「雅楽の良さが世界に広まって嬉しい」『SHOGUN 将軍』総合音楽アレンジャー、石田多朗独占インタビュー

第76回エミー賞で今年最多の25ノミネート、そして最多の18冠を達成した米FXの『SHOGUN 将軍』。主演の真田広之は日本人として初のドラマ部門主演男優賞を、そして共演者のアンナ・サワイもアジア人として初の同部門主演女優賞を受賞し、名実ともに歴史に残る作品として認められた。そんな本作で、伝統邦楽を西洋の音楽と融合させるための総合音楽アレンジを担当した石田多朗氏に、作品に関わることになった経緯から、ロサンゼルスで9月15日(日)に開催されたエミー賞に参加した時の話などを伺った。

 

石田多朗独占インタビュー全文

――まず初めに本作に関わることになった経緯を教えていただけますか。

これが実はたまたま、みたいな話でして。(奈良時代に誕生した伝統音楽)雅楽を始めたのが10年ほど前になります。雅楽は本当に素晴らしいクオリティの音楽なので、日本ではそうでもないかもしれませんが、もしかして海外の方が喜ばれるのではないかなと思い、Instagramで#gagakuで投稿を始めたんです。それが3年ほど前でした。そしたらその投稿から数ヶ月後くらいに、(『SHOGUN 将軍』作曲家の)ニック(・チューバ)から連絡が来ました。

――Instagramなんですか!すごいですね。そこからオファーになったんですね。

最初はどういうプロジェクトのものなのかも全然言われずに、1曲ずつ作っていました。何曲か作っていくうちに、後から真田広之さんが関わっておられるものだということを知りました。そしてハリウッドの作品だということも後で知らされました。

――本編でも多用されている雅楽という音楽を突き詰められるようになったきっかけはありますか。

実はこれもたまたまなんです。東京藝術大学を卒業した後に作曲家として仕事をしていたのですが、藝大にある陳列館という美術館で、法隆寺の展示会があると言われまして。そのBGM の依頼を受けて、何も雅楽のことを知らなかったのにいきなり先生から、“1階雅楽、2階声明(しょうみょう)”と言われて。もうそれだけで打ち合わせが終わっちゃって、2ヶ月後に納品をするということになったんです。当時は雅楽のこともわかっていなかったので、1ヶ月ちょっとの間でものすごく勉強しました。

オープン当日の内覧会で、最初に来られたのが坂本龍一さんでした。一通りご覧になった後、坂本さんに呼ばれたんです。そして「これ君が作ったんでしょ?雅楽好きなの?」と聞かれたので、「知ったばかりなんです」とお答えしたら、「良いと思うよ。君は雅楽を続けたら良いと思う」と言われたんです。その時、「坂本さんが良いと思われるなら、良いんだろう」と思って少し自信が湧いたんです。

あと、雅楽という閉じられた空間の音楽が、一般の人が入られる美術館とかで広まることを雅楽奏者の方たちが喜んでくださって。それから色々ご縁があって、この10年くらい雅楽奏者の方たちと一緒に創作させていただいています。

――坂本龍一さんからのお言葉はすごいですね。アメリカでもレジェンドと思われている存在ですし。

そうですね。最初のお客さんが坂本さんなので(笑)ハリウッドでも、(坂本さんの)話は通じるかなと思ったら、みんな彼のことが大好きでした。実は坂本さんは僕の藝大の先生たちと同期なんですよ。なので坂本さんのことは皆知っているのでそれほど遠い感じの存在ではなかったんですが、アメリカ人に坂本さんとのことを言ったら、“Wow!!”みたいな反応だったんです。いいエピソードがあって良かったなと思いました。

――では、ご自身が手がけられた音楽が、映像に載って流れてくる本編をご覧になった時の感想はいかがでしたか。

初めて見たのはティザーで、そのあとは普通に配信で見ました。作品を見る前は、“やったぞ”みたいな自負の念が出るかなと思っていたんです。でも、実際は、普段からお世話になっているトッププレイヤーの方たちの音色を聴いて、嬉しいという感情が湧きました。たとえば、龍笛奏者である伊崎善之さんの龍笛が流れた時に、いつも良いなと思って自分が聞いている音色なので、それを世界中の方が聴いているんだと思い、それが何より嬉しかったです。海外の方からもたくさん反響があって、“雅楽好きになりました”とか“よかったです”とか直接感想をいただいて。“日本の音、良いでしょう!”と言えた感じがして、それがとても爽快でした。

