伝説のアニメ『カウボーイビバップ』がなぜアメリカ人の心を掴んだのか?その理由を探る!

「日本のアニメがハリウッド実写化!」という報道を耳にすると、あまり好意的に思わない人は多いだろう。かくいう筆者も海外ドラマ大好き人間とはいえど手放しには喜べないほうだ。だが、今回Netflixが手がける『カウボーイビバップ』実写版シリーズには、実はかなり期待している。20年以上も前に終了している日本のアニメが今になって、しかも単発の映画ではなくストリーミングサービスでのドラマ化という珍しいパターンでの製作。アメリカではある意味、ジブリとは別次元で伝説級のアニメになった本作だが、その理由を今一度振り返ってみたい。

■『カウボーイビバップ』ってなに?

本作は『ガンダム』や『コードギアス』など、多くの大ヒット作品を手がけるサンライズが1998年に制作したアニメだ。

舞台は2071年の未来。短時間で惑星間を移動できるようになった人類は、太陽系内に生活圏を広げていた。悪化する治安対策として、指名手配犯を捕まえる「カウボーイ」と呼ばれる賞金稼ぎが活躍。主人公のスパイク・スピーゲルと相棒のジェット・ブラックは、オンボロ宇宙船「ビバップ号」で賞金首を追っている。だがひょんなことから知り合った奔放な美女フェイ・ヴァレンタイン、天才ハッカーの子どもエド、一風変わった犬のアインも乗り込むことになり、4人と1匹の奇妙な宇宙船での生活が始まる。お互いの素性も過去も知らない彼らだが、宇宙を駆け巡り日々暮らしていくというストーリーだ。

実は、好きなアニメとして本作をあげるハリウッドセレブは多い。故ロビン・ウィリアムズ(『ミセス・ダウト』)、ミーガン・フォックス(『トランスフォーマー』)、キアヌ・リーヴス(『マトリックス』シリーズ)、コメディアンで脚本家のコナン・オブライエン(『ファイナル・スペース』)などがそう公言している。キアヌにおいては、2011年自身の主演で実写映画化をしようとしていたが、予算がかかりすぎて断念していた。

アメリカの「アニメは子どもが見るもの」という概念を打ち砕いた本作。放送されたケーブル局や時間帯というマーケティングの影響もあるが、「大人向けのアニメ」という存在を知らしめたのが、この『カウボーイビバップ』だった。では欧米、特にアメリカでこれほどまでにヒットした理由はなんだったのだろうか。

 

■多彩な音楽とジャンル不明なノアールアニメ、その上ハリウッドをリスペクト

第一に、ジャンル分けできないほど豊かな展開のストーリーだ。舞台は宇宙でSFだが、クライムサスペンス、コメディ、アクション、ロマンス、サイバーパンク、さらに群衆劇でもある。基本的には一話完結スタイルの作品だが、実は毎回大した事件は起こらない。カウボーイたちの日常をたんたんと追っていくというある種「つまらない」とも思える物語だ。だがそのアンニュイでノアールな雰囲気が、夜の放送時間だったこともあり、一日を終えるにぴったりの大人向けアニメとして評判になった。実際筆者も、仕事が終わった夜に本作をゆったりと見て一日を終えていた。

また、今は当たり前に描かれる同性愛、Xジェンダーなどのキャラクターや、アメリカで当時実際に起こった爆弾事件を彷彿させるストーリーなど、大人ならピンとくる設定も盛りだくさんだった。

さらに本作の驚くべき点は、毎回バラバラだったエピソードなのに、シリーズの終盤でそれぞれのキャラクターたちの過去と未来に繋がりを持たせ締め括っているところだ。海外ドラマや最近のアニメでは、最初から突拍子もないストーリーで視聴者を惹きつけ、クリフハンガーで次回に続くいわゆる"ジェットコースター展開"が人気だ。しかし『カウボーイビバップ』はそれとは反対の路線を歩んでいたのだ。それが逆に目新しくとられたとも言える。

