『マトリックス』のように現実と仮想空間を跨ぐNetflixの意欲作『キス・ミー・ファースト』

広大なオープンワールドを駆け巡るオンラインゲームが流行する中、リアルとバーチャルの二つの世界を行き来するドラマ作品が登場した。英Channel 4がNetflixと共同制作する『キス・ミー・ファースト』は、現実世界を実写で、仮想世界をCG(コンピューターグラフィックス)で表現した意欲的な作品だ。

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◆オンラインに安らぎを求める孤独な少女たち
オンラインゲーム「アザナ」の仮想世界には、現実世界の辛さを忘れることができる広大な大地が広がる。10代にして母を亡くした孤独な少女レイラ(タルーラ・ハドン)は、仮想のキャラクター「シャドウフォックス」としてその空間にのめり込んでいた。ある日、今を全力で楽しむ少女テス(シモーナ・ブラウン)と出会い友達同士になるが、テスにはある秘密があった。彼女はバーチャル・ワールドで「マニア」というキャラクターの姿を借り、レイラを付け回していたのだ。

ゲーム内の世界は徐々にダークな面を見せ始める。やがてレイラが出会うのは、「レッド・ピル」と呼ばれる闇のハッカー集団。彼らはバーチャル世界を違法に改造し、現実世界と同様の喜びと痛みを感じることのできるバンドを開発していた。装置に手を出したレイラは、ネットワークの闇の部分へと引き込まれてゆく。レイラにとって最後の理想郷であったはずのオンラインワールド「アザナ」は、想像を超えた姿へと変貌する。

◆バーチャル世界の恐怖
本作『キス・ミー・ファースト』が強調するのは、華々しく見えるネット上の世界に潜む影の部分。英Irish Timesは、暴力や性的コンテンツへの接触、そしてSNS疲れなど、作中に登場する負の側面を挙げている。孤独なティーンエイジャーたちを癒す安息の地であると同時に、危険が潜むこともまた確か。ネットの利用者なら、こうした警鐘のメッセージは身に染みるだろう。Facebookの個人情報問題を暗に示し、こうした状況に置かれている我々はすでにオンラインの恐怖に気づいているはずだ、と英Guardianは指摘する。また、何もかもが叶う仮想世界は、リアルな世界の厳しい現実をかえって強調することもあると警告する声もある。現実世界に生きることは確かに辛いが、仮想世界で手に入れたはずの理想が実際には存在しないのだと気づいた時、人は何よりも大きな絶望を味わう。ちょうどアザナの仮想世界に溺れるレイラのように...。

◆名作SF映画とリンク
特殊な装置によって現実と架空の世界を行き来するという設定は、映画『マトリックス』に通じるものがある。同作では、人間が現実世界と思っている世界は実は架空の存在となっており、主人公ネオは赤い薬を飲むことで一つ上の真の次元に到達した。アザナに巣食うカルト集団「レッド・ピル」の名が同作にちなんでいるとGuardianは紹介。また、ネオの登場がマトリックスの世界で予言されていたのと同様、アザナの世界ではレイラ扮するシャドウフォックスの活躍が事前に囁かれている。ただし、こうした類似点があるとはいえ、本作は決してチープなパロディというわけではない。明らかに『マトリックス』を意識してはいるものの、新しい時代の視聴者をターゲットにした作品であるとIrish Times紙は評する。

本作では現実世界が実写、仮想世界がCGで表現されている。仮想世界のパートは若干気だるく感じるという声もあるが、それに異を唱えるのは米Observer。多くの作品ではバーチャルワールドのストーリーは退屈になりがちだが、本作はそれらとは別格。このジャンルを大きく前進させるステップとなるだろう、と同紙は述べている。

『キス・ミー・ファースト』は、日本ではNetflixにて配信中。(海外ドラマNAVI)

Photo:『キス・ミー・ファースト』
© Channel Four Television Corporation 2018