2009年1月、日本が誇る特撮ヒーロー番組の代表格『仮面ライダー』が全米上陸を果たした。その名も『KAMEN RIDER DRAGON KNIGHT』。2002年に日本で放送されていた『仮面ライダー龍騎』のリメイク版だ。
特撮ヒーローモノは"TOKUSATSU"として全米でも認知され、これまでにも『パワーレンジャー』シリーズがアメリカの子どもたちを魅了した中、今回の『KAMEN RIDER DRAGON KNIGHT』も大好評。日本に逆輸入され、東映チャンネルで吹替版の放送がスタート。ヒーロー大好き!なチビッコやオタク目線のコアファンだけでなく、今まさに海外ドラマファンが仮面ライダーの世界に引き込まれようとしている!?
今回、海外ドラマNAVIでは、そんな壮大な計画(?)の全貌を解き明かすべく、その日本語版制作現場に潜入っ! イケメンライダー、レンの吹き替えを担当する、これまたイケメン俳優の松田悟志さん(『仮面ライダー龍騎』に蓮(レン)役で出演)、主役のキットを担当する声優の鈴木達央さん、そして『KAMEN RIDER DRAGON KNIGHT』のチーフプロデューサーであり、平成仮面ライダーシリーズの生みの親ともいうべき存在である、東映のプロデューサー白倉伸一郎さんに、番組の魅力や制作の苦労について聞いてみた。
俳優:松田悟志
■オリジナルに劣らず、リメイク版の完成度は高い!
唯一、オリジナルの『仮面ライダー龍騎』に秋山蓮として出演、リメイク版にも同じレン役で吹き替えを担当している松田さん。リメイク版を初めて観たときの率直な感想を聞いてみることに。
「1話、2話を観た段階で、本当に驚きました。龍騎がちゃんと海外ドラマになってる!って。海外ドラマには日本のドラマと違う独特の雰囲気があるじゃないですか。あの雰囲気が仮面ライダーの世界に持ち込まれているのはとても不思議な感覚でした。日本のお家芸である特撮ヒーローの真打ち、仮面ライダーが世界に注目されて海外ドラマになり、今度はそれが日本に帰ってきて吹き替え版に。しかも、自分はオリジナルとリメイク版の両方に携わっている...。考えれば考えるほど奇跡的な縁を感じます。ストーリーの方は、"ベンタラ"というパラレルワールドの設定により、より一層複雑になっているので、龍騎を観ていた方たちにも新鮮な気持ちで楽しんでもらえる作品に仕上がっています。それにしても...、リメイク版のレンは龍騎の時の蓮(レン)と違って、彼女に対してデレデレし過ぎ! 鼻の下が伸び過ぎていて、どう演じていいかわからなかったですよ(笑)」
なるほど。『KAMEN RIDER DRAGON KNIGHT』は仮面ライダーでありながら、海外ドラマとしてきっちり成立しているとのこと。ちなみに松田さんは、リメイク版のレンとオリジナルの蓮はまったく違ったキャラクターのつもりで演じているそうだ。
■日本とアメリカではアクションに求めるものが違う!?
続けて、オリジナルとリメイク版のアクションの違いについても聞いてみた。
「リメイク版はやっぱり派手になってますよね。とにかく動作が大きい。レンを演じているマット・ミューリンズという役者さんは、特にものすごく動ける人で。それにカメラアングルとのバランスを意識しているのか、ライダーに不必要な開脚(笑)があったり。スローモーションが多用されているのも特徴的です。とにかく、エンターテインメント性に長けているんですよね。それに対して日本のオリジナルのアクションは、こじんまりまとまっているけれど、スピーディで歯切れ良く美しい。おそらく、アメリカと日本ではアクションに求めているものが違うんでしょうが、それがうまく融合しているのが面白いと思います」
確かに。本編を観てみると、松田さんの言うとおり『KAMEN RIDER DRAGON KNIGHT』のアクションは派手("不必要な開脚"、こういうの嫌いじゃありません!)。ちなみに、『KAMEN RIDER DRAGON KNIGHT』ではオリジナルのアクションシーンをそのまま流用している場面も多い。うまく切り貼りされているので、サラッと観ると気が付かないこともあるけれど、「ここ日本じゃん!」と突っ込みを入れながら観てみるのもオススメだ。
声優:鈴木達央
■1回観ればハマること間違いなし!
