2013年に解散したロックバンド、マイ・ケミカル・ロマンスでボーカルを務めたジェラルド・ウェイが原作を、ブラジルのコミック作家ガブリエル・バーが作画を担当した同名コミックを映像化したNetflixオリジナルシリーズ『アンブレラ・アカデミー』。
1989年、妊娠の兆候のなかった43人の女性が同日同時刻に突然出産をするという事件が発生。その生まれた子どものうち特殊能力を持つ7人は大富豪に引き取られ、世界を救うスーパーヒーローを育成する"アンブレラ・アカデミー"で育つ。成長するにつれ、バラバラの個性と能力からアカデミーは解散してしまうが、謎の死を遂げた父の死をきっかけに再集結した彼らは8日後に滅亡する地球と父の死に隠された謎を解明しようと立ち上がることに――。
そんな話題作に出演するデヴィッド・カスタニェーダ(ディエゴ役)&ロバート・シーアン(クラウス役)が昨年秋にシンガポールで行われた「See What"s Next: Asia」に登場。NAVI編集部スタッフは本イベントを取材するためにシンガポールに向かい、話題作について話を伺ってきた。
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デヴィッド・カスタニェーダ&ロバート・シーアンにインタビュー!
――それぞれのキャラクターと、そのキャラの一番の魅力について教えてください。
ロバート:僕が演じるのはクラウスというキャラクターで、ファーストネームは"ナンバー4"。僕たちを養子に引き取ったレジナルド・ハーグリーヴスが、子どもたちに番号をつけたんだ。アイデンティティをもぎとられたようなものだね。そして母が、それぞれの子どもの出身地に基づいた名前をつけたんだ。
クラウスは、ドイツ圏から来たキャラクターだと思う。死んだ人とコンタクトが取れる特殊能力を持っていて、その能力がゆえにドラッグ中毒なんだ。死人は時々なんの前触れもなく、招かれてもいないのに現れる。まるで、彼の頭の中の声であるかのようにね...。
物語が進むうちに視聴者は、彼が実際に死人とコンタクトをとっているのか、彼自身の内に潜む悪魔と闘っているのか、わからなくなるだろう。ドラッグ中毒者を抽象的に描いたようなキャラクターで、その部分は視聴者に訴えかけるものだと思うよ。彼自身の脳に潜む悪魔が、死人という形で表現されているところが興味深いんだ。
デヴィッド:僕が演じるディエゴはアカデミーの"ナンバー2"。2番の理由は、一番になりたくてたまらない、けんかっ早いキャラだから。でも、父は決して僕を一番にはしない。僕を2番にしておけば、"ナンバー1"にプレッシャーを与えて、一番有能なリーダーにさせることができるからね。ディエゴが一番でも、一番有能なリーダーにはならない...。僕は一番にはなれないだよ。
ロバート:ただのキャラクターのことだから、個人的に考えなくて大丈夫だよ(笑)
デヴィッド:視聴者にとって、ディエゴの一番の魅力とは、彼自身が抱えている痛みだと思う。父は「コレを買うよ」と言って、彼を買ったんだ。逆に言えば、実の母が巨額の金で彼を売ったということ。様々な人間関係の中で、自分の人生に値段が付けられるという体験は、誰にだってなんらかの影響をもたらすものだからね。
ロバート:自分自身の価値について、本当に考えるきっかけにもなるんだ。人間に値段がつけられるという体験は...。
デヴィッド:人間というのは、子どもも大人も誰だって常に自分の人生に価値を与えられることを模索しているもの。ディエゴは人を助けることによって、自身の価値を探っているんだ。ただ、良心から人を助けようとしているのではなくて、自分の存在価値を知って欲しいという気持ちから人助けをしている。
ロバート:僕にだって値段がつけられていると思うよ、セールでどうぞってね(笑)
ディエゴとクラウスの役作りについて
――スーパーヒーローという設定ですが、どのように役作りをしたのですか? 原作、またはほかのヒーロー映画やシリーズ、コミックを参考にしましたか?
