ジョージ・ルーカスが1977年に生み出したSF映画『スター・ウォーズ』は、その後、壮大なサーガを築き上げ、映画界に金字塔を打ち立てた。銀河の英雄となるルーク・スカイウォーカーを主人公とした「旧3部作」、のちにダース・ベイダーとなるジェダイの騎士アナキン・スカイウォーカーを主人公とした「新3部作」、帝国軍崩壊後の新たな世代を描く「続3部作」に加えて、スピンオフ映画2作品やTVアニメシリーズ、ノベライズ、アメコミ、ゲームなど多岐にわたってその物語は紡がれてきたが、2019年、シリーズ初となるTVドラマシリーズが製作された。
『マンダロリアン』は、ひとりの孤独なバウンティハンター(賞金稼ぎ)が、ある仕事を請け負った矢先に、これまで無いものとしていた心の"何か"が芽生え始めていく物語が展開されていく。
そもそも『スター・ウォーズ』シリーズで共通して描かれてきた王道の「英雄譚」ではないのだ。そう、物語の始まりの段階では...。ならば、『スター・ウォーズ』シリーズ初のTVシリーズとなった『マンダロリアン』は、一体何を見せたのだろうか?
■「マンダロリアン」とは?
マンダロリアンとは、かつて惑星マンダロアで暮らしていた戦闘民族のことを指す。旧共和国の没落時にはジェダイ・テンプルを略奪し、銀河各地で恐れられる存在だった。しかし、長年に及ぶ戦争により土地は荒廃し、砂漠の惑星となってしまったマンダロアは、ドーム型都市の中で生活するようになる。
クローン戦争期には、平和主義のサティーン・クライズ公爵がマンダロアの支配者となり、その暴力の歴史に終止符を打つために、衛星コンコーディアへとマンダロリアンを追放したが、好戦的な彼らはデス・ウォッチという派閥を形成し、テロ行為を行うように。シスの暗黒卿であるダース・モールらと手を組み、クーデターに成功。ところが、銀河共和国による包囲戦が行われ、共和国の支配下になり、クローン戦争終結後には銀河帝国の支配下となり、マンダロリアンはそのほとんどが姿を消した。
マンダロリアンは、これまでの『スター・ウォーズ』シリーズにおいても活躍を見せている。2008年から放送されたTVアニメ『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』では、その歴史が語られると共にクローン戦争時の戦いの様子なども色濃く描かれ、2014年から2018年まで放送されたTVアニメ『スター・ウォーズ 反乱者たち』では、主要キャラクターのひとりサビーヌ・レンがマンダロリアンの生き残りとして描かれ、宇宙船ゴーストのクルーとして、ジェダイの騎士ケイナン・ジャラスやそのパダワンであるエズラ・ブリッチャーらと共に反乱運動に参加した。
ちなみに、『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』に登場するマンダロリアンの装甲服を身に纏っているジャンゴ・フェットと、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』と『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』にも姿を見せるその息子ボバ・フェットは、実はマンダロリアンではない。賞金稼ぎであるジャンゴとの関係をマンダロリアンは否定していることから、どこかで装甲服を手に入れたのだろう。ジョージ・ルーカス自身もジャンゴはマンダロリアンではないことを明言している。
■TVシリーズ『マンダロリアン』が見せたもの
『スター・ウォーズ』シリーズ初のTVシリーズとなった『マンダロリアン』の物語が繰り広げられるのは、『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』(1983)で帝国軍が崩壊して5年後から『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)でファースト・オーダーが台頭するまでの世界を舞台としている。そのため、劇中には崩壊したとはいえ、帝国軍の残党が存在し、長きにわたる戦争の爪あとなどが未だに生活に影響を及ぼしていることをうかがわせる描写がある。
今や存在自体が珍しい一匹狼のマンダロリアン(=通称マンドー)は、そんな世界で日々、賞金首たちを狙うバウンティハンターを生業としている。目的のためなら手段を厭わない戦闘民族であるマンドーは、躊躇なく他者を手にかける冷血漢で、チャプター1の段階では、これまでの『スター・ウォーズ』の主人公とは一線を画す異質な空気感を漂わせるのだ。