キットは『仮面ライダー龍騎』の城戸真司にあたり、まさにドラマの主役。今回、吹き替えを担当している鈴木さんは、リメイク版の魅力をこう語ってくれた。
「オリジナルである『仮面ライダー龍騎』の世界観が、アメリカ人の解釈で新しいかたちに生まれ変わったわけですが、無駄のない仕上がりに本当に驚かされます。それでいて、心のこもった作品になっているんですから類い希じゃないですか? さらに、それが日本に戻ってきて"吹き替え"という作業によって新たな命を吹きこまれた。完全に100%以上の出来栄えです。サラッと観ても楽しめるんですが、ドップリ、ガッチリ観ても見応えがある作品。1回観てもらえさえすれば、面白い!と思ってもらえる自信はあります」
仮面ライダーがリメイクされたことだけでも興味深いのに、さらにそれが日本に戻ってきて吹き替え版が作成されている...。この二重構造がドラマにさらなる魅力を生んでいるというわけだ。
■博学ってわけじゃないんですが...
松田さんもアメリカと日本のアクションの違いについて語ってくれたが、鈴木さんはこう表現してくれた。
「確かに、アメリカと日本とではアクションに求めるものが違うのは確かですね。言ってみれば、「庭園美術」と「ガーデニング」の違いかな?」
いやぁ、鈴木さんって博学! 鈴木さん、実は海外ドラマにもかなりコアな知識をお持ちなようで...
「父親の影響で昔の海外ドラマもたくさん観ています。『ナイトライダー』、『超音速攻撃ヘリ エアーウルフ』、『0011ナポレオン・ソロ』とか。最近のもので好きなのは、『バトルスター・ギャラクティカ』や「CSI」シリーズ。でも、なんといっても大好きなのが『特攻野郎Aチーム』。この業界の中では誰よりも『特攻野郎Aチーム』に詳しいと自負しています。 映画化の情報? 逐一チェックしてますよ。吹き替え版が作られるときには、ぜひぜひ参加したい!本当に出たい!」
いやあ、鈴木さんスゴイ意気込み。NAVIがプロデューサーなら、絶対に鈴木さんをキャスティングしちゃうゾ。
プロデューサー:白倉伸一郎
■リメイク版に異存なし!
続いて、『仮面ライダークウガ』以降のいわゆる「平成仮面ライダーシリーズ」を牽引してきたプロデューサーの白倉さんを直撃! まずは『仮面ライダー龍騎』にリメイクの話が持ち上がったときの気持ちを伺ってみた。
「よりにもよって龍騎か!と思いましたね。龍騎は仮面ライダーが13人もいてストーリーが複雑。仮面ライダー同士が最後の1人になるまで闘うという特殊な設定や、独自の世界観をうまくローカライズするのは簡単ではないだろうなと思いました。アメリカ人にしてみれば、仮面ライダーの数が多いことで派手なイメージを打ち出しやすい龍騎に目を付けたのは当然のことかもしれませんが。特に『へたにリメイクされるのは嫌』というような意識はありませんでしたね。」
『仮面ライダー龍騎』は、正義のヒーローであるはずの仮面ライダー同士の殺し合いが、世間に物議を醸した話題作でもある。複雑に絡み合うキャラクターたちが織りなす奥の深いテーマを、アメリカ人がどのように解釈するのか、またはできるのか、疑問に思うのは当然のことかも。
■リメイク版は想像を超える出来栄え
しかし、白倉さんの懸念はいい意味で裏切られる結果となる。
「企画書の段階で、『KAMEN RIDER DRAGON KNIGHT』には悪の親玉ゼイビアックスというオリジナルのキャラクターを投入し、敵・味方を分かりやすくするとありました。ある意味予想通りの展開に『なるほどな』と思いましたが、蓋を開けてみたら意外や意外。龍騎の世界観がアメリカ的に咀嚼され、想像以上に活かされていたんです。キット(龍騎の城戸真司)とレン(龍騎の秋山蓮)を主軸にした群像劇には、オリジナルの世界観がうまく踏襲されていて驚きました」
また、キットとレン以外のキャラクターには、多民族国家であるアメリカらしく、バラエティ豊かな役者陣を揃えてキャラクターの個性を差別化しているあたりも秀逸だ。
「日本は多民族国家ではないので、吹き替え版にするときにはどうやってキャラクターの差別化をしようかと悩みました」
その結果、ダニー(仮面ライダーアックス)のセリフは関西弁にするといった工夫がなされている。