ロバート:役作りにあたっては、まず"スーパー"をとって、ヒーローというものを考えるようにしたんだ。クラウスはある種、ヒーローならぬヒーローだと思うからね。幼い頃にスーパーヒーローに仕立て上げられたものの、本来は犯罪と闘うようなキャラではない。消極的で非暴力的で、とても神経質で、すぐに人に共感してしまうような性分で、ヒーロー役としてはミスキャストなんだ。
クラウスの役作りにおいては、色々なものを参考にしようとしたよ。もちろん、背景を知り、キャラクターの基盤を持つうえで、原作のリサーチは欠かせない。でも同時に、自分でキャラを作り上げることが大切で、そこが面白い。クラウスがどんなキャラか、早い段階でつかむことができたけど、撮影中に即興の演技をしながら作り上げていったところもあるんだ。
僕は絵が得意じゃないんだけど、彼のキャラがどのようなものなのか、視覚的に描こうとしたよ。正直、それはあまり成功しなくて、結局はGoogleで画像を探すことにしたんだけど(笑)でも、個人的な日記などは利用したね。自分自身や役のキャラクターを深く理解するためには、360度のあらゆる面から分析することが大切だと思う。そういう意味で、自動書記はとても有益だった。そこから色々ものが出てくるんだ。失われた子ども時代、イノセンス、ずっとずっと昔の記憶...。彼は赤ん坊のときに買われたために、価値がない人間だと思っていることなど。自動書記メソッドは、キャラクターのパーソナルな過去を理解するうえで、本当に役立ったんだ。そこであぶりだされたものを、徐々に自分の肉や骨にしみ込ませるんだけど、それは本当に終わりが見えない作業だった。だから、撮影初日までに、完全に役作りができている状態だったよ。クラウスというキャラクターと、とても長い時間を一緒に過ごしたような気持ちでいた。
ちなみに、ダニエル・デイ・ルイスの映画とインタビューも見まくったね。彼の場合は、僕よりももっとすさまじいレベルだと思うけど、6カ月間もの時間をかけて、自分が演じるキャラクターを本当の人間と同じように扱うんだ。爪の切り方から、ありとあらゆることへのありとあらゆる考え方にいたるまで、できる限り想像する...。クラウスのリサーチに役立つ素材は、とても多かったよ。視聴者に、僕がクラウスというキャラクターと長い間、一体化していたかのように感じて欲しかったんだ。
デヴィッド:僕は最初、原作がコミックだということを知らず、途中から読み始めた。(役作りにおいて)キャラの基本を押さえるために原作リサーチをすることは必要だけど、それに固執してはいけないと思う。ロバートは良いことを言ったけどね。そうすると、たくさんのチョイスに埋もれてしまって、「ディエゴがどうしたいか」ではなく、「ジェラルドがどうしたいか」を考えるようになってしまう。
原作のなかで、一番参考にした点は、ディエゴの身体的な部分。コミックのなかで彼は、とても特殊なビジュアルで描かれているんだ。まるで泥のようで、強靭な存在だ。それを模倣するというよりは、「その存在感がどこから来るのか」「どこにテンションがあるのか」「どうしたらこういうポーズが取れるのか」といったことを探ろうとした。そうした身体的な準備をしながら、新しい特徴をつかんでいく作業は、とてもエキサイティングだったね。あと、ディエゴにはある種、孤独なメンタリティがあるから、僕自身もあまり外食はせず、たくさん料理をするようになったよ。彼は刀の達人なので、料理はいい役作りにもなったよ(一同笑)
ロバート:なるほど。料理の話が、何につながるのかと思ったよ。
デヴィッド:料理には、瞑想的な効果があるしね。
第1話の脚本読み合わせでコミック原作者とご対面!
――撮影中に、原作者のジェラルド・ウェイとやりとりをすることはありましたか?
ロバート:うん。第1話の脚本読み合わせのときには、ジェラルドもイラストレーションを担当した共同クリエイターのガブリエルも皆、同席していたよ。そのときに、ガブリエルの双子の兄弟であるコミック・アーティストのファビオ・ムーンもいて、僕たち皆が読み合わせしている姿を、とても素敵なスケッチにしてくれたんだ。彼のInstagramに投稿されているよ。
デヴィッド:本当に美しいスケッチだった。
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ロバート:ジェラルドも、とても愛すべき優しい人なんだ。最初から、「クラウス最高! とてもいいよ!」というように、各キャラの役作りを褒めてくれた。それはとても特別なことで、彼の優しさが感じられた。僕たちは、とても緊張していたんだけど、ちゃんと安心させてくれたんだ。
デヴィッド:本当に安心するよね。僕の場合、撮影初日に3人の男たちとの大乱闘シーンを撮影したんだけど、現場には(出版社の)ダークホースコミックスの人々から、ジェラルド、ガブリエル、ファビオまで皆がいた。コミック界の重鎮たちがそろっているなかで、ちゃんとしたところを見せなければ!ってね。僕自身、3週間かけて過酷な練習をしたシーンで、窓から飛び出して、机を破壊して、ナイフを投げて...の大乱闘。それで「カット」の声が出た瞬間に、ビデオビレッジから拍手が聞こえたんだ。ガブリエルやジェラルドたちが喜んでくれたことを知って、本当にホッとした。クビは免れたぞってね(笑)
ロバート:今日のところはね(一同笑)
デヴィッド:そう、明日からはわからないけどなって。
Netflix『アンブレラ・アカデミー』配信情報
Netflixオリジナルシリーズ『アンブレラ・アカデミー』はシーズン1~2はNetflixにて独占配信中。シーズン3は2022年6月22日(水)より配信スタート。
(取材・文/編集部AKN)
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Netflixオリジナルシリーズ『アンブレラ・アカデミー』は独占配信中。