最前線の恐怖と人間の情念が交錯する戦争映画の新たな傑作が誕生、『アベンジャーズ』シリーズのルッソ兄弟入魂の最新作

『アベンジャーズ』シリーズ(『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』)のジョー&アンソニー・ルッソ兄弟が、アメリカの雑誌「ザ・ニューヨーカー」に掲載されたルポルタージュに衝撃を受け、プロデュースを買って出た最新作『モスル~あるSWAT部隊の戦い~』。最前線のリアルな臨場感と追い込まれた人間の狂気が観る者の胸をかきむしる本作は、『ハート・ロッカー』『ダンケルク』『1917 命をかけた伝令』に続く、新たな戦争映画の傑作と言えるだろう。【映画レビュー】

舞台は、長引く紛争で荒廃したイラク第2の都市モスル。この地で働く21歳の新人警察官カーワ(アダム・ベッサ)は、IS(イスラム過激派組)に襲われたところを元警察官で編成されたSWAT部隊に救われる。リーダーのジャーセム少佐(スへール・ダッバーシ)は、ISに身内を殺されたという"入隊条件"を満たしていたカーワをその場でSWATの一員に徴兵。ある"使命"を果たすため、彼らはさらに危険な戦場へと身を投じていく。

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本部からの命令を無視してまで、独自の戦闘を貫くSWAT部隊の真の目的とは...。その内に秘めたモチベーションがこの映画の熱量に直結し、「何のために命を危険にさらしているのか?」という"謎"を生んでいるところが実に秀逸だ。最前線を突き進むにつれて、その目的が徐々に明らかになっていくのだが、愚かな戦争をより浮き彫りにする彼らの壮絶な戦いは、最終的に反戦へのメッセージとして観る者に強烈に跳ね返ってくる。

大局的に見れば、ベトナム戦争の敗北によって、戦争映画はヒーローものからアンチ・ヒーローものへと変化し、その後リアルな銃撃戦が話題となった『プライベート・ライアン』の技術的革新によって、戦争の恐ろしさをより際立たせる作品が次々と登場した。『ハート・ロッカー』『ダンケルク』『1917 命をかけた伝令』などオスカーを賑わす傑作たちは、能天気な戦争ヒーロー・アクションを衰退させていったと言っても過言ではない。

本作は、まさにその流れの汲む最新の映画であり、地雷や狙撃、自爆テロなどによって次の一歩が死に繋がる緊迫感、まるでその場に放り込まれたかのような臨場感は、前述の傑作たちに決して引けをとらない。だが、この映画をよりエモーショナルなものにしているのは、家族や恋人、友人への"深い愛情"が、不幸にも戦いのエネルギーになっているもどかしさだ。

メガホンをとったのは、『ワールド・ウォーZ』(ブラッド・ピット主演)のシナリオで絶賛された名手マシュー・マイケル・カーナハン。ルッソ兄弟のもと、脚本家にとどまらぬ彼の監督としての才能が花開いたことも朗報だが、何より実話に基づくイラクの紛争をハリウッドで真摯に映画化したところが実に興味深い。

映画『モスル~あるSWAT部隊の戦い~』は公開中。

(文/坂田正樹)

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