英Channel 4で放送中のコメディ『The Bisexual(原題)』は、レズビアンが長年のパートナーとの生活に区切りを付け、男性を愛せないかと模索するコメディドラマ。性的マイノリティにフォーカスする近年のドラマの潮流に乗った作品で、監督はデビュー以来この分野で3作品を発表している本格派。明るいジョークの合間には、マイノリティだけが味わうしんみりとした感情が切なさを呼ぶ。
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■10年の関係を白紙に
ロンドンにあるマンションの一室で、レズビアンとしての交際について取材を受けるレイラ(デジレー・アカヴァン)と、その年上の彼女サンディー(マキシン・ピーク)。記者のインタビューに応じながら、初めて一緒に観た映画を振り返るなど、二人はとても仲睦まじいカップルにみえる。
しかし、子どもについて話題が移ると不穏なムードが...。連れ立って部屋を去り、バスルームで二人だけの話し合いに入り、その表情は硬い。子を望むサンディーに対し、まだ若いレイラはさほど興味がない様子。その表情を察しないサンディーは、トイレの脇という最悪の場所で勢いに任せてプロポーズをしてしまう。しかしレイラからは、関係を一時見直したいとの申し出が。部屋に戻り、気まずい空気のまま写真撮影を受けてインタビューは終了となった。
翌朝、10年寄り添ったサンディーとの関係に終止符をうったレイラは彼女の部屋を出てゆく。レズビアン以外の生き方を探りたいと感じたレイラは、男性を愛せないかと模索し始める。落ち目の小説家ゲイブ(ブライアン・グリーソン)とのルームシェア生活を始めるが、その夜、サンディーのことが恋しくなってしまい...。
■盛大に爆笑、そして切なさの不意打ち
ジェンダーを題材にしたジョークがあちこちに仕掛けられた本作。ストレートの女性がレズビアンのパートナー探しの旅に出たり、レズビアンに妄想を膨らませる男性が現実のレズビアンのカップルを見てショックを受けたりと、思い切った設定がコミカルだ。ユーモアの質も高く、教養に富んだジョークが耳に心地よいと英Telegraphは評価。レズビアンやバイセクシュアルをテーマにしたドラマ『Lの世界』の後を追った作品とも捉えることができるが、感動を呼ぶ点が本作の最大の武器。盛大に笑い転げた後は、登場人物にそっと寄り添うような気持ちになれる作品だ。
『Lの世界』の世界観との類似は意図的な可能性も。英Empireは、「本当はデイナなのにシェーンになろうとしている」など、同作の登場人物を絡めたニッチなジョークも見られると指摘。作品全般としては、茶目っ気のあるユーモアで彩られたミニ・シリーズで、気軽に観られると述べている。同時に、これまでアイデンティティを感じてきたレズビアンの世界を裏切ることの難しさを描くなど、シリアスな一面も持ち合わせている。
■監督は同性愛の作品を探求
監督・脚本はイラン系アメリカ人のデジレーで、レイラ役で主演もこなす。Telegraphは、同監督の過去2作品も同性愛をテーマにしていると紹介。監督と脚本を担った『ミスエデュケーション』では、インディペンデント映画を対象とした2018年の米サンダンス映画祭で見事グランプリを獲得している。本作は自身がバイセクシュアルではないかと疑問を抱いている少女が、矯正施設に送り込まれる内容で、まだ開拓の余地が大いにあるバイセクシュアルという分野に、過去作とは別の角度から切り込んでいる、とTelegraphは分析。
前作との違いについてEmpireは、主人公以外の登場シーンが豊富にあり、バランスが良好な点がポイントだと評価。レイラの新しいルームメイトは落ち目の小説家ゲイブで、彼は女性を愛するストレートな男性。なんと寝室に女生徒を連れ込むシーンも。一方で、サンディーは終わってしまった関係に傷つくと同時に、残された時間の少なさに衝撃を覚え、うろたえる。初老のレズビアンという、あまり注目されてこなかった視点も導入されており、多様な視点から楽しめるシリーズになっている。
レズビアンがバイセクシュアルの人生を歩み始める『The Bisexual』は英Channel 4で放送中。(海外ドラマNAVI)
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デジレー・アカヴァン (C)Debby Wong / Shutterstock.com
マキシン・ピーク (C)Andrea Raffin / Shutterstock.com