しかしながら、そんなマンドーが請け負った仕事が作風をガラリと変える。ターゲットは50歳とだけ告げられた詳細不明の仕事に就いたマンドーは、衝撃を受けることになる。マンドーと同じく視聴者も衝撃を受けたザ・チャイルドとの出会いだ。
ザ・チャイルドは、伝説のジェダイマスター・ヨーダのような容姿をした小さな子どもである。か弱き小さな命を目の当たりにしたマンドーは、ザ・チャイルドを生きたままクライアントに届けるが、これまでマンダロリアンであることを理由に蓋をしてきた良心が芽生え始め、クライアントの元から強奪。共に旅に出ることになる...。
『マンダロリアン』は、幕開けこそ「英雄譚」ではないものの、エピソードを重ねるごとに報酬のために仕事を請け負ってきた男が、自らに芽生えてしまった「良心」にもがきながら、彼なりの「正義の道」を歩もうとしている姿を映し出しているように受け止めた。
全体的に非常に男臭いドラマである印象の『マンダロリアン』は、スティーブ・マックイーンが主演した西部劇ドラマ『拳銃無宿』やセルジオ・レオーネ監督作『荒野の用心棒』などの名作西部劇から影響を受けていることを彷彿とさせるが、日本人のわれわれ視聴者にとっては『子連れ狼』を連想せずにはいられない。マンドーとザ・チャイルドの姿がどうにも拝一刀と拝大五郎の親子と重なって見えるのだ。
それは主人公がどちらも刺客を生業としている部分や大五郎が箱車で移動するのに対して、ザ・チャイルドも同様のもので運ばれる部分なども似ているのだ。これは『スター・ウォーズ』という名を借りながらも、ハリウッド版『子連れ狼』と言っても良いのではないかと思う。
ともあれ、製作総指揮・脚本を務める大の『スター・ウォーズ』ファンとして知られるジョン・ファヴローのもと、「旧3部作」へのオマージュも盛りだくさんの作品である。広大な砂漠の広がる惑星タトゥイーン、反乱軍の名機Xウィング、ストームトルーパー、TIEファイター、AT-STなど、ファンには堪らない要素がてんこ盛り状態。
さらにはTVアニメ『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』でアナキン・スカイウォーカー役を演じたマット・ランターが、あるエピソードにカメオ出演しているのもまたニクい!
毎回、異なるエピソード監督を起用している点も面白く、映画『ジョジョ・ラビット』でアカデミー賞脚色賞を受賞したタイカ・ワイティティや『ジュラシック・ワールド』などで女優としても活躍するブライス・ダラス・ハワードらがメガホンをとっており、それぞれの個性が現れた一話一話になっている。
特にチャプター3、チャプター7に関しては全米で"神回"と絶賛されており、監督を務めたデボラ・チョウは、配信が待ち望まれているオビ=ワン・ケノービを主人公としたTVシリーズでも監督を務めることが決定している。(※同作は現在製作が中断されている)
■今後の伏線?シーズン2にも期待!
『マンダロリアン』は全米で大絶賛され、映画レビューサイトRotten Tomatoesでも高評価を獲得しており、早くもシーズン2の製作が決定している。そのため、今後への伏線だと思われる場面も数多く、謎も多く残している。(※以降シーズン1のネタばれを示唆する内容を含みますのでご注意ください)
シーズン1のクライマックスで明らかになった「マンダロリアン」の本当の意味、帝国軍の残党にして悪の元凶であるモフ・ギデオンの存在、さらには戦争孤児であるマンドーの過去など、うっすらと輪郭だけは描いたものの、核心に迫る描写はほとんどなかった部分も多いため、今後の展開に要注目だ。
個人的には、モフ・ギデオンがラストで手にしていたダークセーバーの出所が気になるところ。ダークセーバーは、ジェダイ・オーダーに加盟した最初のマンダロリアンであるター・ヴィズラによって作り出され、ジェダイ・テンプルより略奪されてからは、代々ヴィズラ一族の頭首に受け継がれてきた代物。なぜ、帝国軍のギデオンが手にしているのだろうか...?
「スカイウォーカー・サーガ」の完結により、映画ファンの中でポッカリと空いてしまった穴を埋める『スター・ウォーズ』シリーズ初のTVシリーズ『マンダロリアン』は、Disney+(ディズニープラス)
にて全8エピソードが配信中。
それを脱ぐと二度とかぶれないというマスクをマンドーは果たして脱ぐことになるのかにも注目だ!
(文・zash)
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Photo:『マンダロリアン』(c) 2019 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved./『スター・ウォーズ 反乱者たち』(c) 2019 & TM Lucasfilm Ltd.