2008年1月20日、テレビドラマ史に残る番組『ブレイキング・バッド』シリーズが始まった。シーズン1~5まで合計で62話が約5年にわたって放映されたが、なんと最終話は米国内で1,000万人以上がチャンネルを合わせたというから、まさに歴史に残る大ヒット番組である。
初回の放送から10年が経った今もネットフリックスなどで多くの人に視聴され続けている『ブレイキング・バッド』は、これまで制作された中で最も素晴らしいテレビドラマの一つであるいう呼び声も高い。実際、米テレビドラマ界のアカデミー賞と言われるエミー賞の祭典で、ベスト男優賞や作品賞を含む16のプライムタイム・エミー賞をはじめ、サテライト賞、サターン賞などの多くの賞に輝いている。『ブレイキング・バッド』の魅力はどこにあるのだろうか?
◆5つの魅力
その魅力を、情報サイトVOXは、シェークスピアの作品の構成と比べている。VOXによれば、シェークスピアの作品は5幕構成なのだという。テレビの番組も、以前は4回のCM挿入により必然的に5幕に分けられていたが、現在はCM挿入が増え、6幕に分けられてしまうことが多い。そこを『ブレイキング・バッド』では、最初の一幕にあたる部分に前回のあらすじを入れることで本編を5幕構成にしているのだという。視聴者が物語にのめり込みやすくなるタイミングを計算したドラマ作りが効を奏したという考えだ。
そして、VOXよりさらに細かく分析するのは、ライフスタイルサイトのQuartzyだ。Quartzyは、『ブレイキング・バッド』の魅力をビジョン、音楽、パフォーマンス、映像、そしてユーモアの5つの項目に分けている。
『ブレイキング・バッド』というタイトルは、だんだん悪い状況へ大騒ぎになるという意味のスラングで、そのタイトル通り、冴えないどこにでもいそうなオジサンが、あることをきっかけにジキルとハイドのような二面性を持って悪事に手を染め、犯罪者をも震え上がらせるような暗黒街の顔となる。映画『スカーフェイス』を思わせる闇社会の成り上がりだ。
名前だけでチャンネルを合わせるような有名俳優がいないキャスティングをしたのは、各俳優が持つ典型的な役の先入観がないため、オリジナル性の高いプロットを守り続けるビジョンが貫かれた。そして、視聴者を巻き込むような疾走感に溢れる主役の変化は、主役のブライアン・クランストンによるところが大きい。4度の主演男優賞を受賞するに値する演技を見せてくれたクランストンは、『ブレイキング・バッド』以前はコメディドラマの面白い父親役で良く知られた顔だった。その頼りない父親の代表のようなイメージの俳優が、暗黒街の顔になるという意外性も視聴者を引き付けた要因に違いない。ここでは、俳優の持つ典型的役柄による先入観を良く利用していると言えるだろう。
◆他の追随を許さない映像と音楽
Quartzyの分析で最も注目したい項目は映像と音楽だ。『ブレイキング・バッド』は、これまでのどの犯罪ドラマよりカメラワークが秀逸である。オープニング映像には、真っ青なニューメキシコの空と果てしなく広がる砂漠が、ダークなストーリー展開と爽快なコントラストを描く。
またカメラ割りも、無駄のない動きのまま観る者の目を引き付ける細かいカットがよく計算されており、ストーリーのあちらこちらに散りばめられている。この洗練されたカメラワークが、あくまでバックグラウンドとしてその場の臨場感を盛り上げる音楽と相まって、視聴者を画面に釘付けにするのだ。『ブレイキング・バッド』は、脚本と演技だけが突出しているのではなく、目や耳の五感に訴える総合的なエンターテイメントとなっているのである。
◆普遍性を持つ衝撃作
どうしようもない状況に追い込まれた時、人はどうなるのか。愛する者を守ろうとするが故に戻れないところまで上り詰める主人公。その時、彼は何を感じるのか。そんな普遍性を持つストーリーが鮮やかな切り口で描かれているのが『ブレイキング・バッド』だ。
誰もが陥る可能性のある人の心の闇を、細かなストーリー展開と卓越した演技、少しのユーモアと美しい映像、そして寄り添うような音楽とともに画面に映し出した衝撃作である。普遍性を持ちながらも衝撃を与えるこの作品の完成度の高さが、放映開始から10年経った今でも高く評価される理由だろう。(海外ドラマNAVI)
Photo:『ブレイキング・バッド』
©Frank Ockenfels / AMC