二つ目は、なんと言っても菅野よう子氏作曲によるオープニング、エンディング、そして劇伴の存在だ。

日本のアニメは昔から、坂本龍一氏など才能豊かな大物作曲家を起用していたが、本作はアニメなのにジャズやブルースがメインだった。戦闘シーンなのに、思いっきりジャズが流れる。一見おかしな組み合わせに思えるその世界観が、ジャズ・ブルースの発祥の地とも言われるアメリカの人の心を鷲掴みにしたのだ。

本作の実写版製作が決定した際、筆者を含む多くのファンは「音楽はどうなるのか」と心配した。アニメの実写化でこれほどまでに音楽が心配される作品も珍しい。しかし先日公開されたオープニング・ティーザーは、菅野氏によるオープニング曲「Tank!」がそのまま使用され、映像もオリジナル版に寄せたものになっている。それまで不安に思っていたファンも、この時少しNetflix版に期待を持ったことは間違いない。

また、ティザー映像では、スパイクの宿敵とも言えるキャラクターの登場シーンで、アニメ版と同じクラシカルな劇伴が使われていた。その他のジャンルの音楽ももちろん多く含まれ、エピソードタイトルにも音楽用語が頻繁に使われていたアニメ版。様々な種類の音楽と上手く融合したアニメという意味でも、非常に珍しい作品だった。

三つ目に、アニメ版『カウボーイビバップ』自体が、多くのハリウッド作品やアメリカへのリスペクトに溢れていることが挙げられる。そもそも「カウボーイ」という言葉をアメリカ人が嫌がるはずもなく、「ビバップ」はジャズ音楽の一形態であり、タイトルからしてすでにアメリカンな要素が満載なのだ。

エピソードでいうと、アニメ版第19話「ワイルド・ホーセス」に出てくる悪者3名の名前。それぞれジョージ、ハーマン、ルースというキャラクターだが、実はこれ、あの野球界のレジェンド、ベイブ・ルースの本名ジョージ・ハーマン・ルースをわけたものだ。

さらに筆者にとってツボだったのは、第18話「スピーク・ライク・ア・チャイルド」の回。フェイの過去の秘密が明らかになるVHSが発見される重要なエピソードだが、そのビデオ屋で働いていた男性が見ていたドラマは、『ビバリーヒルズ高校白書』そのものだ。「この街は何もかもがミネソタと違う」「双子の妹と一緒だから大丈夫さ」「ありがとう、兄貴」そんな会話で終わった後に出るテロップには、"Jason Pre....Shanan D"とブランドン役のジェイソン・プリーストリー、ブレンダ役のシャナン・ドハティと思われる名前が出てくる。

また、第1話「アステロイド・ブルース」の指名手配カップルは、1995年のネオ・ウエスタン映画『デスペラード』主演のアントニオ・バンデラスとサルマ・ハエックそっくりのキャラクターで、オマージュと取れるだろう。

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その他にも『スタートレック』のエンタープライズ号ネタや『エイリアン』を思わせるエピソードなどもあり、アメリカが生み出した"隠れネタ"を好意的に思ったアメリカ人も少なくはない。アニメ版未見の海外ドラマ・映画ファンであれば、それを探しながらまずはオリジナル版を見るのも楽しいだろう。余談だが、筆者が勝手に思っている『カウボーイビバップ』の影響として、日本好きでも知られるクリエイターJ・J・エイブラムス(『LOST』)のSFドラマ『ウエストワールド』がある。アニメ版のある回で、馬に乗ったカウボーイキャラが登場するが、最後にその彼は銃を刀に変え、カウボーイから侍になり変わり、馬で走り去っていくというオチ。これは、『ウエストワールド』のウエスタンワールドから侍ワールドになった展開に通ずるものがあるのではと考えている。

 

