新『ROOTS/ルーツ』トム・リー役 ジョナサン・リース=マイヤーズにインタビュー

ヒストリーチャンネル 日本・世界の歴史&エンタメ にて、8月22日(月)23:00より、4夜連続で日本初放送となる『ROOTS/ルーツ』。1977年にドラマ化され"クンタ・キンテ"という主人公の名前と共に日本でも大きな注目を浴びた衝撃作が、40年の時を経て、今、新たに蘇る。

『ROOTS/ルーツ』

新『ROOTS/ルーツ』でクンタ・キンテのひとり娘キジーが売られていった先の白人農場主トム・リーを演じるのは、『ベルベット・ゴールドマイン』『マッチポイント』『ELVIS エルヴィス』『THE TUDORS~背徳の王冠~』など多くの映画・ドラマで知られるジョナサン・リース=マイヤーズ。作品上の背景のみならず、世界の歴史、そして日本の歴史についても深い知識と興味を持つジョナサンの知的な魅力溢れるインタビューを紹介しよう!

『ROOTS/ルーツ』

――今回、新たに『ROOTS/ルーツ』が制作されたことについて、どう思いますか?

77年のオリジナルの『ROOTS/ルーツ』制作当時は、出来ることと出来ないことがあっただろうと思います。テレビ番組としては世界的に大成功で、アメリカでは1億3千万人視聴したと言われていますが、それだけの視聴者を集められる番組は、スーパーボールくらいでしょうね。だからこの作品は、単に「テレビドラマ」というより、人々がまだ見たこともないような、警鐘のような文化的現象だったといえると思うんです。現在は技術の進歩のおかげで、残虐な描写も本当の出来事のように映像上で見せることができますよね。例えばクンタ・キンテが鞭を打たれる場面があるけど、77年のバージョンでは、横アングルから撮影して、役者が痛いふりをしないといけなかった。でも今回のバージョンでは、コンピューターテクノロジーのおかげで、鞭うちは背中側から撮られていて、残虐さがいっそうリアルに伝わって来るんです。ビジュアルだけでなく、まるで匂いまでしてくるようにね。進歩した映像技術でこういったことが可能になったわけです。だから『ROOTS/ルーツ』を現代でリメークするということは重要な意味があると思っています。進化させた物語を伝えることが出来るわけですから。それと、その当時は、視聴者の中で観ていて不愉快に思う人が出ないように、言い方に気を付ける必要がありました。当時は"テレビでは言えないこと"がたくさんあったんです。でも今回のバージョンは、事実に忠実に制作されています。

『ROOTS/ルーツ』

――この役を演じるにあたって、奴隷制度について、もっと深く掘り下げようと思いましたか?

このようなテーマの映画に携わったのは初めてではないんですよ。南北戦争が舞台の映画、アン・リー監督の『楽園をください』に出演したときは、カンザスシティでアメリカ史の講義を2カ月ほど受けたんです。作品に出演する俳優は皆アメリカ史を勉強するように言われたんです。僕個人も興味を持っていたし、『ROOTS/ルーツ』に携わる前からかなりの知識はありました。奴隷制度の初期である16世紀後半から始まり、英国やオランダによるカリブ海地域の植民地化や、スコットランド人によるサトウキビ畑と精糖工場についても良く知っています。実は、13カ条の憲法修正は、奴隷制に終止符を打ったわけではなかったのです。憲法修正には、「犯罪者であれば彼らを罰する」という意味で、奴隷として扱えるという抜け穴があったのです。だから、すべての黒人を犯罪者に仕立てあげて、刑務所に送り込み、彼らを奴隷として働かせたというわけなのです。そこで生まれたのが、小作制度(シェアクロッピング)だったんです。

『ROOTS/ルーツ』

――ご自身のルーツについては調べましたか?

