夫がネズミ講にハマって破産寸前になった一家は、同じネズミ講で大金を取り戻せるのか? 米Showtimeが8月下旬から放送している『On Becoming a God in Central Florida(原題)』は、一家再生の希望をなぜか怪しい商法に託してしまった主婦の物語。主演は、サム・ライミ監督による『スパイダーマン』シリーズでMJを演じたキルステン・ダンスト。子役出身の彼女が見せる、かつての少女らしい表情からかけ離れた必死の形相にも注目だ。
虎穴に入らずんば...
ウォーターパークの従業員として働くクリスタル(『ヴァージン・スーサイズ』のキルステン・ダンスト)は、まだ幼い子どもがいて手間もお金もかかる時期だが、安月給の仕事に甘んじている。夫のトラヴィス(『ビッグ・リトル・ライズ』のアレクサンダー・スカルスガルド)は、宗教じみていて怪しげな「FAM」という名のネズミ講にハマって家計を圧迫。それらしい御託を並べる創始者のオービー(『名探偵モンク』のテッド・レヴィン)に言われるままにせっせと財産を注ぎ込んだ末、行方をくらませてしまう。
「あなたが支えにならなくては」という周囲の声に背中を押され、借金地獄から抜け出そうとクリスタルは一念発起。手始めにウォーターパークでエアロビクスの教室を開いてみるが、一人あたり2ドルというささやかな追加収入ではらちが明かない。子どものためについに彼女は常識も道徳心もかなぐり捨て、自らも「FAM」のメンバーに。持ち前の勇気と威勢の良さを武器に、勝者のいない勧誘ビジネスへと足を踏み入れる...。
名作ドラマを彷彿とさせる設定
家族を守る最後の手段として、主婦クリスタルが禁じられた稼業に手を出してしまう本作。実はこうした設定は珍しいものではない、と米Hollywood Reporter誌は指摘。振り返ってみれば、あの『ブレイキング・バッド』でも主人公のウォルターが麻薬の精製に傾倒。余命短い中で家族に財産を残したいと考えたことがきっかけだった。『Weeds ~ママの秘密』も2人の子どもを持つ母親が夫の急死後、ローン返済などのためにマリファナの密売に手を染めるというストーリーだ。近年では、『オザークへようこそ』も(家族を救うというよりは巻き込んでいる点が異なるものの)ほぼ同じロジックで動いている。
さて、借金を抱え目先の生活資金を必要としているクリスタル。背に腹はかえられぬとばかりに、あれだけ嫌っていたネズミ講に自らが参入することになる。ウォーターパークの優しい上司アーニー(『ゲッティング・オン』のメル・ロドリゲス)を格好のカモと見るや、かつて夫が自分を説得したセリフを繰り返し説き、パークの運営資金にまで手をつけさせる。しかし、ネズミ講で利益を上げられる可能性などほぼないのは周知の通りだ。痛々しく観ていてフラストレーションが溜まる、と米Varietyは感想を綴る。泥沼に呑まれる人々をブラックユーモアで描く、哀しくも可笑しいシリーズとなった。
キルステンが魅せる「宝石」
本作で目を引くキルステンの演技は「まるで宝石のよう」とHollywood Reporter誌。2015年の犯罪ドラマ『FARGO/ファーゴ』シーズン2では、ギャングを車で轢いてしまい、その死体を隠すという役回りを演じていた。切羽詰まって犯罪に手を染めてしまうコミカルな役どころは、本作にも通じるものがある。
クリスタルとしての演技については、Varietyも絶賛。主人公の燃えるような意思を表現し、非常に人を引きつける演技を見せている。憤怒のシーンでは怒りに染まった表情を浮かべ、驚くような残忍さを宿す。20代の頃の可愛らしい表情からかけ離れており、ショッキングであると同時にカタルシスさえ呼び起こす、と同メディアは称賛している。
キルステンの表情の使い分けに圧倒される『On Becoming a God in Central Florida』は、米Showtimeで放送中。設定が似ている『ブレイキング・バッド』『Weeds ~ママの秘密』『オザークへようこそ』はNetflixで配信されている。(海外ドラマNAVI)
Photo:キルステン・ダンスト (C) Andrea Raffin / Shutterstock.com