哀愁漂う老齢のバスドライバーに、予想外の災難が次々と降りかかる。英BBC Twoの『Don"t Forget the Driver(原題)』は、攻めたユーモアのなかにも温かみを感じるシリーズだ。4月からイギリス国内で放送されていた。
地道に生きるピート、乗務中にトラブルの嵐
年老いたピート(トビー・ジョーンズ『SHERLOCK/シャーロック』)は、妻と別れたシングルファーザーの身。母のジョイは痴呆気味で、娘のケイラも気難しいが、それでも何とか毎日を生き抜いてきた。
ある夏、平凡なバス運転手として働いていたピートを事件が襲う。その日の仕事は、同僚のデイブ(ダニー・キレイン『ウェイステッド』)とともに、ツアー客をフランス沿岸部に案内すること。イギリス海峡を渡る長い道程だ。一仕事終えてイギリス南部の車庫に回送していたところ、海岸線に転がっていた死体の第一発見者となってしまう。これをきっかけにピートの人生に奇妙な出来事が降りかかる。
第2話では日本人のツアー客をハンプトン・コート宮殿へと案内するが、ピートに再びハプニングが。ブラックなジョークの効いた、全6話のミニシリーズ。
大爆笑はないが、心に迫るコメディ
家庭の状況が芳しくなく、仕事中もどこか疲れた様子のピート。そんな彼の醸し出す物哀しい雰囲気も作品の魅力だ。ブラックコメディという触れ込みの本作だが、第1話にはそれほど笑いのシーンがない、とGuardian紙。そのかわりに、ピートの人生の機微を丹念に描写している。取り立てて特徴のない男のごく平凡な暮らしぶりを描くが、かえってそれが見事に感情を掻き立てる、と同紙。
コメディにしてはギャグを抑え気味にした、珍しいタイプの作品。不安と戸惑いのムードに満ちたドラマだ、とEvening Standard紙は評価している。傷つきやすい性格のピートを演じるトビーは、本作脚本の共同執筆者でもある。ちなみに『ハリー・ポッターと秘密の部屋』では、印象的な外見の妖精ドビーの声を演じていた。要所要所でハリーを救っていたドビーからは一転、本作では馬鹿馬鹿しい出来事に振り回される情けないドライバーを演じる。ハプニングに嘆息しながらも、自らも不条理な行動の元凶となっているユニークなキャラクターだ。
ストーリー性の高さに心酔
ドタバタ喜劇とは異なり、骨太なストーリーラインを有する本作。第1話の終盤にはピートがツアー中に経験した点と点が線でつながり、あっと驚く結末が待っている。フランスに着きバスの中で待機していたピートの元に黒人青年が現れ、乗せてくれないかと頼み込む。取りつく島もなくバスを出発させるピートだが、これが元で後に大きな自責の念に駆られることに。一日の終わりには、目も当てられない結末がピートを待っている。最も残酷な悲劇を中核に据えたコメディだ、とGuardian紙は述べている。
トビーとともに脚本を執筆するのは、脚本家であり俳優業もこなすティム・クラウチ(『Mile High(原題)』)。前衛的すぎる氏の舞台作品についてEvening Standard紙は辛口の評価だが、本作には興味を持った模様。観光名所にツアー客を案内するバスドライバーのピートは、浜辺で発見される死体や車内に突然現れた移民など、突飛な出来事に悩まされる。
(海外ドラマNAVI)
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トビー・ジョーンズ
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