欠点だらけのキャラクターを演じる面白さとは?『KIZU-傷-』エイミー・アダムズ インタビュー

本日10月15日(月)23:00よりスターチャンネルにて日本初放送となる、英国推理作家協会(CWA)の最優秀スリラー賞と最優秀新人賞を受賞したギリアン・フリン(『ゴーン・ガール』『ダーク・プレイス』)の処女作を映像化した『KIZU-傷-』。故郷で起きた少女の殺人事件を追う主人公の新聞記者カミールを演じるのは、5度アカデミー賞にノミネートされたエイミー・アダムズ(『アメリカン・ハッスル』)。かつて『バフィー~恋する十字架~』『ザ・ホワイトハウス』などのTVドラマにゲストとして出演し、12年ぶりに戻ったドラマの世界で初主演を果たしたエイミーのインタビューをお届けしよう。

(本記事はネタばれを含みますのでご注意ください)

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――あなたにとって、このプロジェクト最大の魅力とは?

TVと私の関係というのは長く音信不通だった友人同士のようなもので――終わるべくして終わった古い関係だから、そのままそっとしておこうと考えていたのだけど、近年のTV界は私がかつて関わっていた頃とは方向性がまったく変わったわ。それに、このドラマに携わっている人々はみんなすごい人たち揃いなの。(原作者である)ギリアン(・フリン)の作品には長年魅力を感じていたの。だって彼女が生み出すのはすごく欠点の多い女性ばかりだもの。ほんの短い間だけど、(同じくフリン原作の映画。シャーリーズ・セロン主演)『ダーク・プレイス』への出演を迷っていた時期があったの。でもそれから妊娠して、"きっとあの映画は無理だわ、特に今は"と思ったのよ。

――本作であなたが演じるカミールは、自傷癖があり、さらにアルコール依存と、間違いなく欠点のある女性ですね。

そうよ。でも変わろうと努力もしているわ。私、本当に彼女のことが好きなの。仲良く付き合えるかというとちょっと分からないけど。きっと彼女のことを好きになり過ぎてしまって、それは私にとって必ずしも良くないことだと思うから。このキャラクターにはとても魅力を感じたけど、TV界に戻ることにはためらいを覚えたわ。この手のドラマの場合、拘束時間も長いし、撮影スタイルも異なるから対処しなくてはならないことが山ほどある。すさまじいスピード、猛烈な勢いで制作が進むの。それに私は母親でもあるから子どものことも常に気になるの。仕事と育児の両立は私にとってはとても重要なことだから。

でも、ギリアンをはじめ、(クリエイターの)マーティ(・ノクソン)、(製作総指揮者の)ジェシカ(・ローズ)、それにクリエイティブチームと一緒にいて"なんて素晴らしいのかしら"と思ったの。この物語、カミールの物語だけでなく、家族の暴力や虐待の過去にも命を吹き込むようなアイデアを持った女性たちと仕事ができるなんてね。彼女たちがアイデアを模索する工程はとにかくどれも興味深かった。さらにプロデューサーという職務にも声をかけてもらったことも非常に魅力的だったの。制作陣に「私はこうするつもりよ」と意思表示をして、参加してからジャン=マルク(・ヴァレ)を監督として提案したの。ジャニス・ジョプリンの伝記映画(※のちに頓挫)の企画段階で一緒に仕事をした際に、彼が苦痛に対して向き合う姿勢に他の人とは違うものを感じたから。痛みの描き方にとても魅力を覚えたの。痛みそのものだけでなく、その核心にも触れているからよ。他の候補者とも面接したけど、結局ジャン=マルクに戻っていったわ。

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――あなたは入念に役作りのリサーチをするタイプですよね。心に傷を負っているカミールという複雑な女性、しかも物語の当初ではすべてをさらけ出しているわけでないキャラクターの役作りにあたって、どこから着手されたのですか?

まずは原作小説からよ。多くのことがそこに描かれているわ。何しろ小説の語り手がカミールだから、彼女の思考が内なるセリフとして沢山描写されているの。毎日、その日に撮影するシーンと同じ箇所を読むのが日課になっていたわ。そして各シーンで彼女が何を語っているのかに目を通していたの。セリフでは語られないカミールの豊かな感情や気持ちを思い返すのにとても役に立ったわ。

彼女を演じている時はいつもこの心の声のことを念頭に置いていたの。とても愉快で、悲しくて、控え目で、脆くて、いつも努力しては失敗している。それでも努力し続けているの。

――カミールの恐怖、飲酒、自傷行為をどう表現するかを決めるのは難しいことでしたか?

そこはとても興味深いポイントなの。というのもカミールは本当にお酒が欲しくて、心の中はそのことでいっぱいだから。そこは気をつけて演じていたわ。アル中を演じるのはどんな感じ?と聞かれると悩ましかった。だって彼女は一日中飲んでいたから。そして大抵はそれでも普通の状態でいられるの。いつも飲んでいるからそれでもまともでいられるのね。でも飲み過ぎれば体調も崩すし、飲んでないと何だか違和感を覚えるのよ。

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――自傷行為について研究されましたか?

