【アメリカのTV局に潜入!企画】まさに女性のためのTV局、LifetimeTV

米国には様々な分野に特化した専門チャンネルがあります。その専門分野は、動物だったり、ドキュメンタリーだったり、旅関係とか、いろいろありますが、その中でも女性向けテレビ局を謳うのがLifetime TV。でも、何をもって女性のためのチャンネルというのか、はたまたどんな番組が放映されているのか、ちょっと気になりますよね。

80年代に女性のフィットネスやヘルス関係のトピックを売りとして開局されたLifetime TV。1994年から2006年まで、"Television for Women" という、直訳すると「女性のためのテレビ」という率直なキャッチフレーズを掲げていた、女性を対象としたチャンネルの先駆け、言うなら老舗中の老舗です。

最近では、キャッチフレーズも新たにし(しばらく迷走し続け、現在は "Your Life. Your Time."に落ち着く )、女性以外のターゲット獲得にも励んでいますが、契約している約9800万世帯の中でも相変わらず女性視聴者の支持が際立ち、類似コンセプトのライバル局「Oxygen」や「We tv」の存在をものともせず、米国の18才以上の女性からの不動の人気を誇るチャンネルです。

1週間の番組表を見てみると、平日の朝は予想通りのフィットネス関係、そして昼間は他の局の人気ドラマのリサイクル。医療ドラマなのにラブコメ要素も高い『グレイズ・アナトミー』や、『そりゃないぜ!? フレイジャー』『ふたりは友達? ウィル&グレイス』などの軽いタッチのシットコムを再放送しています。

平日の夜は、幅広い層の女性視聴者を狙ったリアリティ・ショーで攻めます。新進デザイナーを発掘する、日本でもおなじみ『プロジェクト・ランウェイ』が最も有名ですが、他にもファミリー向けリアリティ番組として、牧師のパパを持つ娘たちとその家族との関係を映し出す『Preachers" Daughters』や、ダンス界のステージママと幼い少女たちのドラマチックな舞台裏を見せてくれる『Dance moms』など、ママとティーンが一緒に見られる番組が人気です。

そして、Lifetime TVの目玉は、週末に放映されるオリジナルのドラマとTV映画です。特にシリーズドラマがオンエアされる日曜日の21時から23時の間は、18才から49才の女性の視聴率が最も高まります。現在の同時間帯は、日本に初上陸したばかりの『アーミー・ワイフ』のシーズン7と、ジェニファー・ラブ・ヒューイットが製作および主演を務める『The Client list』シリーズ2が放映中。

キャンセル発表後のまさかの大逆転で第5シーズンの製作が決定した『私はラブ・リーガル』もLifetime TVの人気シリーズです。また、当局で6月から第1シーズンが放映される新ドラマ『Devious Maids』は、超人気ドラマ『デスパレートな妻たち』のクリエーターが製作することで開始前から話題になっています。

一般的にドラマで活躍する女性と言えば、美しさが武器の女性や、美しいだけでなく賢いスーパーウーマンだったり、と現実に存在したら他の女性の妬みや嫉妬の海で溺れてしまうであろうという設定の女性ばかり。さらに、男性目線での製作だと、女性はカッコいいヒーローに助けられるだけの、きれいな格好で立ってればいい脇役だったりします。どの局も必ずチョイスする謎解きもの、犯罪ミステリーやファンタジーの主役は圧倒的に男性が目立ちます。

反して、Lifetime TV のドラマの主役は女性ばかり。しかも、パーフェクトで素敵すぎる女性像を描くのではなく、もっと現実的な視聴者に近い女性をメインにしているのが特徴です。

都会でバブリーな生活を送って...というキラキラしたリア充女性ももちろん存在するけど、現実には、不幸ではないけど不満はたんまりある、地味で平凡な生活を送る女性が大半を占めます。主婦や〇〇ちゃんのママという、社会的に認められる肩書きを持たない女性たち。どんなに仕事でがんばっても「しょせん女だから...」という目で見られる女性たち。そんな、人生においても脇役を演じているようでモヤモヤしている女性に対して、Lifetime TVのドラマは「あなたが主役です!」という強気でポジティブな女性観を見せてくれるのです。

