひ一筆しておきたかったので失礼させていただいた。
さて、毎年LAスクリーニングでは新シーズンのドラマのテーマで流行りというか、重なるテーマがある。去年はとにかく『CSI』タイプの犯罪サスペンスものが目白押しだったが今回目立ったテーマは、テクノロジーを過剰に使いすぎると人間にどのような影響が及んでくるかという趣旨のドラマがいくつかあったことだ。
お気に入り番組トップ5でも取り上げたが、『Reverie』はかなりの秀作だった。VR(ヴァーチャル・リアリティ)ソフトの使用過多で中毒になり、脳が現実に戻ってこなくなったことから仮死状態となったユーザーの命を救うためにその人の心理に入り込み、現実に連れ戻す役を引き受けることになった 元人質交渉人が主人公のドラマだ。この"中毒"は、人間の脳の構造から行って十分にあり得る問題で考えさせられた。
また、トップ5にはランキングしなかったが、クラウド・ソーシングを使用した犯人指名手配をテーマにしたサスペンス・ドラマ『Wisdom of the Crowd』も、犯人逮捕のために、どこまで個人のプライバシーを犠牲にするべきなのか、それともしないべきなのか...。これはテロが世界的な問題となり個人情報を政府が入手する/しないでもめている今の世の中において、絵空事ではない現実のテーマだ。
実際にはありえない世界に招き入れてくれる現実逃避型ドラマも好きだが、近い将来に社会問題として浮上してくるであろうテーマを扱っているドラマも感情移入が半端なくできて、最高に楽しめる。最近の海ドラはクオリティも映画に劣らぬ素晴らしさだし、ハリウッド大作映画では手のとどかないようなカユいところにも手がとどく(!?)ニッチでバラエティに富んだ内容を提供してくれる。だが提供する側は、ファンのワクワク度を、例えば10話連続(約10時間前後)維持しなければ、視聴率低下でお払い箱になってしまう。第1話目が最高でも、その以降ガス欠状態に陥り、結局鳴かず飛ばずでキャンセルの憂き目を見る新番組も少なくない。果たして来年の今ごろ、今回のスクリーニングで見たうち幾つの新番組が生き残っているだろう?新シーズンの生き残りバトルも楽しみだ。
(取材・文: 明美・トスト / Akemi Tosto)