「アメリカの”アワード”って、今いったいどれだけあるんだろう?」というふとした疑問からこのコラムがうまれました。知っておくとNAVIのニュースがもっと楽しくなるはず!是非ご覧ください。(編集部)
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第74回エミー賞ノミネート一覧 最多はHBOのあのドラマ!
⽶国テレビ芸術科学アカデミー主催で毎年アメリカのテレビ業界で …
映画の《アカデミー賞》・音楽の《グラミー賞》・演劇の《トニー賞》と並ぶ、“テレビ界最高峰のアワード”=《エミー賞》。
海外ドラマ好きにはもう常識だろうが、ひと口に《エミー賞》と言っても実はいろいろ。
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1月上旬:《技術・工学エミー賞》(技術・工学面でテレビ界の発展に寄与した人や団体を称える)
4月下旬~5月上旬:《スポーツエミー賞》
6月頃:《デイタイム・エミー賞》(ソープオペラやトークショーなど早朝~夕方の番組が対象)
9月末~10月初め:《ニュース&ドキュメンタリー・エミー賞》(報道・ドキュメンタリー番組が対象)
11月:《国際エミー賞》(米国外の番組を対象に、国際テレビ芸術科学アカデミー(IATAS)が授与)
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これに加え、米国内20の各エリアで放送されたローカル番組が対象の《地域エミー賞》もある。
そして毎秋、TV芸術科学アカデミー(ATAS)主催で行われるのが《プライムタイム・エミー賞》。ふつう「エミー」といえば、事前に発表されるクリエイティブアーツ部門を含め、この《プライムタイム・エミー》のことを指す。【夜間(現行規則では夜6時~午前2時)に放送され、アメリカ国民の半数以上が「見ようと思えば見られる環境」にある番組】が対象で、授賞式は例年9月、たいてい第3か第4日曜の夜。4大ネットワークが持ち回りで中継し、日本でもAXNが毎年オンエア。ちなみに今年は現地時間9月22日(日)夜、CBSで生中継の予定だ。
★これぞエミーの前哨戦!《ギルド系アワード》
そのエミー賞は、放送業界に身を置く28職種1万5000人以上のATAS会員による投票で決まる。1月の《ゴールデングローブ賞》はアカデミー賞だけでなくエミー賞の前哨戦としても注目されているが、エミーの行方を占うには、ハリウッド外国人記者協会がエンタメ通な感じで選ぶゴールデングローブより、投票者が重なるギルド(組合)系アワードのほうが適任。
米ショウビズ界には職種別に組合が細かく分かれて存在し、それぞれに組合賞がある。メンバーが同業者を評価し、その功績を称えあうのがギルド系アワードだ。
「4大組合賞」といわれる《全米映画俳優組合(SAG)賞》《全米製作者組合(PGA)賞》《全米監督協会(DGA)賞》《全米脚本家組合(WGA)賞》のほか、《美術監督組合(ADG)賞》《特殊効果監督協会(VES)賞》《アメリカ撮影監督組合(ASC)賞》《映画音響協会(CAS)賞》《アメリカ映画編集者協会(ACE)賞》《衣裳デザイナー組合(CDG)賞》・・・など挙げればキリがないが、これら全てにTV部門があり、どれも1月末から2月にかけて発表される。
「組合賞に選ばれる」=「業界のプロフェッショナルから認められた」ということ。テレビ好きの素人から何万回ホメられるよりずっと嬉しく、はるかに名誉なことのはず。
★受賞で格が上がる? ”放送界のピューリッツァー賞”
ジョージア大学ジャーナリズム・マスコミュニケーション専攻科(グレディ校)が選出・表彰する《ジョージ・フォスター・ピーボディ賞》も、名誉あるアワードのひとつ。
第1回の発表は1941年。エミー(1949~)やゴールデングローブ(1944~、TV部門は1956~)より歴史がある。
毎年3月末~4月初めに発表されるが、カテゴリーは特に定めず、候補の中から「社会的意義がある優れた作品」と認められたものに贈られる。ドキュメンタリー・報道番組だけでなくドラマやコメディも対象で、去年は38の団体・作品が選ばれ、『HOMELAND』『ゲーム・オブ・スローンズ』『Parks and Recreation』『The Colbert Report』などが受賞した。
アメリカ最古の公立大学による最古のメディア賞。権威あるアワードだけに、選ばれればハクもついてかなりのイメージアップに!
★名前は似てるけど・・・な3つの《チョイス・アワード》
1月の《ピープルズ・チョイス・アワード》と、夏休み中(7~8月)の《ティーン・チョイス・アワード》、そして春休み(3月末~4月初め)に開催の《キッズ・チョイス・アワード》。これらは「兄弟賞」のように思われがちだが、実際は関係ない。
一番古いのは《ピープルズ・チョイス・アワード》で、第1回は1975年。18歳以上の視聴者が対象だが、年齢制限は特になし。授賞式はプロクター&ギャンブル(P&G)の提供でCBSが放送する。
次に設立されたのは、スターがスライムまみれになることでおなじみの《キッズ・チョイス・アワード》。12歳以下をターゲットとして1988年に始まった。授賞式は主催するニコロデオンが放送。
その後、両賞の間を埋めるカタチで、13~19歳男女が対象の《ティーン・チョイス・アワード》が誕生したのが1999年。トロフィー代わりにサーフボードが贈呈される授賞式は、FOXが主催・中継している。
後発二つは《ピープルズ~》を意識したに違いないが、一応まったく別モノ。《ティーン~》は、ターゲットが十代だけにとにかく「若くて軽い」ラインナップ。《キッズ~》もローティーン向けシットコムが多く、オトナな海ドラファンは興味薄かも?
