『ツイン・ピークス:リミテッド・イベント・シリーズ』"裏と表"を本編+8時間の秘蔵映像で味わい尽くす!

25年の時を経て、奇跡の復活を遂げた伝説のテレビシリーズの最新作『ツイン・ピークス:リミテッド・イベント・シリーズ』が、約8時間の特典映像を収録した豪華Blu-ray BOX(&DVD-BOX)となって7月4日(水)より遂に降臨! これを機に、ピーカー(『ツイン・ピークス』の熱狂的ファン)はもとより、海外ドラマファンも決して避けては通れない本ドラマが、「いかに偉大なシリーズであるか」を紐解いてみたい。

カイル・マクラクラン演じるデイル・クーパー特別捜査官が、キラー・ボブと一体化し、「How"s Anny?」の言葉とともに幕を閉じた『ツイン・ピークス』シーズン2。あれから25年、再びこの"怪作"を目撃する日が来るなんて想像もしていなかった。多くの謎を残してはいたが、当時、OAを観ていた筆者には、本作の産みの親であるデヴィッド・リンチ監督自身も迷宮に入り込み、出口を見失ってしまったように見えたからだ。「25年後にまたお目にかかる。それまでは...」シーズン2で、ローラ・パーマーがクーパー捜査官に告げた最後の言葉に監督はどんな思いを託していたのだろうか? 続編へのわずかな望みを忍ばせていたとしたら、『ツイン・ピークス:リミテッド・イベント・シリーズ』は、あの時果たせなかった壮大な夢の続き。想像力を熟成させた"真のリンチ・ワールド"がここに詰まっているということだ。

海外ドラマブームはここから始まった

WOWOW開局記念として1991年4月より放送が始まった『ツイン・ピークス』。当時、枯渇状態だったアメリカのテレビドラマ界にあって、本作は強烈なカンフル剤となった。リンチ監督は、「これは映画だと思っている。届け先が劇場ではないだけだ」と語っているが、過激な暴力表現や性描写、特異なキャラクターの起用など、プライムタイムにおける限界ギリギリの映像に挑み、結果、「テレビの常識をぶっ壊す」という功績を生み出すことになる。

もちろん、それは、指揮を執るのが、リンチ監督だからこそ成し得たこと。『エレファント・マン』(81)でオスカー主要8部門にノミネートされ、続く『ブルー・ベルベット』(86)で全米映画批評家協会賞他多数の映画賞を受賞、そして『ワイルド・アット・ハート』(90)では遂にカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢い。『ヒルストリート・ブルース』の製作者マーク・フロストとともに、錚々たる作品群で披露した"狂気"をテレビの中にぶち込むことも、局側を納得させるだけの凄まじいパワーがあった。ただ、エッジが強い分、鬼才ぶりばかり取り沙汰されているが、最新作にも登場し、先ごろ亡くなったハリー・ディーン・スタントン出演の『ストレイト・ストーリー』(99)では、芝刈り機で病気の兄に会いに行く老人の旅を丹念に描いた感動作も発表しており、映画作家として万人の心を打つ感性も兼ね備えていることも特筆しておきたい。破天荒な物語の裏に何かしらのオマージュやメッセージが隠されている"深さ"もヒットの要因だといえるのだ。

CM、来日、バラエティ出演...空前の社会現象を巻き起こす

シーズン1が放送された1991年はバブル末期。好景気の減速に気づいていない国民は、まだまだお祭り騒ぎの中にいた。そんな背景の中で、熱狂的に迎えられた『ツイン・ピークス』。より強い刺激を求めていた時代にも乗って、普段、映画やドラマを観ないライトユーザーも"ブーム"の中に取り込まれた。追ってビデオが発売されると、レンタル店に並んだパッケージから"貸出中"の札が取れることがないほどの人気を博した。1992年、ローラ・パーマー殺人事件の前日譚を描いた映画『ツイン・ピークス-ローラ・パーマー最期の7日間』でPR来日を果たしたカイルは、『笑っていいとも!』などバラエティ番組にも積極的に出演し、ひょうきんな一面を見せるなど、日本でも"愛される"スターとしての地位を確立。そんな人気者を広告業界が放っておくはずもなく、缶コーヒーのパロディCMまで製作され、クーパー役をカイルが演じ、その演出をリンチ監督が手掛けるなど、度を超えた加熱ぶりを見せる。

