ジョエル&イーサン・コーエン兄弟による1996年のアカデミー賞受賞映画『ファーゴ』を元にしたサスペンスドラマ『FARGO/ファーゴ』。アンソロジーシリーズのためシーズンごとに舞台や時代も異なるこのシリーズは、シーズン1からの独特な世界観と奇抜な展開、そして時折見せるブラックコメディ要素で視聴者を虜にし、エミー賞やゴールデン・グローブ賞にも数多く受賞してきた。その最新作『FARGO/ファーゴ:カンザスシティ』がいよいよお目見え! 過去シリーズを楽しんできた人はもちろんのこと、未見の人がいきなり見ても楽しめる本作の見どころを紹介していきたい。
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『FARGO/ファーゴ』とは?
1996年の映画版の世界観とスタイルを元に生まれた本シリーズ。タイトルのファーゴとは街の名前だ。今回のシーズン4は、時系列でいうとシリーズの中で一番古い時代となり、舞台をミズーリ州カンザスシティに設定している。
1920年代、同地ではユダヤ系とアイルランド系のギャングが台頭。彼らは平和を維持するため、互いのボスの息子を交換して育てるという方法を採っていた。その後、時代は流れて1950年の対立構造はイタリア系マフィアとアフリカ系ギャングに変化していた。顔ぶれは変わっても習わしはそれまで通り、互いの息子を交換して一見平穏を装っていたそれぞれだが、この街を自分たちのものにしたいという野望は抱いたままだった。
そんな時、マフィアのボスであるドナテロが大ケガを負う。彼が担ぎ込まれた病院では看護師オラエッタが看護に当たるが、実は彼女には恐ろしい秘密があった。オラエッタの家の向かいに住むのは葬儀屋一家。その家の優秀な女子高生エセルリダは、その後まったく予想もしない人生を歩んでいくようになる。マフィア、ギャング、一般人、それぞれの物語が絶妙に絡み合い、カンザスシティを揺るがす出来事へと発展していく。
シリーズ最多キャスト!ベテランから新鋭まで多種多様
マーベルドラマ『レギオン』も手掛けるクリエイターのノア・ホーリー曰く、今回の主要キャストはシリーズ最多で、その数なんと25人。過去シーズンのメインキャラクターはせいぜい5、6人なのでその豪華さは断トツだ。イタリア系マフィアのキャストたちはイタリア語での会話も頻繁に披露しており、それがまたこのシーズンをひときわ魅力的にしている。
そんな本作で主人公を演じるのは、コメディアンとしてハリウッドのトップに君臨するクリス・ロック(『9デイズ』)。知的なビジネスマンに徹するギャングのボス、ロイ・キャノン役で非常に高い評価を受けている。対するイタリア系マフィアでドナテロの長男を演じるのは、名匠フランシス・フォード・コッポラを叔父に持つなど芸能一家出身のジェイソン・シュワルツマン(『ダージリン急行』)。ジェイソンもコメディや軽快な作品の印象が強いが、権力を振りかざしキレやすい、だがどこかヌケた男を好演している。
唯一のアイルランド系で、マフィアの仲間という重要な役どころを演じるのは、『007』シリーズのQ役で知られるベン・ウィショー。脱獄囚の捜索でユタ州から来た保安官役は、『JUSTIFIED 俺の正義』の保安官役で知られ、最近は『マンダロリアン』のコブ・ヴァンス役でも人気再燃中のティモシー・オリファント。また謎めいた看護師オラエッタ役のジェシー・バックリー(『チェルノブイリ』)は、2019年にForbesによる「30歳以下の注目すべき存在」に選ばれた逸材で、その期待に違わぬ怪演を見せている。英語圏のドラマには初めて出るというイタリア人俳優もおり、ベテランや新鋭まで多くの演技派で彩られている。
一体どこで交わるのか?これだけ見ても楽しめる奇想天外な脚本
すでに述べた通り、本シリーズはそれぞれのシーズンが独立しているので、この『FARGO/ファーゴ:カンザスシティ』だけいきなり視聴しても十分楽しめる。全11話という長すぎない話数も丁度いい。もちろん、シーズン1からの視聴者にとっては「そういう風に出てくるのか!」と、タイトルである"ファーゴ"繋がりが楽しめる部分もある。