授賞式自体も騒がしいが、候補者や受賞者がエミーなどでは絶対見られない顔ぶれだったり、スターの意外な表情が見られたりするのは楽しい。
視聴者投票で決まるこれらのアワードは、「優れた作品・人物」ではなく「より多くの人に好まれたもの」が受賞する。あくまで人気投票。だから授賞式もほとんど「お祭り」。テレビ中継もあるから盛り上がり重視なのは仕方ないが、欠席者より会場に来ている人、演技派俳優よりエンターテイナー、重厚な作品よりライトな話題作に賞が偏りがちなのは微妙に気になる。(写真は「第39回ピープルズ・チョイス・アワード」好きなTVコメディ男優賞受賞のクリス・コルファー)
★テレビ批評のプロが選ぶアワード
「専門家」の意見を知りたいなら、6月に行われる《放送映画批評家協会テレビ賞》と7月下旬~8月初めの《TCAアワード(テレビ批評家協会賞)》をチェックしておこう。どちらも、TVの世界を知り尽くしたジャーナリストが選ぶもの。映画やウェブに枠を広げず、TV番組だけに的を絞っている。批評家には目新しさを求めるタイプが多いせいか、《TCAアワード》では、新作やシーズン浅めのシリーズが選ばれやすい。もしくは長寿ドラマがファイナルを迎え「おつかれさま」的に受賞するパターン。
一方、放送テレビジャーナリスト協会の《放送映画批評家協会テレビ賞》は、今年で3年目のニューフェイス。注目は「最もエキサイティングな新シリーズ」というカテゴリー。夏以降、特に楽しみな新作がリストアップされる。
前回は、ケヴィン・ベーコン主演のスリラー『The Following』、日本でも4月放送スタートの『ニュースルーム』、インド系産婦人科女医がヒロインのコメディ『The Mindy Project』、女性カントリー歌手の新旧対決を描く『Nashville』、シガーニー・ウィーバー主演の『Political Animals』が挙げられた。TV批評を生業とする現地の識者が、どの新番組に期待しているのかが一目瞭然。中にはさっそくキャンセルの番組もあるが、ヒットはほぼ読みどおり!?
エミーのような名のある賞を獲ったからといって、すぐさまギャランティが上がるわけではない。だが、より良い条件で契約を更新する交渉に有利なのは確か。受賞で話題になればレーティング増が見込め、番組の寿命が延びる可能性も高まって、結果、仕事の安定と収入増につながる。さらに「××賞○部門受賞!」などのコピーが付けば、日本をはじめ国外に放送権を売りやすくなるし、ソフト販売にも好都合。その賞が世界的に有名なら受賞メリットはより大きい、というワケ。
とはいえ、決してメジャーな賞だけではないのがTV関連アワードの面白いところ。
★○○限定! マニアも喜ぶニッチ系アワード
ノミネート条件が厳しい、というか、対象が限定的なものも多い。たとえば、6~7月の《サターン賞》、8~9月の世界SF大会で発表される《ヒューゴー賞》。この二つは、人気はあってもメジャーな賞には縁がないSF・ファンタジー・ホラー作品にとってはハレの舞台。他アワードではあまり見ない名前がリストに並ぶ。
特に《ヒューゴー賞》は大会来場者の投票で決まることもあって、結構マニアックというかシブいセレクト。『バビロン5』がヒット映画の『アポロ13』『インディペンデンス・デイ』を押さえ、作品賞2連覇を果たしたこともあった。(写真は2012年のヒューゴー賞ベスト・ドラマチック・プレゼンテーション(長編)部門を受賞した『ゲーム・オブ・スローンズ』TVシリーズの受賞は初!)