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さらにブームは加速し、カイルの写真集や『ツイン・ピークス』のガイドブックなど関連本が次々と出版され、ロケ地を巡るツアーには、年間300人以上のファンがシアトルとその近郊スノコルミーに訪れるまでに。挙げ句の果てには、ローラ・パーマーの命日(2月23日)に、新宿駅東口広場に推定3,000人が集まって祈りを捧げるなど、異常なフィーバーぶりを見せた。まさに"社会現象"を巻き起こしたといえる『ツイン・ピークス』。このカリスマ的作品が市民権を得たことで、枯渇していたテレビドラマ界が覚醒し、のちに海外ドラマ人気の立役者となる『X-ファイル』『24-TWENTY FOUR』などを生み出すきっかけとなったことは言うまでもない。

奇跡ではなく必然?カイルの呪文がリンチ監督を動かした!?

昨年の6月、本作のプロモーションのため再来日を果たしたカイルがインタビューの中で、「僕は前シーズンが終わってからも、もう一度クーパー捜査官に戻りたいと願っていたので、何年もの間、ずっとリンチ監督をくどいていたんだ。でも、彼はかたくなに拒否していたので、ほぼ諦めかけていたんだよ」と苦笑いしていたが、たぶん、(これは私見だが)親友でもあるカイルの言葉は、ボディブローのようにリンチ監督の心を打ち続け、前シリーズで何かやり残したこと、くすぶっていたこと、あるいはラストシーンから得た新たな発想に火を付けたのではないかと推測している。カイル曰く、「ある日、リンチ監督から"話がある"と突然電話がかかってきて"どうしたんだい?"って聞くと、"電話じゃ話せない"って言うんだ(笑)」子どものようにもったいぶっているところに、リンチ監督の『ツイン・ピークス』に対する半端ない思いが汲み取れる。

そして、4半世紀ぶりに届いた新作。アンジェロ・バダラメンティによるあの懐かしいテーマ曲が流れるオープニング映像に胸を締め付けられながら、保安官事務所に並べられたドーナツの山、RR(ダブルアール)のチェリーパイ、グレイト・ノーザン・ホテルのコーヒーなど、甘く香ばしい匂いを思い出す瞬間が心地いい。オリジナルメンバーが脇を固める形でほぼ全員が出演し、記憶は25年の時を一気にさかのぼるが、その郷愁にも似た感情を残しつつも、物語は予想もしなかった展開に。今回、カイルは、クーパー捜査官、Mr.C、そしてダギー・ジョーンズ(乗り移る前の本人と乗り移った後の両方)という、まさかの一人4役にチャレンジしているが、ドッペルゲンガーという新たなテーマと、前シーズンの鍵を握った"ブラックロッジ"との関わりが、やがて解説不可能な迷宮へと視聴者を誘う。

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また、ローラ・ダーンやナオミ・ワッツ、ティム・ロス、アマンダ・セイフライドなど、リンチ監督を慕う俳優、『ツイン・ピークス』に憧れる俳優など、新たなキャストも加勢し、日本からは、リンチ監督作『インランド・エンパイア』(06)にも出演している裕木奈江が参加。「ノーギャラじゃないと無理だよね?」と思うほど豪華な総勢217名の新旧キャストが集結し、壮大にしてクレイジーな人間模様を繰り広げる。

