米AMCでシーズン4の放送が始まった 『ベター・コール・ソウル』は、言わずと知れた人気シリーズ『ブレイキング・バッド』のスピンオフ作品。お調子者だが悪徳弁護士という名物キャラクターのソウル(ボブ・オデンカーク)が主役を務める。最新のシーズン4は、本作前半のお気楽路線と決別。コメディシーンを残しつつもシリアスな空気をまとっている。
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(※本記事は、同シリーズのネタバレを含みますのでご注意ください)
♦にくめない悪徳弁護士
『ブレイキング・バッド』本編に登場するソウルは、主に公選弁護人として活動する貧しい弁護士。スピンオフの当シリーズでは、彼がまだソウルを名乗る前、本名のジミーとして登場する。軽いノリだが悪徳、しかし一度契約した顧客には絶対の忠誠を示すというキャラクター性で人気を博す、ソウル誕生までの軌跡を描く。
およそ14カ月ぶりの放送となったシーズン4は、前シーズンの直後からスタート。最終話では兄のチャック(マイケル・マッキーン)が電磁波過敏症を発症、自宅に火を放って自殺していた。訃報を聞いたジミーは、アルバカーキに駆け戻る。弁護士でもある恋人のキム(レイ・シーホーン)はその報せに動揺し、状況を飲み込もうと必死。一方、表向きはフライドチキン店の店長でありながら麻薬ディーラーとして暗躍するガス(ジャンカルロ・エスポジート)は、ギャング組織の元締・ヘクター(マーク・マーゴリス)の死を好機に裏ビジネスの拡大を狙っていた。複数の人物が奏でるアンサンブルが、放送回を重ねるごとに巧妙に絡み合う。
♦アルバカーキの街を覆うシリアスなトーン
シーズン2までの陽気なムードに対し、徐々に兄チャックとの不和が目立つようになっていたシーズン3。彼の自殺の衝撃がジミーたちに残る今期もまた、影のあるムードで進行する模様だ。これまでの陽気さで引きつけておいた観客に、一気にシリアスなストーリーを投げかける手法は、まるでおとり商法のように見事だ、と米Hollywood Reporterは評価する。チャックの自殺騒動を契機に、ジミーの心情に大きな変化が生まれるだろうと同紙は予測している。これまでのジミーは封印され、観客は新たなキャラクター「ソウル」への変貌を目撃することになる。
アルバカーキの燃えるような太陽がかえって不吉な予感を与える、と伝えるのは米New York Post。今期の重い語り口に注目している。第1話では、いくつもの興味深いストーリーの種が蒔かれていると紹介。過去のパターンから推測すると、これらの種がシーズンを通じた話のベースとなり、そしてすでに更新が確定したシーズン5への伏線に成長していくだろう、と同紙は読んでいる。沈痛な表情を浮かべるジミーだが、いかにソウルへの生まれ変わりを果たすかが気になるところだ。
♦本編の人気に甘んじない
ジミーの将来の姿であるソウルは、もともと『ブレイキング・バッド』の人気キャラクター。オリジナル版でソウルが弁護士事務所のCMに使っていたフレーズ「ソウルに電話を!」はファンの間で親しまれており、タイトル『ベター・コール・ソウル』の由来になっている。CMで紹介される電話番号に実際にかけることができ、ウェブサイトも存在するなど、作り込まれた世界観が話題だ。
本シリーズの美点は、そうした本編での人気に甘んじることなく、『ブレイキング・バッド』に依存しない独自の世界を切り拓いている点にある。人気絶頂の本編からの独立に成功したことはとてつもない偉業だ、とHollywood Reporterは絶賛。シリーズスタート時には、殺伐とした本編に対してこれほどまでに軽いトーンをもつとは、誰もが予想だにしなかった。今後はさらに一捻り加え、悲しみに満ちたストーリーが紡がれる。
加えて、オリジナルのキャラクターも物語を豊かにする。弁護士事務所の創業者の息子・ハワード(パトリック・ファビアン)に注目するNew York Postは、彼のキャラクター性の変化こそ、シリーズ開始当初から仕組まれていた隠し球なのではと分析。愛想の良い男から好戦的な人物に変貌を遂げ、そこから親身になってくれるキャラクターへと再び変化している。並外れた世界観がますます広がりを見せ、夢中にさせてくれるシリーズになっているとの評価だ。
シリアスな展開に切り替わり、ソウル誕生への軌跡が見え始めた『ベター・コール・ソウル』シーズン4は、Netflixで配信中。
Photo:『ベター・コール・ソウル』シーズン4
©Matthias Clamer/AMC