映画『ゴーン・ガール』で一躍注目を浴びた原作者ギリアン・フリン、衝撃のデビュー作にしてベストセラー小説「KIZU-傷-」を完全実写化した『シャープ・オブジェクト KIZU-傷-:連続少女猟奇殺人事件』。映画『魔法にかけられて』や『アメリカン・ハッスル』などの映画に出演し、5度のアカデミー賞ノミネートを誇る実力派女優エイミー・アダムスが初めてTVシリーズの主演を担うことでも話題の、新感覚サイコ・サスペンスのDVDが4月3日(水)よりリリースとなる。これを記念して、ライターの細谷佳史が本作の舞台となる架空の町"ウィンド・ギャップ"の撮影地を訪問。その魅力に迫ったレポートをお届けしよう。
街の中には"ウィンド・ギャップ"の壁画や、撮影に使われたお店がそのまま残っている
【関連記事】欠点だらけのキャラクターを演じる面白さとは?『シャープ・オブジェクト KIZU-傷-』エイミー・アダムス インタビュー
『シャープ・オブジェクト KIZU-傷-』は、間違いなく2018年に全米放映されたTVシリーズを代表する1本だ。全米の批評家たちのレビューを集めたサイト「ロッテン・トマト/Rotten Tomatoes」でも、支持率92%という高評価を獲得。第76回ゴールデングローブ賞では、リミテッドシリーズ/TVムービー部門で、作品賞、主演女優賞、助演女優賞の主要3部門でノミネート、パトリシア・クラークソンが見事、助演女優賞に輝いた。
【関連記事】エイミー・アダムズ×『ゴーン・ガール』原作者が仕掛ける新たなサイコスリラー『シャープ・オブジェクト KIZU-傷-』
少女の遺体が見つかる重要な窓
ミズーリ州の小さな町"ウィンド・ギャップ"で、ティーンの少女を狙った連続殺人事件が起きる。その町で育ったエイミー扮する新聞記者カミールは、事件を追って久々に故郷に戻ってくるが、そこで自分自身の暗い過去と向き合うことを強いられる。カミールに対して子供時代から冷淡な態度を取り続けるパトリシア演じる母親のアドーラ、ワイルドな一面を持つ腹違いのティーンの妹アマ、カンザスシティからやってきたFBI捜査官のリチャード、この3人とカミールの関係が複雑に絡み合いながら、衝撃のラストに向かって、じわじわとドラマを盛り上げていく。
エイミー、パトリシアを始めとするベテラン勢の演技の上手さはもちろんだが、アマ役のエリザ・スカンレン、殺人事件の被害者の兄ジョン役テイラー・ジョン・スミス、ジョンの恋人アシュリー役のマディソン・ダヴェンポートら若い役者たちがみな素晴らしい。特にエリザは、今後大いに注目すべき才能と言っていいだろう。
監督のジャン=マルク・ヴァレ
そして、この作品を他のTVドラマと比べ、芸術的に際立った作品にしているのは、ジャン=マルク・ヴァレの斬新で卓越した演出力だ。映像とモンタージュ、センスのいいサントラの絶妙の組み合わせで、脚本では決して伝えられない主人公の微妙な感情やシーンのニュアンスを巧みに表現する。ヴァレが今ハリウッドで最も魅力的で目の離せない監督なのは間違いない。また、TVシリーズでは通常、1話ごとに監督が変わるケースが多いが、今回は8話全てをヴァレ自身が演出していることで、彼の作家性がシリーズを通して貫かれている。毎回、オープニングのタイトルシークエンスで、1951年の名作「陽のあたる場所」のスコアを違うアレンジで聞くことが出来るのも新鮮なアイデアだ。
それから、この作品のもう一つのキャラクターと言えるウィンド・ギャップの町を見事に具現化したロケーション選びもさすが。物語の中では、この架空の町"ウィンド・ギャップ"はミズーリ州となっているが、実際に撮影されたのはジョージア州にあるバーンズヴィルという、アトランタ郊外の小さな町。一昨年の夏、つまり撮影が終わって1年以上後にこの町を訪れたが、今でも町中には、"ウィンド・ギャップ"の壁画や、撮影に使われた装飾が残っており、地元の人たちは、自分たちの町が作品の舞台となったことを誇りに感じているようだった。原作者のフリンも、「この町は"ウィンド・ギャップ"にとってパーフェクトなロケーションだ。それはほとんど、私が小説を書いているときに思い描いていたものを基に選ばれたように感じられる」と、地元の出版物の中で語っている。
アメリカ中西部のミズーリ州は、南北戦争では、奴隷制反対の合衆国側でありながら奴隷州でもあったため、南部に近い場所では、南軍支持者たちも多かったのだろう。第5話にカルホーンデイという南軍を讃えるフェスティバルが登場するが、これは架空のフェスティバルで、実際にあるものではない。奴隷制を支持した南軍を讃えるフェスティバルというのは今ではコントラバーシャル(議論を引き起こす)だが、南部のいくつかの州では今でもそういった行事が実際に行われている。
『シャープ・オブジェクト KIZU-傷-』は一級のサスペンスであるだけでなく、そういったアメリカ中西部の保守的な面や、どこかミステリアスで危険な雰囲気を、多くのディテールを積み重ねることで見事に伝えている。
街には撮影で使われた小道具や街の設計図、キャストのサイン入り原作本が飾られている
■『シャープ・オブジェクト KIZU-傷-:連続少女猟奇殺人事件』商品情報
■4月3日(水)リリース
<セル>
・ブルーレイ コンプリート・ボックス(2枚組)¥11,300+税
<レンタル>
・DVD レンタル(Vol.1~Vol.2)レンタル1巻につき4話収録
(各巻4話収録/全8話収録/各話約52分)
発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
※R-15:本作には、一部に15歳未満の鑑賞には不適切な表現が含まれています。
※ジャケット写真などは予告無く変更となる場合がございます。
Photo:『シャープ・オブジェクト KIZU-傷-:連続少女猟奇殺人事件』 ©2019 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and related service marks are the property of Home Box Office, Inc. Distributed by Warner Bros. Entertainment Inc.