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さらに、各話エンディングのお決まりとして、町の酒場「バンバン・バー」でのライヴ演奏をフィーチャーしているが、ナイン・インチ・ネイルズやエディ・ベダー(パール・ジャム)、クロマティックスなど、大物から新進気鋭まで多彩なアーティストが参加しているのも見逃せない。その一方で、前シリーズで『フォーリング』『イントゥ・ザ・ナイト』が印象的だったジュリー・クルーズの久々の歌声や、ジェームズ・ハーリー(ジェームズ・マーシャル)が歌っていた甘酸っぱい青春ナンバー『ジャスト・ユー』も聴くことができ、極め付けは、オードリー(シェリリン・フェン)が気だるく踊る"オードリー・ダンス"! これでピンと来る方は、筋金入りのオールドファン。このシーンにはいろんな意味で?感涙したはず。

『ツイン・ピークス』の裏側を楽しむ特典映像は号泣もの

今回、発売される豪華Blu-ray BOXには、約8時間にも及ぶ特典映像が収録されており(DVD-BOXには、その映像の一部のみ収録 )、7,000人を集めた「コミコン」でのトークイベント(カイル、ナオミ、ティムほかオリジナルメンバーも登壇)の模様や、エッジの効いたプロモーション映像も貴重だが、とくに秀逸なのが、ベンジャミン・ホーン役のリチャード・ベイマーがリンチ監督に勧められて撮影したドキュメンタリー『赤いカーテンの裏側』と、本編を演出するリンチ監督の喜怒哀楽、俳優たちの苦悩と歓喜、スタッフたちの働きぶりを納めた291分の大作ドキュメンタリー『インプレッションズ:「ツイン・ピークス」舞台裏の旅』。前者は神秘的な赤いカーテンの部屋を大勢のスタッフで造形していく姿や、逆回転のセリフに挑む俳優の姿、ローラ・パーマー役のシェリル・リーの鬼気迫る演技などを臨場感たっぷりに捉えている。

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後者の『インプレッションズ』では、主役となるリンチ監督を"白髪の逆立った男"と表現し、撮影の舞台裏とともに彼の人間性にも肉迫している。美術家の血が騒ぐのか、撮影に使う小物を自らの手で色付けしたり、造形したりする姿はまさに少年そのもの。俳優に事細かに役柄や状況、心情などを説明し、セリフのイントネーションにもこだわる演技指導はピリピリしたものを感じるが、それでも自我を押し通す俳優がいたりしても、「いま、アドリブを使ったね」と指摘しながら、「よし、わかった。それを使おう」とニッコリ笑い、その主張を認め、受け入れる度量の大きさも垣間見せる。カイルはもとより、ローラ・ダーン、シェリリン・フェン、裕木奈江などと真剣にやりとりするリンチ監督の姿は必見。また、撮影がうまくいかずイライラするリンチ監督の姿も赤裸々に収められており、とくに、スケジュールに不満を爆発させるリンチ監督と、それをなだめるスタッフとのやりとりが、なんともサスペンスフルでドキドキする。

オールアップで次々と俳優が抜けていく中、一人一人、丁寧に、愛を持って見送るリンチ監督。満面の笑みを浮かべながら、あるいは溢れる涙をぬぐいながらハグする姿から、俳優たちのリンチ監督への愛がにじみ出る。そして、迎えたクランプアップの日。撮影に携わったスタッフ全員が集まって喜びを爆発させる姿に、『ツイン・ピークス』ファンはきっと涙することだろう。ある意味、本編と特典映像と併せて観ると、リンチ監督がいかに真摯で、人間味に溢れているかがよくわかる。そしてちょっぴりクレイジーなところも...ね。

また、旧作シリーズを3分で解説している動画も公開されているので、リミテッド・イベント・シリーズを見る前にチェックして欲しい!

■『ツイン・ピークス:リミテッド・イベント・シリーズ』商品情報

(文:坂田正樹)

Photo:『ツイン・ピークス:リミテッド・イベント・シリーズ』 (C) TWIN PEAKS PRODUCTIONS, INC. (C) 2018 Showtime Networks Inc. SHOWTIME and related marks are registered trademarks of Showtime Networks Inc.,A CBS Company. All Rights Reserved.