【日本未公開海外ドラマ】亡くなった母、失われつつある故郷に揺れる姉妹...リアルなロス郊外を描く『Vida』

久しぶりに田舎に戻り、その変わりように目を見張ったことはないだろうか。近代化を誇らしく思うと同時に、失われた幼少期の思い出に思わず心を痛める。ロサンゼルス郊外のボイルハイツでは、そのような変化がひときわ早いペースで街を飲み込んでいる。ヒスパニック系が多く住む街が、白人中心の再開発業者によって永遠に変えられようとしている。米ケーブル局Starzで放送が始まった『Vida(原題)』は、郷愁と街の高級化に思いを揺らす姉妹を描いた、全6話構成のミニシリーズだ。

◆母の死後に判明した思いがけない事実

故郷ボイルハイツの街に呼び戻されたのは、メキシコ系アメリカ人姉妹のリンとエマ。姉のリンは西海岸に住む好奇心旺盛な連続起業家で、東海岸で地道にキャリアアップに励む妹のエマとは好対照だ。母ヴィーダの死をきっかけに、遺されたバーの将来を話し合うため、姉妹は久々に故郷で顔を合わせる。

バーの店舗は、二人が幼い時を過ごした住居でもある。久方ぶりに足を踏み入れた二人は思わず感傷にふけるが、同時に、対処すべき現実的な問題も発生する。閉店の可能性を嗅ぎつけた投資家たちが二人の元へ押し寄せるのだ。辺り一帯は再開発による高級化が進むエリア。姉妹は不動産業者にバーを売るか、困難を承知でバーを引き継ぐかの二択を迫られる。

姉妹の胸には様々な想いが去来するが、予想外の事実が追い打ちをかける。母親が多額の借金を抱えていたことはまだ序の口で、なんと母の同居者でありバーを共に経営していた女性エディは母の「妻」だというのだ。店の売却を迫るデベロッパーのネルソンや、再開発の反対運動に走る旧友も登場し、姉妹は長年離れていた実家に向き合うことを迫られるのだった。

故郷とは何かを問いかける

作品の中核を成すのは、長年疎遠だった肉親とどう向き合うのかという問いかけである。育ててくれた感謝の気持ちと、ある種の反発心が混ざった割り切れない心境は、誰しも経験があるのではないだろうか。米New York Times紙では、本作が確執のあった親への複雑な愛を扱った作品になっていると分析。姉妹は理想的な親に尊敬の念を抱くというよりも、その不完全さも含めた存在として、故人に思いを馳せる。

また、故郷への想いも大きなテーマの一つだ。米Vultureは、育った地に対する複雑な気持ちを綴った作品だと評価している。作中で厳しい態度を貫く妹エマは、再開発に反対する地元の人々に対し地域にこだわりすぎているという言葉を投げるが、一方で、母親と一緒に映る幼少期のホームビデオを見て感傷的になる一面も。一言では表せない地元への想いを紡いだドラマになっている。

実は二人の地元愛は決して架空の物語ではない。ロス郊外では現在、ヒスパニック系が住む地域において、白人による再開発が起きていて、彼らにとっての故郷が失われつつある。米Los Angeles Times紙は、まさに現実に起きている事象をほぼリアルタイムで描いている点に作品の真価があると述べている。

◆見やすいフォーマット 優れたカメラワーク

姉妹を通じてどっぷりと郷愁に浸れる本作だが、卓越しているのはそのテーマだけではない。長尺ものが主流の現在においては珍しく、各話が30分と気軽に見られるよう工夫されている。長編化の傾向にある現代では稀な構成、とNew York Times紙は評価する。

カメラワークにも工夫がある。あえて手持ちカメラを採用したほか、作中ではクローズアップのカットを多用。実際の人間の視野に近いその映像からは、登場人物があたかもそばにいるような感覚を覚えることだろう。Vultureでは「始まりから、『Vida』のストーリー展開は実体験のように感じられる」と表現している。

『Vida』は、失われつつある故郷への複雑な感情を肌で感じることのできる一本だ。(海外ドラマNAVI)

Photo:『Vida』で姉リンを演じるメリッサ・バレッラ(C) Kathy Hutchins / Shutterstock.com