「"ベンタラ"と呼ばれるパラレルワールドの設定も面白いなと思いました。同じDNAを持つ人間が現世界にも並行世界にも1人ずついる。それにより仮面ライダーも現世界と並行世界に1人ずつ存在するという発想は、龍騎の"ミラーワールド"の世界観をうまくアレンジしてくれたなと思いました。例えば主人公のキットと並行世界にいるアダムは同じDNAを持つ人物です。もちろん見た目もウリ二つ。ところが、キットは正義を選び、アダムは悪の道を選ぶ、つまり同じ人間がある出来事に直面した際、どのような選択をするかは本人次第なのです。このキットとアダムの対比は善と悪の対比であり、人間の心情の揺れを効果的に表しているなと思いました。さらに、同じDNAを持つウリ二つの2人が、それぞれの世界を行き来することで、ほかのキャラクターも絡んで新たなドラマが生まれる...。こういう手法もあるのか、と勉強になりましたね。1人の役者が2人のキャラクターをうまく演じ分けられるか、展開が複雑になりすぎないかと心配しましたが邪推でした」
■吹き替えの苦労
仮面ライダーのことは知り尽くしている白倉さんだが、「吹き替え」は未知の世界。今回、吹き替え版の制作で苦労した点についても聞いてみた。
「仮面ライダーでは、変身後のビジュアルは日本もアメリカも一緒。それだけに、日本語に吹き替えたときにアメリカらしさが消えてしまうことだけは避けなければと考えました。だからこそ、日本人にわかりやすく意訳していただいた台本を、わざと原語寄りの表現に書き戻すという作業も行っています。アメリカンジョークも、なるべくそのまま使いますしね。難しいのは、日本語と英語のニュアンスの違い。日本語では一言で表現できるものが英語ではそれに対応する言葉がない、またはその逆もあります。YESとNOを表す仕草(頷く、首を振る)も、日本とアメリカでは逆になったり。それをうまくフォローするためには、どうしても台本に手を入れる必要がありました。仮面ライダーは日本発祥。それだけに、いろいろ詰め込もうとがんばって、早口になってしまった部分もあり、吹き替えは本当に奥が深いなと思い知らされました」
白倉さんは、本当に細かく台本の手直しをしている。通常なら、演出家まかせになる場合も多いだろうと想像するが、プロデューサーという立場でここまで現場に深く入り込んでいるとは。そのこだわりには驚かされるばかり!
■日本が誇るスーツアクション!
松田さん、鈴木さん同様、日本とアメリカのアクションの違いについて白倉さんにも聞いてみた。
「日本では着ぐるみを着てアクションや演技をこなす"スーツアクター"と呼ばれる役者がいますが、アメリカにはそのような役者はいません。向こうで新撮されたアクションには、映像的に見栄えの良い大技が多いのが特徴ですが、それはあくまでも"アクション"であり、"芝居"ではない。その点、日本では、たとえ着ぐるみを着ていても"芝居"の部分が求められる。動けて演技もできるスーツアクターは、日本の財産なんです。現地でも撮影が進むにつれ、日本のスーツアクターたちをどんどん招聘するようになったと聞いています」
実は『KAMEN RIDER DRAGON KNIGHT』でも、日本人スーツアクターが活躍しているというわけ。
さて、特撮ヒーローモノでは必須のこのスーツアクション、変身前と変身後のキャラクターが結びつきにくくなる場合がある。変身後の新撮のアクションは、"芝居"の要素が足りない分、より一層似たようなイメージに陥ってしまう恐れは?
「鈴木君、松田君をはじめ、日本語版キャストたちは自分の役をつかもうと必死になって努力してくれています。アクションシーンでも、積極的にアドリブを入れてくれているんですが、それが変身前と変身後のキャラクターを結びつける重要な役割を果たしています」
変身前と変身後、スムーズに同じキャラクターとして観ていられるのは、役者陣の努力の賜なのだと実感。
さて、そんな役者陣のアドリブのことなど、アフレコ現場の取材レポはまた次回。松田さん、鈴木さんが語る裏話も交えてお届けしちゃいます!
■放送情報
『Kamen Rider Dragon Knight(仮面ライダードラゴンナイト)』
【放送】東映チャンネル
【レギュラー放送】毎週火曜日 16:00~17:00
【再放送】木曜日 18:00~ 日曜日 11:00~ 火曜日 6:00~ 木曜日 8:00~
※毎週2話ずつ放送
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ライタープロフィール
やなぎだるみ
海外ドラマで情操教育に取り組む子持ちライター。 ソフトウェア解説書の執筆等、テクニカルライティングの分野でも活動中。最近は、クリンゴン語の研究にはまっている。