例えば、看板ドラマ『アーミー・ワイフ』の主役は、軍人の妻たち。国を守るために勇ましく戦う兵士がメインなドラマや映画が数多くある中で、あえて戦場にいる夫の帰りを待つ妻たちの日常にクローズアップしています。さらに、子連れ再婚、代理母出産、アル中の母親、不倫、息子から母親へのDVといった、日常にも起こり得る女性が気になる問題を取り上げているのがポイント。実際の米軍妻のみならず、サラリーマンとしても戦う夫のいる妻も、ドラマの登場人物を自分自身に重ね合わせて感情移入しやすくなっています。

おつむは弱いけどスタイル抜群のモデルの魂が、イケてない肥満体型の女性弁護士の体に宿ってしまうというストーリー、『私はラブ・リーガル』にしても、おデブが主役という点で肥満大国アメリカの女性たちに大きな勇気を与えています。これが、逆に冴えないルックスだけど性格のいい子の魂が、モデル並みの女性の体に乗り移って...という設定だったら、視聴する男性は喜んでも女性はどこか悶々としてしまいます。やっぱり女性は見た目が大事なのね、と。

『The Client list』は、突然夫に蒸発されたシングルマザーが、風俗まがいのマッサージ店で働きながら子どものために奮闘するというお話。経済的にも困った女性が風俗に足を突っ込んでしまうのですが、深刻ドロドロなメロドラマになりすぎず、主人公が明るく前向きにがんばる姿が描かれているのは、女性を応援するLifetime TVならでは。主役のジェニファー・ラブ・ヒューイットは、はち切れそうな巨乳がセクシーながらも、美人すぎず、小柄で下半身太めの体型なので、視聴者も親近感を感じやすいでしょう。

2時間もののスペシャルドラマやテレビ映画としては、実際にあった事件を元に女性目線でドラマ化した作品や、乳がんなど女性特有の深刻な問題から母娘や夫婦間のトラブルといったプライベートなことまで、女性に関わるあらゆるテーマを描いたドラマを次々とオンエアしています。視聴者である女性たちは、自分の抱える問題やコンプレックスと比較して、ドラマ内の方がもっと不幸だと安心したり、逆に主人公たちの必死な姿に同じ女性として自分もがんばらなくては!と励まされたりしているのです。脇役である男性がたいてい悪者か頼りない役だったりすることも、ちょっぴり爽快な気分にしてくれます。

これらスペシャルドラマやテレビ映画には、ジェニファー・アニストンデミ・ムーアといった世界的に有名な女優たちが製作に参加したり、エミー賞ノミネート作品も数多くあったりと、なかなかの高い評価を得ています。その実績を経て、女性向けのテレビ映画やミニドラマに特化したLifetime Movie Networkや、実際にあった事件を基にしたドラマをメインにしたLifetime Real Womenといった、Lifetime TVの妹的チャンネルも誕生しています。

さらに、Lifetime TVはTVの中だけでなく、乳がん撲滅を訴えるインフォーメション活動や、女性の政治関与を高めるキャンペーンを実施するなど、現実に女性の立場や地位を擁護して向上しようとする社会的役割も担っています。そういった活動によっても、多くの女性から支持を得られたTV局なのでしょう。

女性の抱えるコンプレックスをこれでもかとさらけ出し、女性なら誰でも心のどっかに蓄えているフェミニズムを堂々と代弁してくれるLifetime TV。男子禁制とはいわないけれど、できれば「いつの時代にも女には女にしかわからないことがあるよね」と世代を超えて母娘でチェックしたいTV局です。

 

 

Photo:『アーミー・ワイフ』(c)2006 American Broadcasting Companies, Inc. 『グレイズ・アナトミー』(c) ABC Studios 『私はラブ・リーガル』(c)2009 Sony Pictures Television Inc. All Rights Reserved. 『クライアント・リスト』(c)タコ社長 ジェニファー・アニストン&デミ・ムーア (c)Megumi Torii / www.HollywoodNewsWire.net