ジェームズ・キャメロン「とにかく劇場で観てください!」『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』インタビュー

巨匠ジェームズ・キャメロンの最新作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』がいよいよ12月16日(金)に全世界同時公開。このたび、キャメロン監督に直撃インタビュー! 13年という長い年月をかけて製作した本作の見どころやメッセージ、さらには今後の映画業界への想いについて語ってくれた。

ジェームズ・キャメロン監督 インタビュー

「スター・ウォーズのように!」

――前作『アバター』から13年という長い月日が経過しての続編公開となりましたね。

長い時間の中で、少し傲慢と感じるかもしれませんが「一作目と同じような成功を得られるのか?」と自問自答することもありました。それでも、前作と同じキャストたちとまた一緒に働けるのはよかったですし、やりたかったゴールは一旦達成しました。

潜水艇に乗るなど、いろいろなこと、新しいことに挑戦する気持ちはまだまだ衰えていません。構想を固めていく過程で「続編だけじゃなくて、3作ぐらい撮りたい! 『スター・ウォーズ』のように!」という思いが湧きました。

新たなキャラクター、クリーチャーのために、たくさんのリサーチを重ねました。特に本作では、水中での撮影があります。そのため、新たなテクノロジー、パフォーマンスキャプチャーについての研究などにも、十分な時間を費やしました。

そして、ついに製作をスタートさせたのが2017年9月。すでに5年が経過していました。その後、およそ6カ月間ほどパンデミックの影響で何も出来ない期間もありましたね。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』場面写真

――当初の構想から、変化したことはありますか?

変わったことはありません。今、世界で起きていることと本作で伝えようとしているメッセージは、ある意味重なっているからです。

まず「家族」というテーマ。家族は、過去だけでなく将来にも関わってきます。時には「家族」ならではの悪い部分もありますが、家族の“強さ”やそこから生まれるものは変わらないと思います。

そして、世界が抱える問題の一つに「自然破壊の悪化」もありますよね。サステナビリティ、持続可能性が求められています。そんな今だからこそ、この映画を世に出す意味は一層増すと思います。

ですから、13年前から私の中では何も変わっていません。それらに言及したうえで撮影して、アイディアを試して、編集で不要なものをそぎ落として……作品を完成させました。

メイクではなくCGだからこその表現

――技術面においてお聞きします。どのように作品を作り上げましたか?

13年の月日の中で、前作と同じ技術を使用すべきか迷ったこともありました。製作過程を説明するには何時間もかかりますが、簡潔に言うとパフォーマンスキャプチャーを使用しました。

メイクをすればいいと思う方もいるかもしれませんが、パフォーマンスキャプチャーはよりリアルに感じさせることができるんです。青いファンデーションを肌に塗っているようには見えない。皮肉なことに、現実よりもリアルに見えるんです。

大きな瞳、長い手足など生物学上の変化はCGだからこそ可能でした。メイクとCGではずいぶん異なります。ナヴィたちのスラっとしたスタイルを、現実でもありえそうに見せたかったんです。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』製作風景

シリーズとしては、マーベルやスター・ウォーズのような世界には追いつけないかもしれませんが、今後は何かスピンオフなども作れたらなと思います。そのためには、早く作品を作り上げないといけない。そんな考えもあって、今はAIなどを研究しています。

故郷を離れ、海が舞台に。そこに潜むメッセージとは

――『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』では、故郷を離れて他の場所に移動する家族の絆が描かれています。本作を通じて、特に伝えたいメッセージは何ですか?

本作は、海をテーマにした物語です。それはつまりネイティリ(ゾーイ・サルダナ)が育った場所でもあり、ジェイク(サム・ワーシントン)が自分の家として受け入れたパンドラの森を離れるということです。

新たな舞台となる海は美しく魅力的ですが、ネイティリにとっては自分の住むところではない。劇中では、馴染むことができず、情緒不安定になる彼女の様子が描かれます。

現実においても、世界中にはさまざまな理由で自分が生まれた場所、慣れた場所から離れることを余儀なくされる人々がいますよね。家族間の問題を抱える人もいると思いますが、実質的には離れていても、どこかで繋がりたいと思う人や離れたくないと思う人もいると思います。そんな人たちにとって、本作は共鳴できるのではないでしょうか。

一番の問題は、家族の縁は切れないというもの。どうにかして解決しなければいけないんです。そのため脚本を執筆するうえでは、ジェイクとその息子ロアク(ブリテン・ダルトン)のように、父と子どもの緊張感を大切にしました。

私は子どもの頃、シガーニー・ウィーヴァー演じるキリのように、周囲とうまく馴染めない……そんな疎外感を抱えていました。そして、ロアクのように、父親は僕のことをわかってくれない、とも思っていました。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』場面写真

