英国一の人気にもなった探偵、そのプレリュードを奏でる本格ミステリードラマ『刑事モース~オックスフォード事件簿~』

英国の人気推理作家コリン・デクスターが作り上げた"モース警部"の若き日の活躍を描いた本格ミステリードラマ『刑事モース~オックスフォード事件簿~』。すでにシーズン4までが全英ITV系で放送され、2018年にはシーズン5が放送予定の人気ドラマだ。

■英国ミステリーの大人気キャラクター、その若き日をドラマ化!

「ミステリーの女王」と呼ばれたアガサ・クリスティ亡き後、英国ミステリーの新たな黄金期を築いた一人でもあるデクスター。彼が作り上げたモース警部は、あのシャーロック・ホームズを抑えて「英国で最も好きな探偵・刑事」第1位に選ばれたこともある大人気キャラクターであり、本作はそのモース警部のこれまで語られることがなかった若き刑事時代の活躍を描いたドラマだ。原題「Endeavour(エンデバー)」は脚本を担当するラッセル・ルイスが考えたもので、原作「死はわが隣人」まで明かされなかったモースのファーストネーム。このタイトルを聞いただけでも原作ファンはワクワクするだろう。

若い頃のモースを描いたデクスターの短編が根底にあるという本作は、魅力あふれる人物としてヤング・モースの活躍を描いている。コンサルタントにデクスター本人が名を連ね、原作ファンも納得のクオリティだ。その出来栄えにデクスターがお墨付きを与えているのは、彼がメイキングで出演者たちと楽しく語り合う姿や、本編に何度もカメオ出演していることからもうかがえる。2017年3月にデクスターは死去したが、"モースイズム"を色濃く引き継いだシリーズと言えるのだ。

■新米から頼れる刑事へと成長! ヤング・モースの魅力

20代半ばのモース刑事巡査は1965年に捜査応援でオックスフォードへと赴任する。真面目で正義感はあるが、頼りない見た目のモース。しかし、オックスフォードで文学を学び、軍隊に暗号兵として所属していたという刑事として変わった経歴を持ち、豊富な知識、優れた観察眼、天才的なひらめきと推理力を備えていた。それを見抜いたサーズデイ警部補に抜擢され、その能力と地道な捜査で数々の難事件を解決していく。だが、その才能ゆえか、モースはのちの時代をうかがわせる傍若無人な振る舞いを取ることもしばしば。そのために当初は周りの反感を買うが、サーズデイの庇護もあり、徐々に頼れる刑事として認められ、サーズデイが「警部の器」と評するまでに成長していく。

 

若きモース役に起用されたのは、英国が注目する若手俳優のショーン・エヴァンス。インテリで繊細なモースを好演しているが、このモースが、やがて原作でおなじみの主任警部時代のモースにどう成長・変化していくのかが本作の大きな見どころだ。主任警部時代は太めの体型で、酒、タバコ、クラシックを好み、女性にも目がない。愛車は赤のジャガーで、趣味はデクスター同様にクロスワードパズル。一方で、刑事時代はクロスワードパズルやクラシックを好む傾向に変わりはないが、ショーンはスリムな体型で見た目が大違い。酒やタバコをたしなまず、女性にも奥手。それがストーリーが進むにつれ、ジャガーの運転手となり、酒は「頭の栄養」とまで言うほど飲み始め、女性との関係も発展していく。このような展開は原作ファンにはたまらないものがあるが、それが分からなくても一人の刑事の成長物語として楽しめるドラマとなっている。

 

■オリジナルから原作キャラまで登場!ヤング・モースを支える仲間たち

少しずつ成長しているとはいえ、まだまだ刑事として、そして人として未熟なモース。そんな彼を支える警察内の仲間たちからも目が離せない。強面ながらも"おやじさん"と周りから慕われ、モースに大きな影響を与えるサーズデイ警部補は、実の息子のようにモースに目をかける。また、事件捜査を担当できる立場(巡査部長以上)でないにもかかわらず捜査をするモースに懐疑的な規則重視のブライト警視正、モースがサーズデイに抜擢されたことを妬むジェイクス巡査部長、優秀だが変わり者の警察医デブリン、美人なだけでなく知的な面も見せるトルーラブ巡査といった魅力的なキャラクターが揃っており、彼らとモースの関係がどう変化していくのかも必見だ。

その中でも原作ファンが気になるのは、原作ではモースの上司である警視正として登場するストレンジだろう。本作では初めは巡査として登場し、モースのよき友人となる。若い頃のストレンジの活躍を見ていると、原作に登場するモースの相棒、ルイス部長刑事の登場も期待したくなるはず。その他にも、モースの過去を知る人物や、モースの家族が登場する。さらに、恋人となる女性たちや、サーズデイ警部補の娘ジョアンとの関係がどう進むのかも気になるところだ。

 

■原作にも負けない!? 謎多き難事件がヤング・モースを待ち受ける!

舞台は1960年代の英国オックスフォード。モースの出身校であるロンズデール・カレッジのロケ地となったマートン・カレッジ、原作「キドリントンから消えた娘」の舞台キドリントンの近くにある美しき庭園ラウシャム・パークといった名所をロケ地としているだけでなく、当時を再現したセット・衣装・小道具をハイクオリティな映像で楽しむことができるのも本作ならではの面白さだ。

デクスター自身が50年以上にわたり暮らした学問の都で、数々の難事件がモースを待ち受けている。原作「オックスフォード運河の殺人」を連想させる19世紀の未解決事件や、ビートルズを彷彿とさせるUKロックバンドに絡んだ事件などを、クロスワードパズルを解くかのごとくモースが解決していく。さらには難事件だけでなく、警察内にはびこる腐敗や昇任試験などの試練にモースがどう立ち向かっていくのかも見逃せない。

 

英国ミステリーの大人気キャラクターの前日譚を描くことで原作ファンを虜にしながら、原作を知らない人にもおすすめできる本格ミステリードラマだ。

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『刑事モース~オックスフォード事件簿~』
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