このほか、ニッチ系アワードをリストアップしてみると・・・
◆《TV Landアワード》
このアワードが表彰するのは、もう放送されてない「なつかしの名作」。
クラシック番組専門局:TV Landが毎年春に開催していて、近年の受賞作も『ダラス』『ファミリー・タイズ』『チアーズ』『コスビー・ショー』『TVキャスター マーフィー・ブラウン』・・・と、そこはかとなくカビ臭さが漂う。
◆《ALMAアワード》
「alma」は魂・精神・中心人物を意味するスペイン語。
映画・テレビ・音楽界で貢献したラテン系アメリカ人を表彰するアワードで、ここ数年は9月に開催。個性派が多く、年々存在感を増すラティーノ俳優の層の厚さを実感できるアワード。前回は、ナヤ・リヴェラ(『Glee』)、リコ・ロドリゲス(『モダン・ファミリー』)、ジョン・ウエルタス(『キャッスル』)などが選ばれている。
◆《BETアワード》
エンタメやスポーツなどで活躍したアフリカ系アメリカ人と国内のマイノリティを称える賞。
例年6月下旬に催され、TV中継もある。アフリカン・アメリカンのスターが一堂に会するイベントはかなりの迫力。有名アーティストのパフォーマンスアクトがふんだんに盛り込まれるのも恒例で、音楽ファンにも見逃せない。おととしのテレビ部門では、イドリス・エルバ(『刑事ジョン・ルーサー』)が男優賞、タラジ・P・ヘンソン(『Person of Interest』)が女優賞に輝いた。
◆《GLAADメディア・アワード》
「中傷と闘うゲイ&レズビアンアライアンス」が、LGBTとそのコミュニティに関して差別なく公正な知識を広めたメディアに与える賞。セレモニーは、例年春にニューヨーク・ロサンゼルス・サンフランシスコで行われ、今年も3~5月に開催予定。
過去には『シックス・フィート・アンダー』『ウィル&グレイス』『Glee』『ブラザーズ&シスターズ』など、ゲイキャラがコアメンバーにいる番組が受賞。去年は『グレイズ・アナトミー』と『モダン・ファミリー』が最優秀シリーズに選出された。
メインの登場人物がLGBTな設定のTVシリーズは、近年増加傾向。このアワードも、今後さらに注目度アップしそう。
◆《環境メディア・アワード》
毎年秋、環境問題を取り上げた作品やエコなライフスタイルの有名人に与えられる。
去年は『CSI:科学捜査班』第11シーズンの「天然ガス採掘が原因で井戸水が汚染され、住民に健康被害が出た」エピソード(第8話「冒された町」)や、『BONES』第5シーズンの「養鶏場の従業員がブロイラーのごとく惨殺された」エピソード(第6話「チキンファーム殺人事件」)などが受賞。メキシコ湾原油流出事故の際の活動などが評価されたイアン・サマーホルダー(『ヴァンパイア・ダイアリーズ』)も表彰された。
授賞パーティの料理には地元の有機野菜を使い、食器は土に還る素材を使用。余った食材・料理はシェルターに寄附する――という、ハリウッドの住人が好みそうなエコフレンドリーさ。…ならばいっそ電気を一切使わない授賞式にしたらどうか?
海外ドラマファンなら押さえておきたい、アメリカのアワードあれこれ。メジャー級から地味すぎるものまで挙げてみたが、それぞれに特徴があって傾向も違う。
『バフィー ~恋する十字架~』や『FRINGE/フリンジ』みたいに、著名アワードの主要部門では見向きもされなかったが、キッズ&ティーン・チョイス・アワードやサターン賞では常連だったり、『Dr. HOUSE』と主演のヒュー・ローリーのように、ゴールデングローブやギルド系アワード、ピープルズ・チョイスなどは何度も受賞しているのに、エミーでは報われなかったり。長く続く人気シリーズでも、なかなか越えられないハードルがあるメディア・アワード。各賞の性質とともに過去の受賞リストを眺めてみると、意外な発見があるかも?
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【参考資料】
紹介したアワードを時系列でまとめてみました。今月、どんなアワードがあるか、NAVIのニュースとともにチェックしてみてください!※各アワードの都合で変更になることもあります。
1月上旬~中旬:《ピープルズ・チョイス・アワード》
1月上旬:《技術・工学エミー賞》
1月中旬~下旬:《ゴールデングローブ賞》
1月末~2月:《全米映画俳優組合(SAG)賞》《全米製作者組合(PGA)賞》《全米監督協会(DGA)賞》《全米脚本家組合(WGA)賞》《美術監督組合(ADG)賞》《特殊効果監督協会(VES)賞》《アメリカ撮影監督組合(ASC)賞》《映画音響協会(CAS)賞》《アメリカ映画編集者協会(ACE)賞》《衣裳デザイナー組合(CDG)賞》
3月末~4月初め:《ピーボディ賞》
3月末~4月初め:《キッズ・チョイス・アワード》
3月~5月:《GLAADメディア・アワード》
4月ごろ:《TV Landアワード》
4月下旬~5月上旬:《スポーツエミー賞》
6月ごろ:《デイタイム・エミー賞》
6月:《放送映画批評家協会テレビ賞》
6月下旬:《BETアワード》
6月~7月:《サターン賞》
7月下旬~8月初め:《TCAアワード(テレビ批評家協会賞)》
7月末~8月:《ティーン・チョイス・アワード》
8月~9月(世界SF大会の開催中):《ヒューゴー賞》
9月:《ALMAアワード》
9月~10月ごろ:《環境メディア・アワード》
9月後半:《プライムタイム・エミー賞》
9月末~10月初め:《ニュース&ドキュメンタリー・エミー賞》
11月:《国際エミー賞》
不定期(エリアごとに開催時期が異なる):《地域エミー賞》