――自分が好きなものが、世界の人に知られて認めてもらえるのは嬉しいですね。今回エミー賞では、最初からかなり期待されていた『SHOGUN 将軍』ですが、授賞式に参加された時のことを教えてください。

そもそもアジア人が全然いないんですよ。日本から来ている人もそんなにいないですし。僕は会場の二階席だったんですが、(授賞式のモノローグなど)アメリカンジョークだしアウェイ感がすごかったんです。外では皆ドレスアップしてホットドッグとか食べていますし。それを見て、“雅楽を伝えに来たけど、こんな人たちに通じるわけないな…”と段々弱気になってしまって。会場にいると、“こんなところで徳川家康を模した作品が受賞するのか”という気になってくるほどだったんです。

でも、真田広之さんの受賞があって、周りにいた他の俳優さんも、“真田さーん!!うわー!!”となって泣いておられて、本当に感動しました。確かに、下馬評では『SHOGUN 将軍』が受賞すると言われていましたが、実際現場に行くと、あんなロサンゼルスのど真ん中で、着物を着た日本舞台の作品が受賞するのかなと、ちょっと不安になるほどでした。

――アウェイ感はやっぱりすごかったんですね。

本当に、半端なくすごかったです。ですので、真田さんは本当にものすごく頑張られたんだろうなと思いました。

――アフターパーティーとかはいかがでしたか。

アフターパーティではニックとレオ(・ロス)と一緒にいました。有名な俳優さんとかもいっぱいいたようです。でも、ニックも、“ジョディ・フォスターしかわからない”とか言っていました(笑)ジョディは僕も分かりますけどね(笑)それまでは、ハリウッドって遠い世界の人たちかなと思っていましたが、ビール飲みながら話たりすると、皆“今どんなものを作ってるの?”みたいな感じで。誰も偉そうにもしてないですし、大学のときの感じに似ていて、とても仲間感がありました。ナチュラルにお話ができて嬉しかったです。

あと、雅楽って言っても誰もわからなかったのが、“『SHOGUN 将軍』の音楽だよ”というと、ああー!とすぐに理解してもらえました。(説明をせずに)そのレベルからお話が通じるのが嬉しかったです。

――そうなんですね。それでは最後に今後の活動やプランなど、教えていただける範囲で結構ですのでお聞かせください。

『SHOGUN 将軍』を経て、雅楽や日本の音楽をこういうふうに扱うことができるという発見や学びがありましたし、世界でも反響があったという実績にもなりました。ですが、雅楽を雅楽としてそのまま出してもエスニックすぎてあまり聴く人はいないと思うんです。そこで、ゲームや映画音楽に潜り込ませることができたら、西洋の弦楽器などとの親和性が高まると思いそのような方向で考えています。現在すでにゲーム会社の方たちとコンタクトを取っています。また、ロンドンの現代美術館の方からもプロジェクトの話が来ています。

『SHOGUN 将軍』だけで終わりにはしたくないですし、雅楽奏者の方たちもテンションが上がって来ているので、世界にもっと出していきたいなと思っています。11月1日の新曲リリースや、東京と栃木でのコンサートの予定もあります。

――これから海外ももっと行かれることになって、お忙しくなりますね。

そうですね、そうなるといいんですが。頑張ります。

リリース情報

『陵王乱序 | Ranjo』 11月1日(金)リリース

デジタル配信:https://artists.landr.com/055855754134

石田多朗『陵王乱序 | Ranjo コンサート』

栃木2025年1月/東京2025年3月
『SHOGUN将軍』以降、石田多朗が追い求め続けた音楽の新たな世界。雅楽と西洋音楽のぶつかり合いから生まれる、今までにない新しい音楽。

栃木公演 2025年1月12日(日)那須野が原ハーモニーホール
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東京公演 2025年3月9日(日)早稲田スコットホール
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『SHOGUN 将軍』はDisney+(ディズニープラス)で独占配信中。

(取材・文/Erina Austen)