北米、ヨーロッパ、アフリカを舞台に、イタリアン・マフィアVS.メキシカン・マフィアのコカイン密輸ルートを巡る権力抗争を描いたドラマシリーズ『ZeroZeroZero 宿命の麻薬航路』が大きな反響を呼んでいる。デイン・デハーンほか個性あふれる国際派俳優の競演、世界3大陸オールロケによる壮大なスケールとリアリティー、そしてベストセラー小説をベースにクオリティーを追求した精鋭スタッフ陣の熱いパッション...視聴者を唸らせるその魅力を複数の視点から分析してみた。
目次
『ZeroZeroZero 宿命の麻薬航路』あらすじ
南イタリア・カンブリア州の犯罪組織を仕切るドン・ミーノ(アドリアーノ・キアラミダ)は、衰退したファミリー復活を懸けて大がかりなコカイン密輸を計画する。だが、祖父に恨みを持つ孫のドン・ステファノ(ジュゼッペ・デ・ドミニコ)は秘かに妨害工作を企んでいた。一方、コカインの売り手であるメキシコのレイラ兄弟は、アメリカ・ニューオーリンズの運輸業者エドワード(ガブリエル・バーン)と、その娘エマ(アンドレア・ライズボロー)と共に高級レストランで会合を持つが、マヌエル(ハロルド・トレス)率いる謎の狙撃班に命を狙われる。これを機に家族の危機を感じたエマの弟クリス(デイン・デハーン)は、難病を抱えながらも危険な麻薬取引の現場に身を投じていく。
【本ドラマを堪能する4つの深掘りポイント】
①デイン・デハーンほか国際色豊かな演技派俳優陣の個性が激突!
イタリアン・マフィア、メキシコ麻薬カルテル、そして運び屋のアメリカ人一家が覇権を巡り三つ巴の戦いを繰り広げるが、それぞれの役者が一世一代の名演を魅せる。特に秀逸なのが、本作の軸となるデイン(『アメイジング・スパイダーマン2』)、ガブリエル・バーン(『ユージュアル・サスペクツ』)、アンドレア・ライズボロー(『ブラック・ミラー』)の運び屋一家の絆。
その中でも父と姉の深い愛に守られながら、遺伝性難病のハンチントン病と闘う青年クリス役のデインは、不自由な体にもどかしさを覚えながらも、危機に瀕した家族のために立ち上がる献身的な末っ子魂を見事に表現。これまでのミステリアスな美青年イメージを打ち破る傷だらけの怪演を魅せる。その佇まいに若き日のレオナルド・ディカプリオが重なるが...なんとデイン、この風貌で現在35歳! 意外にも中堅俳優だったことに驚いたのは筆者だけだろうか。
また、リアリズムを追求する本作は、イタリア組、メキシコ組は、母国語が話せるご当地の実力派俳優を起用。生き残るために戦友を裏切り、葛藤するマヌエル役のハロルド・トレスは、2021年インデペンデント・スピリット賞テレビ部門で男優賞候補になるなど圧倒的存在感を示し、有名無名を超えた世界レベルの演技を披露。視聴者の心に痛みが走るほどの爪痕を残す。
②世界3大陸をめぐるオールロケならではのリアルな臨場感
本作への気合いを象徴するのが、コカイン取引の核となる世界3大陸オールロケいう規格外のスケールだ。『ゴッドファーザー』ドン・コルレオーネの故郷シシリーの自然豊かな田舎町を彷彿させるイタリア・カラブリア、熱いナイトライフにラテンの血が騒ぐメキシコ・モンテレイ、得体の知れない危険が潜むマリ・サハラ砂漠、さらにはモロッコ・カサブランカ、アメリカ・ニューオリンズなど、その土地の風土や熱量、ご当地俳優たちの間で飛び交う本物の母国語が、作品に圧倒的なリアリティーをもたらしている。
③カンヌで絶賛された『ゴモラ』原作者のベストセラーをドラマ化
原作は、イタリア人作家ロベルト・サヴィアーノのノンフィクション小説『コカイン ゼロゼロゼロ:世界を支配する凶悪な欲望』。過去、世界で1,000万部を売り上げたベストセラー小説『死都ゴモラ』を執筆し、自ら映画化した『ゴモラ』でカンヌ国際映画祭審査員特別賞グランプリを受賞した彼が、満を持して自作のドラマ化に乗り出した意欲作だ。前作でマフィアに命を狙われる危機にさらされながらもお構いなし、今回も麻薬取引に深く踏み込んだ内容と映画級のクオリティーの高さで評論家を唸らせ、ヴェネツィア国際映画祭のプレミア上映でも大きな話題を呼んだ。とにかく、生みの親であるロベルトが熱い!彼のパッションが作品に命を吹き込んでいる。
④『ウィズアウト・リモース』のステファノ・ソッリマによる巧みな演出
メガホンを執ったのは、『ウィズアウト・リモース』『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』のステファノ・ソッリマ監督。例えば、「彼は撃たれた。そのワケは...」という倒置法の積み重ねで物語を物語を紡いでいく巧みな脚本を、スリリングに展開させていく演出力が実に秀逸だ。もちろん、サスペンスフルな物語に加え、ド派手な銃撃戦、カーチェイス、過激な拷問シーンなど、アクションファン悶絶のシーンもふんだんに盛り込まれているが、それだけで終わらないところがこの作品の素晴らしさ。反社会の中に垣間見られる人としての"最低限"の優しさ、思いやり、そして生命への尊厳が本作をさらに深遠なる作品に押し上げているのだ。流れ弾に当たった少女への労り、仲間への裏切りに神の赦しを乞う姿、涙を流しながら掟破りの肉親を殺める悲哀...。サスペンス、アクションとともに、身を引き裂かれそうな人間ドラマも本作の大きな見どころと言えるだろう。
不穏と慈悲が入り混じる独特の旋律...。スコットランド・グラスゴー出身のポストロック・バンド・Mogwai(モグワイ)が本作のために書き下ろしたテーマ曲が、熱き映像とともに今も心に鳴り響く。
『ZeroZeroZero 宿命の麻薬航路』はスターチャンネルにて放送中(毎週火曜よる11:00ほか)、「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」にて配信中(毎週火曜1話ずつ配信)。
文/坂田正樹
Photo:『ZeroZeroZero 宿命の麻薬航路』© 2019 Cattleya Srl - Bartlebyfilm Srl.