一度足を踏み入れた子どもは二度と帰らないという、深く暗い森。そこで発見された少女の遺体が、20年前の悲惨な事件を紐解く鍵となり――。この秋登場の『ダブリン殺人課(原題:Dublin Murders)』は、反発し合う男女の捜査コンビが閉ざされた真相を明かす、サスペンスフルな刑事シリーズ。『ゲーム・オブ・スローンズ』の制作チームが届ける本作は、フーダニット(犯人捜し)の枠を超えたミステリアスな展開が好評だ。英BBC Oneでの放送が終わり、11月上旬からは衛星チャンネルのStarzによる米国放送が始まった。
禁じられた森から少女の遺体
『Dublin Murders』は、一人の少女の遺体から恐ろしい全貌へとつながってゆくミステリーだ。きっかけは、陰うつな空気漂うアイルランドの森のなかで行われた考古学調査だった。発掘調査中に、まるで儀式のような体勢をとった少女の奇妙な遺体が発掘される。現場に投入された殺人課の刑事・ロブ(キリアン・スコット)とキャシー(サラ・グリーン)のコンビは調査を開始。すると20年前に、当時同じ森に訪れた子どもの失踪事件が起きていたことが明らかになる。訪れた3人組のうち二人の子どもは消息不明、一人はボロボロに引き裂かれた服を着て、大量の血を浴びた状態で発見されたという。20年前、うっそうと繁る木々の下で何が起きたのか――? ロブとキャシーは互いにぶつかり合いながら、禁じられた真相に徐々に迫ってゆく。
刑事ドラマの域を超えて
危険を冒して事件の解決にあたるロブとキャシーだが、実はこの二人は大きな秘密を抱えている。このことが物語をいっそう複雑にし、単純な刑事ドラマの域を超えたレベルにまで作品を昇華させている、と米Indie Wire誌は評論する。秘密に関する描写が視聴者の情に訴えかけ、一般的な刑事ドラマとは異なる心理スリラーとしての側面を作品にもたらしている。
こうしたユニークな特性と高い品質は、シリーズを通じて最終話まで持続する。すでに全8話の放送が終わったイギリスではTelegraph紙が、ひねりに満ちたストーリーに続く満足なエンディングであった、と振り返っている。腐乱死体の発見に幕を開けた第1話は、おぞましい画に嫌悪感を覚えつつも、徐々にドラマに引き込まれるという不思議な視聴体験をもたらした。その魅力的で質の高い作風は終盤まで維持し、クライム・ミステリーのファンたちを大いに満足させている。
アイルランド発祥のミステリー
本作は北アイルランドを舞台としており、撮影は同地ベルファストの森で敢行された。ベルファストの森と言えば、『ゲーム・オブ・スローンズ』のロケ地として有名だ。大作を完結させたばかりの同作クルーが制作に参加している。そのためか、神秘的なパワーを感じさせる空気感を継承している、とIndieWire誌はコメント。重厚な雰囲気をまとっており、突然大きな音を挿入して怖がらせるようなありきたりな演出に頼ることなく、深く後を引くような恐怖感を醸し出す。
原作はアイルランドの小説家である、タナ・フレンチの2007年デビュー作「悪意の森(原題:In the Woods)」と2作目「道化の館(原題:The Likeness)。最終話にはシーズン2の到来をほのかに匂わせるシーンが用意されていることから、続編の製作にも期待が高まる。Telegraph紙によると、タナ・フレンチによる3作目も同じ主人公が活躍する内容となっている。
日本では『ダブリン殺人課』というタイトルでApple TVにて配信している。※2020年7月追記
(海外ドラマNAVI)
Photo:『Dublin Murders』©2019 STARZ ENTERTAINMENT LLC 『ダブリン殺人課』© 2020 Apple Inc. All Rights Reserved.