■実写版のキャスト、製作者の意気込みとファンが喜ぶ"隠れネタ"に期待

主人公スパイクを演じるのは、アジア系アメリカ人俳優のジョン・チョー(『スリーピー・ホロウ』『search/サーチ』)。モデルはブルース・リーや松田優作だと言われているので、アジア人の配役は製作側の意図もあるのかもしれない。(サンライズ側もプロデューサーとして参加している)キャスティングにおいては、実際アメリカのファンでも賛否両論あった。だが、クリエイターのアンドレ・ネメック(『暴走地区―ZOO―』)によると、フェイに関しては、オーディションで一番「フェイ感」を出していたのはダントツでダニエラ・ピネダ(『オリジナルズ』)だったという。

ジャンルは違うが、以前ブロードウェイで『王様と私』というミュージカルが渡辺謙主演で上演された。その当時渡辺氏は英語もそれほど流暢ではなく、3時間ほどあるミュージカルの英語セリフを全て暗記するという経験もなかった。歌やダンスも、音大や芸術大卒の多いブロードウェイ俳優と同レベルとは言えなかった。それでも演出のバーレット・シャーは、彼を起用した理由をこう述べた。「歌やダンスが上手い人を探していたのではない。彼こそが私の求めていた王そのものだったからだ」

コスプレイヤーやモノマネで二次元キャラそっくりになれる人はたくさんいるだろう。だが、実写版のキャスティングにおいては、あの独特の世界観で、そのキャラクターのコアな部分を憑依できるかどうかが重要視される。

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ジョンにおいては本作の撮影中に負傷し手術を受け、半年以上撮影が中断するほどのアクションもやっていたようだ。カツラは嫌だったということで頑張って髪を伸ばし、スパイクの歩きかたまで研究を重ねたという。

また、本編を集めた予告映像第二弾では、スパイクのヘラヘラした感じと過去に背負った影も出ていた。ジェットはそのままいるだけで存在感があり、フェイのセクシーで図々しい魅力も伝わってきたように思う。そして未だ謎に包まれている人気キャラクター、エドの存在だが、ネメックは「期待していい」と言っているので、どこかでお目見えするのだろう。

さらに、"隠れネタ"があちこちに散りばめられているとも言われており、それを探すのも面白そうだ。ネメックはアニメ版を壊すようなことはしないとしつつも、「アニメ版が完璧すぎるからこそ、1話1話全く同じことを実写でやるのでは意味がない。あの世界観をさらに広げられれば」と語っている。アニメ版のキャラクターも多く出ており、CGを駆使した宇宙空間やアクションシーンはさすがハリウッドと言える迫力に満ちている。漫画のようなティザー映像は、新たな試みで面白い出来栄えだった。

日本語吹き替えにおいては、オリジナル版同様スパイク役は山寺宏一、フェイ役は林原めぐみ、ジェット役は残念ながら石塚運昇氏が亡くなっていることから楠大典が担当。アニメファンには吹き替え版は文句のつけようもないくらい完璧なものだが、英語の実写版でも言い回しにキャラクターの雰囲気が出ていたように感じた。

予告映像第二弾:英語版

予告映像第二弾:日本語吹き替え版

ファン全員に受け入れられるかどうかは本編が始まってみないとわからないが、少なくともアニメ版へのリスペクトと同時に、チャレンジ精神も感じられる。先入観のないアニメ版未見の方には、シンプルに「面白い作品」に映るのではないだろうか。

日本のアニメ版はアメリカに、アメリカの実写版は日本に思いを馳せて製作されたとも言える『カウボーイビバップ』。果たしてこの実写版で、「アニメの実写化は微妙」という概念を覆すことはできるのか。アニメ未見の方も、アニメ版のファンの方も、伝説のアニメをベースにした『カウボーイビバップ』実写版をぜひ楽しんでもらいたい。

それでは、配信日の11月19日(金)に!
See You Space Cowboy and Cowgirl!

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(文/Erina Austen)

★実写版『カウボーイビバップ』を今すぐ視聴する★

Photo:Netflix実写版『カウボーイビバップ』/『デスペラード』© Mary Evans/amanaimages /『ビバリーヒルズ高校白書』(C)90-91 CBS Paramount International Television