ええ。ギリアンから薦められた本「The Bright Red Scream」を読んだわ。とてもダークで自傷行為について書かれているの。ギリアンがこの原作を執筆する時のリサーチに使ったそうよ。でも、普段は本棚の奥に隠してあるわ。人に貸したいような本じゃないから。自傷と苦痛についての本で、一人称で書かれていて、自傷行為をしてしまう人たちの物語と彼らの自傷の歴史が綴られているわ。

自傷というのは内的な苦痛を外的に発現することなのだと思う。どんなことでも強迫的な行動のきっかけになってしまう、心理的なものなのね。カミールも自傷していない時はあるけど、治ったわけじゃなくて、自傷していないだけなの。それは勝利とも言えるけど、それでもある種の行動には走ってしまうのよ。

――物語が進むにつれて、カミーユが代理ミュンヒハウゼン症候群であることも明らかになっていきます。特に子を持つ親として、演じるのは難しかったと思うのですが...。

そうね。他者の関心を渇望するという何とも奇妙なこの症状についても沢山のリサーチをしたけど、かなりクレイジーなことだと思ったわ。私が考える親としての本能のすべてに反するし、想像もできないことよ。これまでに2度、娘が病院へ連れて行かなきゃならないような怪我をしたことがあったけど、また病院に行きたいなんて微塵も思わなかった。トラウマになるわ。

多くの人がそうだと思うけど、私も多分、自分でコントロールできない部分があることが好きなのだと思う。例えば、ちょっと怖い思いをしたり、ジェットコースターのスリルを味わったり、私はバイクが好きなんだけど少しスピードを出したり、その手のことよ。アドレナリンが出る感じが好きなのね。自分よりずっと危険な冒険をする人たちにも魅力を感じるわ。

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――本作は自傷行為、家庭内暴力といったことがテーマですが、毎日ロケ撮影現場で気持ちを切り替えるのは楽ではなかったのでは?

まずロサンゼルスで撮影して、それからアトランタと北カリフォルニアで3週間撮影したの。だからいろんな場所が混ざっている感じね。そして私一人なら、気持ちの切り替えは楽じゃなかったでしょうね。でも今は夫と娘が一緒に来てくれるから。娘が学校に通う年齢になったらどうなるか分からないけど。でも撮影で辛い経験をして、自分一人でいなくちゃいけない時よりも今の方がずっといいわ。

できるだけ役柄を家庭に持ち帰らないよう、引きずらないようにトレーニングしなくちゃいけなかった。今でも疲れていたり、役柄から抜けられない時には眠れなくなることが多いの。そして眠れないとちょっと気持ちが変になるわ。とはいえ、それも年月を経て対処できるようになった。"OK、今の私がどんな状態かちゃんと分かってる。何も悪くないわ。とにかく仕事に行って、やるべきことをして家に帰ってくればいいの。そして夕飯を作って、気持ちが落ち着くことをするの"という風にね。

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――製作総指揮と出演の兼務は、単に出演するだけとどのように違いますか?

カミールを演じながらプロデューサーも兼務することの面白さは、製作として関わらない時と、しっかり関わらないといけない時があることね。今回が製作初挑戦だからいろいろ学ばなくちゃならないけど、とても楽しいわ。私にとって大事なことは、プロデューサーとして現場経験を積むことと、その影響を現場で感じることね。例えば、「ここで15分休憩にしない? エキストラも一息入れられるし、アイスでも食べましょうよ」と言えることかしら。些細なことだけど、大きな違いを生むわ。

女優だと、自分の演じるキャラクターとストーリーに集中するし、それが自分の責任なの。でもプロデューサーだと、物事をより俯瞰して、違う角度から見ることができる。キャスティングや脚本の話なんかも違う角度から耳を傾けることができてとてもいいわ。私がいいアイデアを出せる時もあるし、全然ダメな時もある。今回のチームが素晴らしいのは、みんなが互いに敬意を払って、意思疎通もできて、信頼も置けることなの。私のアイデアがみんなの思いと違う時には、ちゃんとそれも話し合えて、私が「OK。じゃあ違うアプローチを考えましょう」と納得して言えるのよ。おかげでとてもいい経験になったわ。

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――舞台となっている場所の雰囲気というのが、見事に劇中に漂っていました。ご自身の中西部出身という背景が、あのカルチャーを理解するのに役立っていると思われますか?

もちろんよ。舞台は中西部だけど、南部の要素もあるわ。とても興味深い場所よ。どういうわけか、私は南部や中西部のキャラクターに魅力を覚えるの。とても激しい女性の強さがあの独自性の中に隠れているからかしら。でも中西部の人たちはみんな気さくよ。本作に出てくる中西部の雰囲気はとてもクールだし、私たちも(撮影地の)アトランタで最高の時間を過ごしたわ。

――冒頭の人々の背中を湿らせている汗から、その雰囲気を感じ取ることができました。

あそこはとてもジメジメしているの。気の毒に、(ウィリス刑事役の)クリス・メッシーナも汗だらけだった。でもあのキャラクターにはピッタリだったわね。

――クリスとは2009年の映画『ジュリー&ジュリア』で夫婦役として共演していますね。再共演はいかがでしたか?

とても楽しかったわ。このドラマは女性主導の物語だけど、クリスや(ヴィッカリー署長役の)マット・クレイヴンといった素晴らしい男優が参加してくれて本当にラッキーだった。女性キャストを支えてくれる男性陣がいつも揃うわけではないから。彼らがしっかりとサポートしてくれていることが感じられて、とても心強かったわ

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■『KIZU-傷-』放送情報
スターチャンネルにて10月15日(月)23:00スタート
[字]毎週月曜 23:00~ ほか
[二]毎週木曜 22:00~ ほか
公式サイトはこちら

Photo:『KIZU-傷-』
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