『ビバヒル』『ゴシップガール』から『ユーフォリア』へ...米ティーン・ドラマの系譜

アメリカにおいてティーンエイジャーが主人公のティーン・ドラマは、1980年代後半から1990年代にかけて登場。『ワンダー・イヤーズ』(1988年)、『Saved by the Bell(原題)』(1989年)、『ボーイ・ミーツ・ワールド』(1993年)、『サブリナ』(1996年)などの番組が編成され、注目を集めた。

一方で、これらの番組が即座に人気を獲得してジャンルが定着したわけではない。『アンジェラ 15歳の日々』(1994年)は、注目度の高さとは裏腹に、1シーズン限りでキャンセルされている。『サンフランシスコの空の下』(1994年)は、キャンセルか継続か常にすれすれの線上で6シーズン放送された。

そんな中で最初に最も成功したティーン・ドラマは、FOXが1990年に編成した『ビバリーヒルズ高校白書』と言える。高級住宅街ビバリーヒルズに住む高校生たちの恋愛模様を描き、世界中で大ヒット。西海岸の流行やライフスタイルを取り入れるだけでなく、階級の格差やデート・レイプ、アルコールや銃問題等もストーリーに取り入れ、若い世代を中心に圧倒的な支持を得た。

ジェイソン・プリーストリー(『ラブ&デス』)、シャナン・ドハティ(『ヘザース/ベロニカの暑い日』)、ルーク・ペリー(『フィフス・エレメント』)、アイアン・ジーリング(『シャークネード』シリーズ)等、本作をきっかけにスター街道を驀進した出演者は数多い。視聴者は番組キャラクターに感情移入し、ジェイソン扮するブランドン派か、ルーク演じるディラン派かに分かれ、自分の好きなキャラクターを熱狂的に応援した。クリエイターのダーレン・スターは、のちに対象視聴者の年齢を上げた米HBOの『SEX AND THE CITY』もヒットさせている。

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1997年には、米WB(現在のThe CW)で、青春ホラー・アクションの『バフィー~恋する十字架~』が始まった。当時まだ弱小ネットワークに過ぎなかったWBは、『バフィー~恋する十字架~』の成功によって、その後『フェリシティの青春』(1998年)、『ロズウェル/星の恋人たち』(1999年)、『ギルモア・ガールズ』(2000年)、『ヤング・スーパーマン』(2001年)、『エバーウッド 遥かなるコロラド』(2002年)と続く、SFも絡めたティーン・ドラマ路線を推し進めた。

その中で最大のヒット作が、1998年に放送が始まった『ドーソンズ・クリーク』だ。映画監督に憧れるドーソン・リアリーを中心とした高校生たちの成長を描く青春ドラマで、子どもから大人へと変わり始める境界線のような年代の若者の、恋愛や性への目覚めを大胆かつ赤裸々に描いてヒットした。『ビバリーヒルズ高校白書』が、きらびやかな西海岸のライフスタイルも取り入れた一種トレンディ・ドラマだとしたら、『ドーソンズ・クリーク』は東海岸(マサチューセッツ)の架空の町ケープサイドを舞台にすることで、リアリティを重視し、若者の等身大の悩みを描いた。

『ビバリーヒルズ高校白書』がルークやジェイソン、シャナンといった若手スターを輩出したように、『ドーソンズ・クリーク』もまたジェームズ・ヴァン・ダー・ビーク(『ルールズ・オブ・アトラクション』)、ケイティ・ホームズ(『バットマン・ビギンズ』)、ミシェル・ウィリアムズ(『ブロークバック・マウンテン』)、ジョシュア・ジャクソン(『FRINGE/フリンジ』)といった現在のスターを育てている。

一方、それでも当時のティーン・ドラマは、WBを中心とするまだマイナーなジャンルでしかなかった。そこに登場したゲーム・チェンジャーが、2003年にFOXが放送した『The OC』だ。『ビバリーヒルズ高校白書』の衣鉢を継ぐ番組で、同様に西海岸の高級住宅街のオレンジ・カウンティ(OC)を舞台に、若者たちの恋愛やライフスタイルを描く。既にそれまでに『ビバリーヒルズ高校白書』やWBドラマでジャンルに対する素地のできていた視聴者は、今度こそ老若男女問わずチャンネルを合わせ、番組は大ヒットし、ここにティーン・ドラマというジャンルが確立した。