当時の私には父との間に緊張感がありましたが、50年経った今、私は5人の子どもがいます。10代の頃、誰もがこのような不安を感じますよね。このほかにも、友達に受け入れられるのか、誰が友達になってくれるのか、自分が世界とどういう関わりを持てるのか……とか。

私は60年代に育ったのでベトナム戦争や公民権運動、冷戦などを経験しました。今は、よりひどいと言えますよね。大変なこの時代に若い世代が本作を観て、200年後の世界でも遠く離れた星で同じようなことが起こっているんだな、自分だけでなくみんな同じ問題を抱えているなら、心配してもしょうがないんだな、なんて思ってくれるかもしれません。

つまり、この映画で伝えたいことは、劇中の「I see you.」というセリフのように、見てくれている誰かがいるということです。

――『ターミネーター』シリーズなど、キャメロン監督作品の特徴の一つとして「あってほしくない未来」と、それに対する「希望」が描かれる、というものがあると思います。監督は何に対して希望を感じますか?

父親として、子どもたちの未来を守ることを常に考えています。一般的にSF作品では、あまり喜ばしくない未来が描かれていることもありますが、そこには「警告」意味も含まれていると思います。

それは、ガードレールのように必要不可欠なものです。有名なSF作家のアイザック・アシモフが「SFとは逃避だ」という言葉を残していますが、私は将来を見据えるものだと思っています。とはいえ、ただ警鐘を鳴らすだけの映画は作りたくない。誰もが惹かれる世界を作りたいという思いがありました。私にとっての希望は、「観客と映画が繋がること」なのです。

もし私たちがロボットだったら、美しいものを見ても何も感化されませんよね。海の美しさを見て、感情溢れるキャラクターたちに触れて、彼らと繋がる。感情を揺さぶられて、何かを感じたら、そこに希望が生まれると思っています。

特に、気になるのは、本作をどれだけの人が観て、どれだけの人が影響を受けるかです。映画によって人々を感化させることは期待していませんが、ちょっとした変化を与えられたらいいなと思っています。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』場面写真

実は、前作『アバター』にインスパイアされて熱帯雨林で働いたり、先住民の人と助け合ったり、自然環境に対する行動を起こした人がいるんです。私自身、前作の後に先住民のコミュニティに関わっている世界中の人から「ここに来て私たちに何かしてください」とか、「光を照らすようなものを作ってください」という声を聞きました。

続編公開までに時間がかかったのは、2~3年ほど先住民たちの活動を手伝っていたからなんです。その中で、私のやるべきことは、映画、そして『アバター』シリーズを作ることだと気付きました。私が映画を作ることで、より貢献できるのでは、と思い至ったのです。

映画業界はまさに「過渡期」

――パンデミックによって、映画業界にも大きな変化があったかと思います。今の映画業界に対しての考えをお教えください。

私が思うに、映画に関わっているすべての人が世界中で同じ課題に直面していると思います。「作品を配信用に作るのか? それとも劇場用に作るのか? さらには上映後に配信されるのか?」これは映画業界全体にとって大きな決断です。

我々は、まさに過渡期の中にいます。また復活の兆しはありますが、パンデミック中は閉館する映画館が多く、北米では配信が儲かりました。その間、劇場がおざなりになってしまったんです。ですから、私たちは劇場を欲しないといけません。映画の製作・配給に携わっている人々を大切にしなければいけません。映画はとても大事なものなのです。

「映画」はいつかなくなる文化なのか? あるいは限られた人だけのとてもニッチな存在になってしまうのか? 『アバター』や、『トップ・ガン:マーベリック』、そしてマーベル作品のようでなければ、経済的に成り立たないのか? 本作でさえ、この先続編を製作できるかまだわかりません。

我々は、縮小された映画市場を乗り越えていけるのでしょうか。私は乗り越えられるよう、願っています。私はある意味、化石というか恐竜ですよ(笑) だけれども、なんとか監督としてやっていけています。今後、もし配信でのみでした仕事をもらえないのであれば、不本意ではありますが、それに合わせてやっていくしかないかもしれませんね。

ジェームズ・キャメロン監督『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』

キャメロン監督おすすめの視聴方法とは

――今こそ劇場の大切さを振り返るときかもしれませんね。本作では、IMAXや4DXなど、さまざまな鑑賞フォーマットが用意されていますが、監督のおすすめは何でしょう?

とにかく劇場で観てください! DVDや配信を待ってはいけません。本作は、大きな画面で観ることを想定して製作しています。映画館で観ると、きっともう一回観たくなることでしょう。何か見逃したものがないか、気になってくるはずです。何度も鑑賞できるように、長期的に上映されることを願っています。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は、全国の劇場にて公開中。(海外ドラマNAVI)

Photo:『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト:https://www.20thcenturystudios.jp/movies/avatar2