一見マフィア対ギャングの抗争というストーリーだが、それとは別に一般人である葬儀屋一家と看護師の話が描かれているところが面白い。初めの数話ではそれぞれの物語が夜空の星のように点で綴られており、どう交わるのか見当もつかない。だが、星と星を線で結ぶと星座ができるように、話が進むにつれて徐々に人間関係が繋がっていく。本作の素晴らしいところは、その線を繋げても予想していた"星座"にはならないことだ。後半になっても、視聴者をあざ笑うかのように最後の最後まで展開が読めず、見事としか言えない衝撃の結末が待っている。アメリカの歴史や人種問題も描かれている中、途中途中に投げ込まれるブラックコメディ要素で、なんだこれ!と笑わずにはいられない点も、夢中になってしまう理由だ。
ミズーリ州カンザスシティの地形や気候がストーリーに影響
アメリカ中西部に位置するミズーリ州カンザスシティと聞いても、馴染みがある人は少ないだろう。カンザスと聞くと、『オズの魔法使い』の有名なセリフ、「ここはカンザスじゃない」があるが、こちらはカンザス「州」のこと。そのお隣の「都市」、ミズーリ州にあるカンザスシティがこの作品の舞台だ。
そんなあまり印象のないミズーリ州は、 海や五大湖まで10時間以上かかる内陸の上、山もない。ただただ平地が広がっており、海と山に囲まれた日本人からすると想像しにくい土地だ。冬は氷点下になることもあり、夏は暑く湿気が多い。さらに竜巻街道と呼ばれる、竜巻(トルネード)が頻繁に起こるエリアでも知られており、西海岸や東海岸のような派手さもない。
そういうちょっとパッとしない土地こそが、そこを取り合うマフィアとギャングのダークな部分を演出している。そしてこのような地形や気候が、特に物語後半の重要なキーポイントとしても描かれている。このことを念頭に置いておくと、作品をより楽しめるだろう。
血みどろの争いだけじゃない!オシャレなヴィンテージが最高
本シリーズでは多くの殺人が描かれており、今回も例外ではない。しかし惨殺シーンも多い中、1950年当時の車や街並み、衣装や小道具にも目を奪われることだろう。下手をするとCGで製作されるよりも予算がかかるのではないかという"本物"が多数使われている。
街なかを走るパッカードやシェヴィー(シボレー)というクラシックカーは実際使えるもので、撮影後は売りに出された。また、日本でも大人気のオシャレなアメリカンヴィンテージ食器、ファイヤーキングやパイレックスからも目が離せない。葬儀屋一家はもちろんのこと、一人暮らしの男性の自宅にでさえも、ファイヤーキングのホワイトマグが大量にある。電子レンジが出回る前のこの時代は、オーブン料理がメイン。そのオーブンに入れられる耐熱ガラスのアンティークは、当時のアメリカでは誰もが使っていたものだ。そんな本物を使って"リアル"を描く本作からは、なかなか手に入らないヴィンテージの大道具、小道具へのこだわりも感じ取れる。
シーズン3までを見ている人にとってはまったく新しい作品として楽しめる斬新さと粋なつながりがあり、初めて見る人にとってはこの最も古い時代からスタートして時系列的に見ていくことが可能と、どんな人にも楽しめる『FARGO/ファーゴ:カンザスシティ』。1950年代ミズーリ州カンザスシティの住人になったつもりで、古き良きアメリカを感じるサスペンス満載のストーリーを味わってほしい。
(文/Erina Austen)
『FARGO/ファーゴ:カンザスシティ』は「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」で配信中。作品公式ページはこちら
Photo:『FARGO/ファーゴ:カンザスシティ』© 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. FARGO (Year 4)© 2021 MGM Television Entertainment Inc. and FX Productions, LLC. Based on the film “FARGO” FARGO is a trademark of Orion Pictures Corporation. All Rights Reserved.