『The OC』の成功後、『ヴェロニカ・マーズ』(2004年)、『Friday Night Lights(原題)』(2006年)等のティーン・ドラマは、ティーンエイジャーだけでなく、大人も視聴するTV番組として人気を獲得した。なかでも、高校アメリカン・フットボール・チームを描く群像ドラマ『Friday Night Lights』は、今でもティーン・ドラマのベストとして名を挙げる人が多い名作となった。これらの番組は主人公がティーンエイジャーではあるが、対象視聴者をティーンに限定せず、ティーンにおもねらない、大人の視聴にも堪える番組として製作されていることに特長がある。

ティーン・ドラマはその後も『ゴシップガール』(2007年)、『プリティ・リトル・ライアーズ』(2010年)、『リバーデイル』(2017年)等、さらに発展を遂げ、拡大していく。これらの番組は、ミステリーや殺人事件等の、若者向けというジャンルの特長にこだわらない要素をストーリーに取り入れており、視聴者をティーンエイジャーに限定していない。さらにすべてスピンオフや続編が製作されるなど、人気の高さを証明している。

そして現在、ほぼすべてのネットワークやストリーミング・サービスが製作に本腰を入れるなど、ティーン・ドラマは新たな拡大発展を遂げている。近年のティーン・ドラマは以前にも増してダークな世界に足を踏みれており、その路線を代表するのが、『ユーフォリア/EUPHORIA』(2019年)だ。

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『ユーフォリア/EUPHORIA』は有料ケーブル・チャンネルのHBO製作であり、地上波ネットワークと異なり、放送規制がない。そのためドラッグやアルコール、セックス等、地上波では不可能な描写がふんだんにあるのが特長だ。それまではディズニー・チャンネル番組出身で、可愛こちゃんのイメージが強かったゼンデイヤ(『グレイテスト・ショーマン』『スパイダーマン』シリーズ)が汚れ役に挑戦する印象も強く、大きな話題を提供した。

他に現在の新しい潮流として、かつてヒットした番組のリメイクやリブート、スピンオフが多く製作されていることが挙げられる。『ロズウェル/星の恋人たち』のリブート『Roswell, New Mexico(原題)』(2019年)、『ヴェロニカ・マーズ』(2019年)、『リバーデイル』スピンオフの『ケイティ・キーン』(2020年)、『Saved by the Bell』(2020年)、『Gossip Girl』(2021年)の他、『プリティ・リトル・ライアーズ』は既にスピンオフ版の『Ravenswood(原題)』が2013年、『Pretty Little Liars: The Perfectionists(原題)』が2019年に製作されているが、さらにリバイバル版の製作を予定している。

他にも『クルーレス』がリバイバル予定であるなど、枚挙に暇がない。また、これらのリメイク・リバイバルにあたり、ジェンダーや人種問題を見据えた現代風のマイナー・チェンジが施されている場合が多々あるのも特長だ。

『天才少年ドギー・ハウザー』のリブート版『Doogie Kameāloha, M.D.(原題)』では、主人公は白人少年(ニール・パトリック・ハリス『ママと恋に落ちるまで』)から、アジア系の16歳の少女に変更になった。新『ワンダー・イヤーズ』では、主人公一家は黒人家庭になる。ほぼ白人俳優一辺倒だった『ゴシップガール』は、多人種キャストに。これらの事実は、視聴者が自分を番組内のキャラクターに感情移入できる要素が多くなるということでもある。

一方で、変わらないものもある。昔も今もティーン・ドラマの本質は、初恋、親友、社会に受け入れられるかどうかの悩み等をどう描くかだ。それらがティーンエイジャーの心をつかんだ時、その番組は視聴者の心の中に永遠に残ることになるのだ。

(文・生盛健)

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(2021年2月時点での情報です)

Photo:

『ビバリーヒルズ高校白書』(C)90-91 CBS Paramount International Television.
『ゴシップガール』(C)Warner Bros. Entertainment Inc.
『The OC』(C)Warner Bros. Entertainment Inc.
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