7月下旬に行われたHBO新作発表会に潜入してきたのは、昨日のレポートで述べた通り。今回は新シーズンに先駆けてお披露目された新作のうち、特に注目の2作品をご紹介しよう。
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『ヒズ・ダーク・マテリアルズ(原題)/His Dark Materials』
1作目は、英国作家フィリップ・プルマン著の冒険ファンタジー3部作「ライラの冒険」シリーズが原作となる大型シリーズ。
舞台となるのは現実の世界に類似しているが別世界のパラレルワールド。この世界では個人が自分の魂の現れである「ダイモン」と呼ばれる守護動物とともに行動している。
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主人公のお転婆少女ライラは、生後間もなく叔父アスリエル卿によりオックスフォード大学長の手に委ねられて育てられた。ある日、厨房で働く大親友の少年ロジャーが何者かに誘拐されてしまったことから、ライラの大冒険が始まる。
こう書くと子ども向けのように聞こえるが、実のところこの物語は非常に奥が深い。パラレルワールドでは、他にも別の世界が存在するという考えが厳しく禁止されており、真実を探り出そうとしているアスリエル卿にはいつも危険が迫っている。そして本人は気づいていないがライラ自身にも。
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親友ロジャーを探しに行く過程で、ライラは自分を取り巻く社会の悪や、信じていた者による策略と裏切り、権力者たちの隠蔽・陰謀、そして自らの生い立ちの謎にも向き合わなければならない。様々な難関を克服して成長していくライラだがそんな彼女の行く手に待つのは?
本シリーズは2007年の映画『ライラの冒険 黄金の羅針盤』のリブートと言われている。ニコール・キッドマンやダニエル・クレイグを起用した映画が期待されていたほど興行的にふるわなかったことからTVシリーズ化にあたり懸念されていたが、ライラ役に映画『LOGAN/ローガン』の演技で話題となった若年14歳のダフネ・キーンが決まり、続けて『X-MEN』シリーズのジェームズ・マカヴォイがアスリエル卿を(ちなみに会見でジェームズは「原作本の大ファンで何百回も読んだ」と話していた)、『アフェア 情事の行方』のルース・ウィルソンがマリサ・コールターを、『メリー・ポピンズ リターンズ』のリン=マヌエル・ミランダが冒険家リー・スコーズビーを演じることが発表され、期待が高まっている。
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製作総指揮並びに脚本を担当するジャック・ソーンが会見で、「この世の中で人はGreat(偉大)になることばかりを重んじて、Good(善良)であることを忘れてしまう。ライラはいつもGoodであることを選ぶ。それがこのストーリーの素晴らしいところだ」と話していたのが印象深い。今の世界に必要な要素を提供してくれるシリーズになるかもしれない。国内では2020年、スターチャンネルで放送予定。
『ウォッチメン(原題)/Watchmen』
そして放送前から何かと話題になっているのが、2009年に人気監督ザック・スナイダーがDCコミックを実写映画化した『ウォッチメン』のドラマ版。
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スナイダーは本作に関わっていないが、別次元のアメリカというストーリー設定は同じ。現実の政治・社会状況に限りなく近いが、辛口に風刺している別世界である。例えばアメリカがベトナム戦争に勝ちベトナムが占領国になって、ウォーターゲート事件は起きずニクソン大統領は任期をまっとう、など眉をひそめたくなる舞台設定になっているところはコミックに忠実だ。
だがHBO版の第1話試写を見て驚いた。映画では核の脅威がテーマだったが、今回の作品では人種差別問題が、いやそれどころか「人種間の戦争」がテーマとなっている。
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主人公となるのはレジーナ・キング演じる女ヒーローだ。『アメリカン・クライム』と『運命の7秒』でエミー賞を、『ビール・ストリートの恋人たち』でアカデミー賞を手にした彼女が、『ARROW/アロー』のような覆面にフードのついたロングコートを身にまとい、悪者たちをビシバシ倒していく。演技派のレジーナにとっては初のアクションヒーロー役だが、彼女の役は特殊能力を持っているというよりは、マーシャルアーツに並外れて長けた女性といった普通の人感が強い。このあたりも映画版とは意図して変えている感がある。非常に密度が高く、現代社会にはびこる問題に深くメスを入れているこちらも国内では2020年にスターチャンネルで放送予定だ。
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いずれの作品も、ジャンルやアプローチの仕方は違えど、異次元の世界を借りて、現代の我々が抱える現実の社会問題にチャレンジしているという共通点がある。情報過多である一方、真実を見極めるのが難しくなりつつある現代において、これらの新シリーズは重要な意味を持つラインナップになるかもしれない。
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『His Dark Materials』
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『Watchmen』
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