子どもを狂気の異世界へさらう「吸血鬼」...スティーヴン・キングの息子が描く超常ホラー『ノスフェラトゥ』

雪に閉ざされた「幸せな世界」から、少女は子どもたちを救い出せるのか? 『NOS4A2(原題)』は、スティーヴン・キングの息子であるジョー・ヒルによる小説「NOS4A2-ノスフェラトゥ-」を映像化したシリーズ。米AMCで6月上旬から放送されている。日本ではAmazon Prime Videoで本国より早く全10話配信中だ。

芸術家志望の少女に宿った、不思議な能力

田舎の町で孤独な暮らしを送っている少女、ヴィク(アシュリー・カミングス)。高校卒業を控えた彼女は美術学校への進学を志望しているが、父は賛意を示しながらもなんら具体的な援助をしてくれない。母にいたってはそんな金はないと冷たい態度で、ヴィクは鬱屈した日々を送っていた。

そんな彼女はある日、子どもを誘拐するモンスターのマンクス(ザカリー・クイント)を追跡できる能力が自身にあることに気づく。マンクスはさらった子の魂をすすることを活力の源とし、抜け殻となった子どもたちの身体を「クリスマスランド」と呼ばれる雪で覆われた世界に捨て去ってゆく。毎日がクリスマスというその世界では、不幸を感じること自体がご法度。しかし幸せとは名ばかりで、ぞっとする光景が広がる。

マンクスの存在を知ったヴィクは、マンクスを捕獲することに使命感を抱く。一方マンクスも、ヴィクの強力なオーラから彼女の存在を認識。マンクスの瘴気に当てられる前にクリスマスランドから子どもたちを解放しようと、ヴィクは危険な旅への出発を決意する。

父、スティーヴン・キングに通じる世界

原作はキングの実の息子であるヒル。マサチューセッツを舞台とした設定は父親譲りで、この地方独特のアクセントや風車のある光景などが登場する。マンクスが乗る年代物のロールス・ロイスは、キング原作の映画『クリスティーン』に登場する赤のプリムス・フューリーとお似合い、と米Los Angeles Timesは述べている。ちなみにロールス・ロイスのナンバープレート「NOS4A2」が本作タイトルの由来で、これは吸血鬼を意味する言葉「Nosferatu(ノスフェラトゥ)」を短縮したもの。他にも映画『シャイニング』を想起させる雪の世界など、キング作品と類似したモチーフが数多く登場する。

遊び心あふれる小ネタを紹介するのは米Vulture。クリスマスランドへの道中にマンクスが参照する地図には、「ペニーワイズ・サーカス」という地名が。これはもちろん、キング原作の映画『IT/イット "それ"が見えたら、終わり。』のピエロを意図したファンサービス。他にも本作原作のヒル自身の過去作品に通じる小ネタなど、心踊る仕掛けが散りばめられている。

日常世界にこそリアリティを

ホラー作品である本作だが、その構成は少しばかりユニーク。モンスターが登場するシーンよりも、日常の風景の描写に時間をかけている。それほど裕福でないヴィクの家では、美術学校へ通いたいというヴィクの希望をめぐって両親のケンカが絶えない。残酷な社会階級を意識させるこうしたシーンに加え、ティーンエイジャーのヴィクの周りで巻き起こる恋の三角関係など、ホラーとは直接的に関係のないやり取りにたっぷりと時間を費やしている。日常シーンでさえ非常に巧妙に脚本が書かれており、さらにキャストも鋭い感受性で質の高い筋書きに応えている、とLos Angeles Timesは絶賛。

主人公の惨めな境遇にVultureも注目。ビルの解体技師である父と清掃業に従事する母の収入は、学費の高いエリート美術学校への入学を許すほど潤沢ではない。親友が上流階級の家庭に生まれていることも、ヴィクのやるせない気持ちを一段と加速してしまう。さらに、父親に家庭内暴力の疑惑も浮上。ホラーでありながら主人公・ヴィクの心理描写に時間を割いており、彼女の境遇にどっぷりと浸ることのできるドラマに仕上がっている。

リアルな日常の描写が一層恐怖を引き立てる『ノスフェラトゥ』は、Amazon Prime Videoで全10話配信中。スティーヴン・キング原作の映画『シャイニング』はAmazon Prime Videoで配信中。

(海外ドラマNAVI)

Photo:

『ノスフェラトゥ』(『NOS4A2(原題)』)© AMC