『スキャンダル 託された秘密』『マダム・セクレタリー』『グッド・ワイフ』『ザ・ブック/CIA大統領特別情報官』『Veep/ヴィープ』など、2014年から2016年は、女性が主人公の政治ドラマの黄金時代と言えるだろう。これらのドラマでは、女性のリーダーたちが奮闘する姿を見る機会が多かった。また、『ハウス・オブ・カード 野望の階段』や『サバイバー:宿命の大統領』のように男性が主人公のドラマにおいても、女性議員たちが政治の中心で活躍する姿が多く描かれていた。
この時期より前に遡れば権力を持った女性のパブリックサーバントが少なかったことを考えると、『スキャンダル』のオリヴィア・ポープや『マダム・セクレタリー』のエリザベス・マッコードらの存在は少なからず女性の政治参加に影響を与えたと考えていいのだろうか。米The Hollywood Reporterは、近頃ある2人の研究者がこの問題について論文を発表したと伝えている。
「政治ドラマ、特に女性が主役を演じるものの影響力が、政治参加の促進につながる可能性がある」と主張したのは、パデュー大学政治コミュニケーション学のジェニファー・ホーウェ助教授と、アラバマ大学コミュニケーション&情報科学のリンジー・シェリル博士号候補。
「Journal of Broadcasting & Electronic Media(原題)」に掲載された論文によれば、エンターテイメントでは大統領がより人間らしく描かれることで政治に対する支持に影響を与え、特に働く女性やマイノリティに対してより寛容になることにもつながっているという。
これまでの知見に基づき、ホーウェ助教授とシェリル博士号候補は、女性が主役の政治ドラマを見ることは視聴者を”トランスポート”させ、ドラマのキャラクターを見つめているような気持ちにさせると仮定。この感情は、視聴者に”政治的な自己効力感”を感じさせ、あるいは個々に政治的変化をもたらし、政治への関心を促すことになるという。(ここでの政治参加は、集会や演説会への出席、候補者や問題のための嘆願活動、政治家や政党とコンタクトを取ることなど)
二人は『スキャンダル』『マダム・セクレタリー』『グッド・ワイフ』の3作品の視聴者を集め、仮説の検証を行った。「この3作品に関心を持ったのは、女性がリーダーシップを執る政治ドラマにおいて、現在のアメリカのTVで見られる他のコンテンツとは一線を画しているからです」とホーウェ助教授。続けて「私たちは、これらの番組が視聴者に何らかの影響を与えている可能性があるのかを知りたいと思っていました」と説明した。(この検証に『Veep』が含まれていないのは、コメディであることが理由とのこと。コメディの場合は別の感情が生まれるという)
参加者は218人で、内71%が女性、81%が白人だった。
検証の結果、視聴者の政治的自己効力感が増大することで政治への参加も増加するという推測を除き、全ての仮説を証明することができたと、彼女たちは報告。つまり、女性が主人公の政治ドラマは実際に視聴者をトランスポートさせ、政治的自己効力感及び政治的関心を高めるような寄生的関係を生み出しているということだ。
調査結果の補足として、政治参加の方法は先述の通りオンラインでできるようなことを含まない伝統的な手法のみで、研究対象者もほとんどが白人女性になるなど、公平な調査とはいえない可能性もある旨も記されている。
ホーウェ助教授は、男性が主人公の場合でも女性が主人公の政治ドラマ同様の効果が引き出されるのか、比較調査を進めているという。
ホーウェ助教授は「このようなドラマは女性が強い立場にあることを特徴としており、この調査を通じて、それが視聴者にとって有益であることがわかりました」と述べ、性別・人種・民族・宗教にとらわれない、あらゆる人たちが政治的指導者の立場に立てるんだと私たちが理解するには、それを実際に目にすることが必要だと、ハリウッドのクリエイターたちに訴えた。(海外ドラマNAVI)