マジシャン率いる詐欺師集団 vs 怒らせたら最後の超危険牧師 ネオノワール・スリラー『Perpetual Grace, LTD』

詐欺師が老人をまんまと罠にはめたつもりが、いつの間にやら大ピンチに...。『Perpetual Grace, LTD(原題)』は、メキシコマフィアの恐ろしさと哀れな主人公たちのコミカルさを掛け合わせた、一粒で二度美味しい作品。米ケーブル局Epixで6月上旬から放送中だ。Amazon Primeで話題のスパイコメディ『パトリオット ~特命諜報員 ジョン・タヴナー~』のスティーブ・コンラッドが脚本・監督・製作総指揮を務める全10話のシリーズだ。

失意の消防士、詐欺で人生大逆転?

消防士のジェームス(ジミ・シンプソン)は癇癪持ちの性格が災いし、しばしば火災現場を究極の混乱へと誘う。失敗を重ねた彼は癒しを求め、ニューメキシコ州のバーへ。そこで偏屈な性格のマジシャン、ポール(デイモン・ヘリマン)と出会う。ポールの話によれば、彼の父(ベン・キングズレー)と母(ジャッキー・ウィーヴァー)は、浮浪者の社会復帰を助ける教会を営んでいるという。銀行口座の開設も手伝っており、弱者たちからちゃっかり騙し取った金は400万ドル(約4.3億円)にも上るのだとか。

教会が保有する巨額の資金をめぐり、ジェームスとポールは意気投合。ジェームスは金のために、そしてポールはマジシャンを馬鹿にする父への報復の意味も込めて、資金を我が物にしようと企む。二人の計画はこうだ。ポールの父と母をメキシコへ連れ出し、現地の警官に誤認逮捕させる。2週間ほどの拘留期間があれば、父の身分証を使って教会の口座から金を引き出すには十分。さらにはメキシコで死亡した話をでっち上げ、生命保険も手にできれば上出来だ。しかし、実はこの牧師、怒らせてはいけない超危険人物。ジェームスとポールの行く先に、恐怖という名の巨大な穴が待ち構えている。

簡単な仕事のはずが...

主人公たちの期待を裏切るような状況が続々と発生する、と米Roger Ebertは紹介。「ふつうの老人じゃないなら先に言え」とジェームスは慌てるが、時すでに遅し。年老いた神父の物静かなイメージに反し、その凶暴さが露呈してゆく。ストーリー開始早々に兆候は見え始め、演じるベンーがその強面を存分に発揮するまでにそう時間はかからない。

初めの2話を観ただけでもキングズレーの演技を気に入った、と米Hollywood Reporterは述べる。2020年エミー賞の本命候補だと同メディアは賞賛。また、主演のジミについても才能が溢れ出ていると高く評価している。根は善良な消防士が、仕方なく詐欺に加担する苦悩を絶妙に表現。ポール役のデイモンと警官を演じるルイス・ガスマンの輝きも際立っており、優秀なキャストに恵まれたシリーズとなっている。

人気作の持ち味引き継ぐ

本作を手掛けるコンラッド監督の人気作『パトリオット ~特命諜報員 ジョン・タヴナー~』は、Amazon Prime Videoで配信中の哀しくも可笑しいスパイ物語。仲間同士の軽口がトレードマークで、コンラッド監督の絶妙なディレクションが親密な空気感を醸し出していた。そして本作でも恐れることなく独自の路線を突き進んでいる、とHollywood Reporterは指摘する。まるで西部劇のようにセピア色に染まるニューメキシコの荒野で、急ごしらえの詐欺師チームが七転八倒。

監督業だけでなく脚本でもその才能を発揮している。カミソリのように研ぎ澄まされた台本でシーズンは幕を開ける、とRoger Ebertは絶賛している。以前のコンラッド作品よりもキャラクターの造形と演出のバランスが良くなったと同メディアは分析。ときに可笑しく、ときにシリアスなメリハリの効いたドラマだ。

老いた牧師の報復に震える『Perpetual Grace, LTD』は、米Epixで放送中。(海外ドラマNAVI)

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『Perpetual Grace, LTD』
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