『刑事コロンボ』と俳優ピーター・フォーク、シンクロするその魅力とは?

1968年のアメリカでの放送スタートから今年で50周年を迎えた『刑事コロンボ』。単発ドラマ、パイロット版を含む旧シリーズ(~1977年)の45作、新シリーズの24作(1989~2003年)、と合わせて全69作が製作され、長年にわたりファンを魅了し続けているが、その立役者は言うまでもなく主人公・コロンボを演じたピーター・フォークだ。

ヨレヨレのレインコートにボサボサ頭、無知を装った冴えない風貌で犯人の懐にスルリと入り込み、鋭い観察眼と粘り強いメンタルで、難事件を次々と解決していく。倒叙形式(最初に犯人とその手口を明かし、アリバイを崩していくスタイル)による脚本の巧妙さや、コロンボの吹き替えを最初に担当した小池朝雄氏の功績も大きいが、やはり、ピーター・フォークという名優の存在なくして、ここまで愛されるドラマにはならなかった。そこで今回は、撮影裏話や本人のコメントを交えながら、コロンボ=ピーターの魅力をひも解いてみたい。

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●コロンボとの運命の出会い

1960年代、映画『殺人会社』『ポケット一杯の幸福』で2年連続アカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、その後も『おかしなおかしなおかしな世界』『七人の愚連隊』など次々と話題作に出演し、役者として順風満帆に見えたピーター。ところが、なぜかギャング役が多かった彼は、「イメージの固定化は役者にとって致命的」と考え、TVドラマ『The Trials of O"Brien(原題)』で弁護士役に挑むなど、新境地を拓くことに必死になっていた。そんな時に舞い込んだコロンボ役...これはまさに、彼にとって救世主であり、運命の出会いだった。

もともとはアンソロジードラマの一編だった作品が、舞台劇を経てピーター主演で単発ドラマ化された「殺人処方箋(#1)」。同作のコロンボは、ドストエフスキーの「罪と罰」で謙虚を装いながら犯人を追い詰めるペトロヴィッチ判事がモデルだ。髪はキッチリ整えられ、レインコートは腕にかけ、スーツ姿もよれてない。動きも言動も小気味よく、いざ犯人を追い込む場面になると怖いほどの迫力だ。コロンボの"おとぼけ"キャラはまだ鳴りを潜めていたが、このドラマは30%近い高視聴率をマーク。これを受けてシリーズ化が決定し、コロンボ役の再構築が施される。

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●コロンボたる特徴の多くはピーター自身が発案

続く「死者の身代金(#2)」はシリーズ化を見越して製作され、キャラクターも舞台劇で作られた輪郭に加え、ピーターの個性を生かしたいわゆるヨレヨレの、お馴染みのコロンボ・スタイルが持ち込まれている。これに関してピーターは、自伝でこう語っている。「実生活の私はさしずめ街角の小僧といった感じ。着るものに無頓着で、警部に負けず劣らず変わり者。コロンボの一面は自然体の自分でいればいいから、演じるのがとても面白そうだ」と。

葉巻やレインコート、ボサボサ頭など独特の外観は、実はピーター自身が積極的にアイデアを提案し、定着させたものが多い。例えば、舞台であるロサンゼルスには不似合いなレインコート。「撮影前に巨大なベッドにこれといって特徴のない衣装がずらり並べてあり、私はがっかりした。これじゃ、視聴者の記憶に残りっこないってね。チャップリンなら誰だって山高帽にステッキを思い出すだろう? そんな時に、自宅2階のクローゼットにあったヨレヨレのレインコートがふと頭に浮かんだんだ」。そんなわけで、レインコートの色に合わせてスーツをくすんだ茶色に染め、ネクタイも古びた緑色のものを合わせ、靴もイタリア移民が履くようなくるぶしまで隠れる茶色のショートブーツをピーター自身がセレクトした。

のちにこのコロンボ・ファッションは、エピソードによって様々な意味を持ち、「逆転の構図(#27)」ではレインコートを7年着続けていると明かし、「偶像のレクイエム(#14)」では結婚記念日にこのネクタイをカミさんからプレゼントされたと告白。ちなみにボサボサのヘアスタイルは「長いのがカミさんの好みでね...」と「忘れられたスター(#32)」でのろける姿がなんとも微笑ましい。

また、愛車に関しても、ある日プロデューサーから、「明日の撮影にコロンボの車が登場する。ガレージで好きな車を選んでおいてくれ」と言われ、数ある中からよりによって日に焼けて色褪せたプジョー403カブリオレのグレー(「構想の死角(#3)」で初登場!)を選択。ピーターいわく、「乗り手を語るような特別なものを感じる車はこれしかない!」とピンと来ちゃったのだとか。案の定、レインコートと同様に、ポンコツプジョーもコロンボを語るに欠かせない"象徴的"なアイテムとなった。

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最後に、コロンボの人柄を表すちょっとオバカな行動も取り上げておきたい。エプロン姿で料理番組に出演したり(「二つの顔(#17)」)、ゴルフカートでグリーンをぶっ飛ばしたり(「意識の下の映像(#21)」)、はたまた小さな闘牛に襲われビビりまくったり(「闘牛士の栄光(#35)」)...挙げるとキリがないくらい滑稽なシーンが満載だが、ピーターのアドリブによる小さなハプニングシーンもしばしば観られるので要チェック。例えば、「何話か忘れたけど、ここ一番の見せ場の時、間違えてカミさんから渡された買物リストを出しちゃうのも僕のアイデア。突然"牛乳何本にタマゴがいくつ"なんて書かれたメモを読み上げたもんだから、犯人役の俳優がギョッとしていたよ」(筆者もエピソードを特定できず、ぜひ探してみて!)とほくそ笑むイタズラ心もコロンボならではのお楽しみだ。

そのほか、葉巻の灰を落としてメイドに叱られたり、レインコートのポケットをまさぐりバタバタしたり、誰も聞いちゃいないのにカミさんや親戚ネタを楽しげに話したり、マッチやエンピツ、メモ帳など忘れ物ばかりして周囲を困らせたり......プッっと笑っちゃう行動もコロンボの人物像を形作る大切な要素だが、何よりピーター自身が楽しんで"味付け"しているからこそ、コロンボは愛されキャラとして今も人々の心の中に生き続けていると言えるだろう。

(文/坂田正樹)

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Photo:『刑事コロンボ』© 1971 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved. © 1988 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.(C) Everett Collection/amanaimages (C) Mary Evans/amanaimages