"メキシコ人として伝えたかった祖国のストーリー"『ナルコス:メキシコ編』ディエゴ・ルナ直撃インタビュー in シンガポール

麻薬組織とDEA(米国麻薬取締局)との戦いを描くNetflixオリジナルシリーズ『ナルコス』。舞台をメキシコに移したシーズン4にあたる『ナルコス:メキシコ編』に出演するディエゴ・ルナ、マイケル・ペーニャ、そして製作総指揮を務めるエリック・ニューマンがシンガポールで行われたNetflixアジア初のイベント「See What"s Next: Asia」に登場。

NAVI編集部スタッフは本イベントを取材するためにシンガポールに向かい、話題作について話を伺ってきた。第一弾はディエゴの直撃インタビューをお届けしよう。

 

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「みんな元気? 日本が大好きだよ」と爽やかな笑顔で部屋に現れたディエゴ。本作で彼が演じるのは、メキシコ麻薬カルテルのゴッドファーザーと呼ばれるミゲル・アンヘル・フェリクス・ガジャルドだ。『天国の口、終りの楽園。』、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』、『ミルク』などへの出演で知られるディエゴだが、今までのイメージを覆す人物を見事に演じている。

――『ナルコス:メキシコ編』で演じるミゲルは今までと全く違う印象の役ですね。

ディエゴ:そうだね。俳優というのは、様々なタイプの性質を切り開けることを可能にするキャラクターを演じたいんだ。そして、このミゲルという役は僕が長年演じた役の中でも最も挑戦的なキャラクターだし、すごく興味深い体験になったよ。とても大変だったけど、やりがいがあったんだ。最高なキャストに囲まれていたし、素晴らしい監督と仕事ができた。それに、ドラマシリーズに出るのは初めてだったんだけど、今作は一人の人物の物語を10時間掛けて伝えるチャンスを与えてくれたんだ。長い時間だけど、とても細かいところまで時間を掛けて表現できるだけじゃなく、全ての疑問点にすぐに答えなくてもいい。それはドラマシリーズならではであって、映画では出来ないことだよね。

 

――本シリーズの脚本を初めて見た時に、どのようなイメージを持ちましたか?

脚本を読んだ時、自分が育った1980年代のメキシコを思い浮かべたよ。1979年生まれだから、当時まだ小さかったけどね。このストーリーは僕が幼少期を過ごした頃の話で、そこに自分はいたんだと、メキシコを懐かしく思った。それと同時に、僕があまりよく知らない祖国のことをもっと知りたいと思ったんだ。良く読み返して、なぜこのキキ・カマレナの事件がそれほどまでに重要であるのかを調べなければならなかった。そのことを通して、メキシコとアメリカの関係を理解し、今の祖国の現実を理解するためにね。本作に出てくる人物が、僕が聞いていたのとはどのように違う形で語られているかが気になったんだ。過去に書かれたものを読んで、「えっ?こんな白黒はっきりしているの?」ってね。その白と黒の間に僕が知らなかったことがたくさんあって、本作に出るにあたりそれらも理解しなくてはならないと思ったんだ。

――故郷でお子さんを育てたいからという理由でロサンゼルスからメキシコに戻ったと過去のインタビューで語られていましたが、メキシコで起きた実話という内容の本作に出演することに、どのような意義を感じますか?

うん。アメリカで数年程暮らし、メキシコに帰らなくてはと感じるようになったんだ。祖国は本当に多くの変化を遂げていて、そこで起きている変化をこの目で見届けたいと思った。それは、一人の俳優やフィルムメーカーとしてではなく、国民としての立場から、つまりメキシコ人の一人として自分の国に起きていることを見届けたいと思ったんだよ。また、子どもたちにも、自分たちのルーツとなる場所と関りを持ってもらいたいという願いが自分の中にあることにも気づいた。ルーツとは、つまり家族の歴史であり、家族の愛があるところ。そして、アメリカにプロの役者として住んでいても、なにも得ていないことに気づいたんだ。仕事で呼ばれた時は飛行機に乗って、またメキシコの家に戻ってくる。アメリカにずっといて仕事が来るのを待っている必要はなかった。俳優として、また映画監督やプロデューサーとして祖国で見つけた自由は、他の場所では見つけることが出来ないものなんだ。そして僕が伝えたい物語は、祖国メキシコに関係するものばかりだからね。

 

――監督やプロデューサーとしても活躍されていますが、本作に俳優として出演した理由とは?