もちろん。僕はアイルランド人ですが、アイルランドは当時帝国によって植民地化された植民地だったわけで、アイルランド人が白人と考えられるようになるまでは、時間がかかりました。それに関する本も出ています。それがどういう意味かというと、自分たちの国(英国)の中でもアイルランド人は一番低い地位の人間だと考えられているということです。ですから、下の身分として扱われることがどういう感じなのかを、僕はよくわかっています。またアイルランドにルーツがあるので、19世紀に若い男女がガンビアからアメリカ合衆国に連れてこられたルーツを辿るのと、僕がどこから来たのかを探し出すのとでは、僕のルーツを辿るほうが難しいものでしたよ。

――今回のトム役は、高圧的で人に恐怖を与える役ですよね。ただ、同時に親としての人間的な面も演じられています。どのようにしてこの複雑な役を演じましたか?

私は役者なので、「どうやって演じたのか」、というのはあまり聞かれない質問なんですが、そうですね...。この役を演じるのに、学ぶ必要がなかったのです。どうやって演じたらいいかは直観的にわかっていました。トム・リーの複雑性は明らかでしたから。奴隷の所有者でありながら彼も下層階級でした。「彼と奴隷との違いは肌の色だけだ」と言われました。その後、アフリカ系の血の入った子供ができたとき、それはもちろん愛があってできた子供ではなく、レイプによって生まれた子供でしたが、その複雑性は、レイプされたことで身ごもった子供を出産した女性たちにも共通する感情だったと思います。彼女たちも常に二重の感情を抱えていると思います。トム・リーも彼の息子に対して二重の感情を持っていました。本当の愛も感じてはいたけれど、その子の血統も見た目に明らかで、隠せないという事だったと思います。最終的には、トムの強欲さと教育水準の低さが、時代とともに彼自身を破滅に追い込んだのです。

『ROOTS/ルーツ』

――トム・リーは難しい役でしたか?

もちろんです。自分は役者でありアーティストです。今回演じたトムはおぞましいキャラクターでした。でも視聴者にどう思われるかを気にしていてはいけない。アーティストは、モラルなど越えなければいけないんです。僕は政治家でも僧侶でもない。最高に良い人も、最高に悪い人も演じなければいけない。役者として自分のパフォーマンスの中に生きないと。自分の持っている道徳的な感覚は、一旦麻痺させなくてはいけないのです。トムのような邪悪な残忍さも忠実に、そして最高の演技で真剣に挑まなければ、制作チームの全員や現実で同じような境遇に苦しんでいる人々に対して失礼になってしまうからね。このドラマを見た後に、僕を「残虐な人間だ!」と決めつける人がいたとしても、それは演者として仕方のないことだし、代償は常に払うつもりでいます。

――黒人奴隷制度に直接的に関わりがなかった日本へ、メッセージをいただけますか。

まず、このドラマの時代に日本では何が起きていたのかを考えてみてください。日本は鎖国をしていましたよね。徳川将軍の時代で、南北戦争の頃に黒船が貿易のために開国を求めてやってきました。その頃、世界では奴隷制度のようなことが起きていたことを知ったら日本人にとってはショッキングかもしれませんね。日本は世界的にもかなり特異な国です。自国の文化を出発点まで遡ることができる国です。しかも外部とは隔離された状態でした。だから日本の視聴者の皆さんは、この話を客観的に見ることができると思います。奴隷制とは関わりを持ったことがありませんから。その代わり、日本には大名や将軍が人々の生活を全て決め、社会的にも閉塞感がありました。日本人もそのように抑圧された中で生活することに対する理解は共通に持っているはずです。日本はとても知的で良心的な社会です。なので、この史実について客観的に見ることが出来ると思いますし、このことから何かを学び取って次の段階に進展させることが出来ると思うのです。現在でも私たちがこの歴史について番組を作り続けざるを得ないということは、それなりの理由があるからで、私たちはいまだに残忍なことが起きる世の中に生きているからなのです。世界のどこかの国に関係のあることは、日本にも他の国にも関係があることです。もちろん、僕の出身のアイルランドにも関係があります。アイルランドもローマ人でさえ来なかった世界的にも隔たりのある国でした。そこは日本と似ています。でも今は、僕が子供だった頃より世界は小さく、距離もぐっと縮まりました。この世界からは、誰も逃れることができないのです。だからこそ、誰にとっても学び取るべき事がある作品だと思うのです。

