ベストセラー作家マイクル・コナリーによるミッキー・ハラー・シリーズ第2作目「真鍮の評決」をベースに、デイビッド・E・ケリー(『弁護士ビリー・マクブライド』)、テッド・ハンフリー(『グッド・ワイフ』)らが製作総指揮・脚本を務める法廷ドラマ『リンカーン弁護士』が予想以上に面白い。【ドラマレビュー】
予想以上というのは主に配役に関してだが、映画版(小説の第1作を基に2011年に製作)でミッキーを演じたマシュー・マコノヒーの「ちょいワル、バツ2、やる時は徹底的に戦うぜ!的な程良いやさぐれ正義漢」があまりにもハマっていて、新キャストのマヌエル・ガルシア=ルルフォ(『マグニフィセント・セブン』『オリエント急行殺人事件』)に懐疑的だったからだ。ところが、蓋を開けてみたら、魅力溢れる新たなミッキー像を見事に体現し、視聴者をグイグイと物語に引き込んでいく。
『リンカーン弁護士』あらすじ
舞台は、犯罪がひしめくロサンゼルス。事故でしばらく現場から遠ざかっていた弁護士ミッキー(マヌエル)は、知人の弁護士ジェリーが殺害されたことから、彼の弁護士案件の権限を移管される。ブランクのせいで仕事がおぼつかない中、別れた2番目の妻で同僚のローラと調査員シスコの力を借りて、なんとか案件をこなすミッキー。そして調子が出て来たところで彼はドライバーを雇い、トレードマークである高級車“リンカーン”を調達。後部座席を事務所代わりに仕事に邁進し、次第に全盛期の自分を取り戻していく。
落ちるところまで落ちた男の“自己再生”による賜物!?
メキシコ出身のマヌエルは、体格はマシューよりもやや丸みがあって大柄。ラッセル・クロウから燃えたぎる怒りのマグマを8割抜いたような顔立ち(ごめんなさい、主観です)は、安心感のかたまり。弁護の時は強者ぶりを発揮するが、いざプライベートになると、とてもバツ2とは思えない温厚な人柄。別れた二人の妻に対しても、思春期の娘に対しても、異常なほど寛容で思いやりに満ちている。結婚失敗の痛手はもとより事故のトラウマや鎮静剤への依存症など、さまざまな苦い経験を経て、落ちるところまで落ちた男の“自己再生”による賜物とでも言うべきか。
ただ、かなり己を律し、無理をしているのか、唯一、自身の内面を吐露する場所がリンカーンの車内。同じ薬物中毒の経験を持つ女性ドライバー、イジーにだけこれまでの苦悩や家族に対する愛情、仕事への不安と野心を隠すことなく曝け出す。なんだか映画『ドライブ・マイ・カー』のシチュエーションにも類似しているが、ミッキーは間違いなくこのリンカーンの中で乱れた心を立て直し、戦う姿勢を整えている。巧みなカメラワークで捉えた秘密基地のような車内のやりとりも、このドラマの大きな見どころの一つだ。
亡き弁護士ジェリーが遺した“実業家による妻殺し”という最大の事件を縦軸に、そこに絡みつく様々な事件や過去の出来事…サスペンスとしてのストーリー展開はお見事といえるほどヒリヒリする構成だが、その中に“陪審員の選定”という大仕事があって、これがなかなか興味深い。要は、自分が掌握できそうな人材をあらゆる視点から観察し、篩(ふるい)にかけていくのだが、検察側とのその攻防、駆け引きが超スリリング! 果たしてミッキーが選んだ陪審員は狙い通りの思考や行動を示すのか? その辺りも注目して観ていただきたい。
ドラマシリーズ『リンカーン弁護士』(全10話)は、Netflixにて独占配信中。
(文/坂田正樹)
★『リンカーン弁護士』を今すぐ視聴する★
Photo:Netflixオリジナルドラマシリーズ『リンカーン弁護士』