"人は何者かわからないものに一番恐怖を感じる"2時間の緊張感が持続『バード・ボックス』スサンネ・ビア監督を直撃インタビュー

12月21日(金)より配信中のNetflixオリジナル映画『バード・ボックス』。地球上に蔓延した正体不明の存在を見た者は、その謎の力に突き動かされ自殺願望にとらわれ、世界は破滅に向かっていくというストーリー。生き残るための術は、その存在を見ないこと。映像化は不可能と言われたジョシュ・マラーマンのスリラー小説を、『未来を生きる君たちへ』でアカデミー賞外国語映画賞を受賞したスサンネ・ビア監督が、ノンストップの恐怖とその経験を通じてたくましく成長していく母性を描いた作品として完成させた。

ロサンゼルス近郊の大規模な山火事の影響で、11月に開催予定だった同作品のレッドカーペットイベントは中止されたが、12月4日(火)、ビバリーヒルズでビア監督、主演のサンドラ・ブロック、パートナー役を演じたトレバンテス・ローズ(『ムーンライト』)を囲むインタビューと記者会見が開かれた。インタビュー会場に登場したビア監督は、シックで落ち着いた雰囲気の中にも眼光の鋭さが印象的。できる女性のイメージそのものだ。しかし、質問に対してふっと見せる笑顔の表情とのギャップが魅力的だった。

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――どういう点に魅力を感じて、『バード・ボックス』の演出を引き受けたのですか?

この作品に関わりたいと思ったのは、非常に興味深い女性主人公を扱っているからということが大きいわね。彼女を中心に据えることで、これまで見たことがないタイプのオリジナルなエンターテインメントになると思ったの。一種のスリラーだけど、型破りな母親を描いたサバイバルストーリーでもある。子どもたちに有無を言わせぬ強制力を持つ母親。サンドラが演じたマロリーは、荒々しく厳しい。しかし、そうならざるを得ない状況でそうなったわけ。だから、子どもたちに厳しく当たらなくてはいけないサンディ(サンドラ)は、彼女自身がそういう人間ではないので、演じる上で葛藤があったかもしれない。もちろん、マロリーはサンディ自身の姿ではないわ(笑)

母親というのは、一面的にこういうものだと捉えられるものではない。私だって、子どもたちの将来がかかった危機的状況に身を置かれたら、マロリーのように荒々しく激しく行動するだろうと思うから。何より子どもを守ることが最優先になるはず。

――撮影現場はどのような雰囲気でしたか?

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撮影は大変だった。特に寒い中、流れの速い川で小さな子どもたちを演技させなければならなかったのだから。しかし、彼らは非常に素晴らしい姿勢で撮影に臨んだわ。聡明な彼らは、むしろ過酷な状況を楽しんでいた。二人の子役を心から賞賛したいと思う。また、カメラを回していない時の現場は、映画の雰囲気とは真逆だったわね。皆、笑っていて、温かい雰囲気にあふれていたの。お互いをからかったりしてね。

――謎の敵から身を守るために知らない者同士が家に潜伏するシーンがありますね。顔ぶれが多様性に富んでいました。

人種、年齢、経験、また考え方において多様な人々の構成にしたわ。人それぞれに異なるバックグラウンドがあり、異なるストーリーがある。彼らが正体不明の共同の敵に対峙するとしたらどのような対応を見せるか、どういう行動をとるか、またそれぞれのアンサンブルも描きたかったポイント。

――謎の敵を視覚的に描かなかったことはなぜですか?

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私自身が怖い映画を見る時、一番怖いのはその怖い存在が正体を現すまで。何が自分を襲ってくるのかわからないから怖いの。この作品でも、その魔物の正体を視覚的に明確に描かなかったのは、見る人のイマジネーションを呼び起こしたいと思ったからよ。私がそうであるように、人は何者かわからないものに対して一番恐怖を感じるはずだと信じている。2時間にわたって見る人の緊張を持続させるのは難しいけれど、今回の手法でそれが成功したのではないかと手応えを感じているわ。

――Netflixの作品に監督として関わるメリットは何だと思われますか?

私たちの仕事は見る人がいて初めて成立するものよ。そういう意味で、世界中に1億3000万人の会員を抱えるNetflixの可能性は巨大。たくさんの人に見てほしい、多くの人にエンターテインメントを届けたいと思って作品作りに携わっているのだから、会員の数だけでもまず計り知れないメリットだと思える。そして、Netflixが監督の視点を尊重してくれる点も素晴らしいと実感したわ。今回の作品に関わったことは、全体を通して実にエキサイティングな経験だった。

――監督は映画業界を牽引する女性監督として見られていますが、業界の女性の立場についてどう思われますか?

女性が業界で活躍する環境について、自分が働くことで、少しでも平等な社会が実現すれば嬉しいと思っているのよ。現在、その基盤を変える時期で、変化はゆっくりと起こっていると言える。古い状況を打破しなければならない。

最後に、監督として、出身地であるデンマークをはじめとするヨーロッパで作品を作る時とハリウッドで作る時の違いについて聞くと、「撮影の作業自体は同じ。しかし、アメリカのエージェント制度を始め、システムや規模が大きく異なる。私はどちらのシステムにも順応しているし、それぞれの良さを尊重している」と答えた。これからも世界中を舞台に、しなやかな姿勢で果敢な挑戦を続けるビア監督の活躍が期待できそうだ。

まずは『バード・ボックス』で、映像化不可能と言われた小説を、緊張の糸が途切れないスリリングな作品に仕上げた手腕をチェックしてほしい。

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Netflixオリジナル映画『バード・ボックス』は独占配信中。

(文・取材:福田恵子)