ディエゴ:製作総指揮&ショーランナーのエリック・ニューマンから、「ある意味、メキシコ以外で語られていないストーリーを伝えたいんだ」と告げられたからだよ。そのストーリーというのは、まるでメキシコ人が悪い人たちで、アメリカはそんな彼らから世界を守らなくてはいけないかのようなっていう。実際には、2つの大きな異なる世界なんだ。それは、誰もがこの腐敗したシステムに関与している世界なんだよ、例えば政治家、警察、軍隊といった、あらゆるレベルの権力が国境の両側に関与しているんだ。また、麻薬市場についても語られている。もし、世界に一つでも麻薬市場があれば、今、僕たちが立ち向かっている方法ではこのバイオレンスを止めることはできないだろう。少なくとも今の段階ではね。戦略は不成功に終わり、それは何十年も失敗し続けているんだ。そして、本作はそのグレーゾーンを描いている。僕はそこが好きなんだ。俳優としても、一人の人間としてもね。このストーリーが日本でも伝えられたらいいなってね。だから、『ナルコス:メキシコ編』に俳優として出演したかったんだ。

――本作の撮影地を視察していたスタッフがメキシコで射殺されました。危険に晒される可能性もあったかと思いますが、出演する際に家族に相談はしましたか?

ディエゴ:ううん、誰にも話さなかったよ。製作側のプライバシーを守りたかったからね。それに、僕たちがこの作品で伝えようとしていることは既に記録として残されていたから。新聞記事や書籍、もう既に世間に出ていることなんだ。僕だけではなく、情報として皆が知れる状態にあるから、誰も知らないことを伝えたいわけじゃないからね。深く知ろうとしていないから、知らないだけなんだ。だから、このシリーズをきっかけに彼らは誰だったのか、どのような行動をしたのか、何を成し遂げたのかといったことに興味を持ってもらいたいよ。特に、キキ・カマレナの状況は十分に描かれているからね。僕にはそれで十分だったんだ。

――(先日行われたパネルセッションにて)『ハウス・オブ・カード 野望の階段』のロビン・ライトは、役者は役を愛することからはじまると言っていましたが、あなたが演じるミゲルの愛すべきポイントとは?

僕はそう思わないな。演じる人物を愛さなくてもいいけど、その人を批判することは出来ないね。特にミゲルのような人物を演じる時はね。その人がなぜこんなことをするのかという理由を見つけなくてはいけない。でも、それは愛するという意味じゃないよね。僕が演じた他のキャラクターは大好きだよ。『天国の口、終りの楽園。』のテノッチ、『ローグ・ワン』のキャシアンとかね。でも、『ナルコス』のミゲルはそうじゃない。愛とはほど遠いね。でも、演じている時はそんな風に考えちゃダメなんだ。なぜ、その行動をしているか理解しなくてはいけない。ミゲルの動機だって、他の人間のそれと一緒なんだ。彼だって人を愛するし、罪を感じ後悔もする。友人だっているし、野望もある。だから、役者はキャラクターの気持ちを理解しなくてはいけない。見ている人が信じられるような現実味のあるキャラクターを作り上げる必要があるんだ。

 

ちょうどインタビューが行われたこの日の朝に『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の前日譚となるスピンオフの製作が発表されたのだが、「とっても嬉しいよ! まさに夢が叶ったんだ。『ローグ・ワン』に関われることが大好きだったから、あの世界にまた戻れるなんて、願いが現実のものになったよ!」と嬉しそうに答えてくれた。

 

Netflixオリジナルシリーズ『ナルコス:メキシコ編』は11月16日(金)より独占配信開始。

(取材・文/編集部AKN)

Photo:Netflixオリジナルシリーズ『ナルコス: メキシコ編』