『ROOTS/ルーツ』

――歴史にとてもお詳しいですね。歴史がお好きな理由を教えてください。

僕は歴史にロマンティックさを感じているんです。現代の世界は不快なことが多すぎます。歴史上の人物や歴史作品に携わる機会も多くあるというのも歴史に詳しい理由かもしれません。歴史から学ぶことは本当に多く、現代に生きながら、過去の人々の知恵をうまく取り入れて活用することができるのです。それから、歴史が好きな理由のもうひとつに、自分がこの時代に合っていないような気がずっとしてきたというのもあります。子供の頃から、僕は本当の自分の時代に生まれてこなかったんだと思ってきました。歴史に興味がある人は、同じような感覚がわかると思います。以前、リドリー・スコット(監督)と飛行機の中で同じような会話をしたことがありました。だから彼の作品には、現代を舞台にしたものはほぼなく、過去や、あるいは未来が舞台になった作品ばかりなのです。

――日本の歴史についてのお話しも出ましたが、日本に興味はありますか?

はい。東京と石垣島に行ったことがあります。若いころ、日本人の友達を訪ねて行って。とても楽しかったです。日本の文化や伝統、美に対するセンスを好まない人はいないと思います。本当に魅力があります。侍の持つ道義心にも、とても惹きつけられるものがあります。ですから、日本の文化について学ぶということはとても美しいことです。14歳の頃、黒澤明の映画を全て観ました。僕にとって本当に美しい国に見えました。建築物など何から何まで。日本に対していつも憧れを抱いていました。

『ROOTS/ルーツ』

――過去の出演作『THE TUDORS~背徳の王冠~』などで、多くの日本女性があなたのファンになりました。本作でもあなたに注目しているファンがたくさんいると思います。この作品も同じように人々に影響を与える番組になると思っています。

それは僕にもわかりません。でもこの作品の中で僕の演じる役は悪い男です。本当に酷いことばかりする奴です...。その中で僕が望むのは、これを見た中のひとりでも自分の行いを正そうと思うきっかけになってくれれば、僕としては本望です。人に対していじわるな態度を取っていた人が改心することになれば僕にとって大成功です。とにかくこれを見て感じて欲しいのは、生きていくという事が誰にとっても本当に大変なことということ。それは黒人、白人、アジア人、アメリカ人、韓国人、ヨーロッパ人...誰にとってもです。誰もが人生の中で困難を抱えていて、例外はありません。これが、他人に対して親切にするきっかけになればと思っています。でも、単なるテレビ番組に過ぎませんし、僕は政治家でもありません。僕が持っているのは小さな声だけです。でもそれは僕自身の声であり、これを使うことを職業に選んだのです。僕の仕事を楽しんでくれる人もいれば、そうでない人もいる。でもそれは、僕がアーティストとして背負うリスクです。そして僕は新たに屈辱を味わわされることに対しても、いつでも受け入れるつもりです。

『ROOTS/ルーツ』

――最後に、ジョナサンさん個人から日本の視聴者に向けてメッセージをお願いします!

日本の皆さんには、この番組の真実性をよく見て、番組の持つパワーを感じて欲しいと思います。それから、良い事から悪い事までの全てを受け入れる包容力を持つことが、人類として次の時代へ前進するためのカギだということを知っていただきたいです。僕ら人間は、全員が過ちを犯してしまうものですから。
番組をぜひ楽しんで観てください。

『ROOTS/ルーツ』は、ヒストリーチャンネル 日本・世界の歴史&エンタメ にて、8月22日(月)23:00より、4夜連続で日本初放送!


Photo:ジョナサン・リース=マイヤーズ 2016年4月『ROOTS/ルーツ』カンヌワールドプレミアにて
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