スティーヴン・キングの短編小説を基に、愛と恐怖に翻弄されたある一族の歴史を描いたドラマ・シリーズ『チャペルウェイト 呪われた系譜』(スターチャンネルEXにて全話配信中/BS10スターチャンネルで放送中)。オスカー俳優エイドリアン・ブロディ(『戦場のピアニスト』)が主演と製作総指揮を務めた本作は、おぞましい地獄に吸い込まれそうになりながらも、愛の力で恐怖に立ち向かう"家族の姿"をエモーショナルに描いている。「ホラーは苦手」というジャッジはやや早計、ジャンルで敬遠しがちな方々のために、呪いに屈しない主人公一家の葛藤と絆、さらには彼らを取り巻く周囲の人間模様など、ヒューマンドラマとしての見どころにフォーカスしながら、本作の魅力を紹介していきたい。
目次
『チャペルウェイト 呪われた系譜』あらすじ
父親の暴力から逃れ、捕鯨船の船長となったチャールズ・ブーン(エイドリアン)は、頑なに陸地での生活を拒んでいたが、病死した妻から「子どもたちを学校に行かせてあげて」という遺言を受けて心が揺らぐ。
そんな時に偶然(?)舞い込んだ一通の手紙。そこには、従兄弟のスティーヴンが亡くなり、メイン州の田舎町ある小さな屋敷チャペルウェイトと製材所を継いで欲しいという内容が書かれていた。子どもたちの将来を案じたチャールズは船を引き上げ、移住することを決意するが、ここから想像を絶する悪夢が始まる。
"家族愛"を描いたヒューマンドラマとしての見どころポイント
①"呪い"という宿命を背負ったブーン一族の歴史
まず注目したいのが、物語の軸となる"ブーン一族"の歴史。チャールズは、子どもたちとともにチャペルウェイトに移り住むが、なぜか住民から「ブーン家は疫病神だ」と敬遠される。
彼自身も少年時代、狂乱した父親に殺されかけたトラウマを抱え、虫に襲われるという奇妙な幻覚に悩まされていることから、一族の歴史を徹底調査することを決意。
やがてブーン一族に暗い影を落とした悪魔の書「デ・ヴィルミス・ミステリイス」(キングが愛読していた怪奇小説「クトゥルフ神話」に登場する魔道書がモデル)の存在を知ったチャールズは、その書をバイブルとする亡者ジェイコブとの壮絶な戦いに呑み込まれていく。
【時系列で見るブーン一家の黒歴史】
・1780年(メイン州)
チャールズの曾祖父ジェームズ(物語の鍵を握る"ジェルサレムズ・ロッド"という町を作った地元の名手)が悪魔の書を手に入れ、ある"禁断の行為"に及んだことから、その書をバイブルと崇める亡者ジェイコブの逆鱗に触れる。全ての悪夢はここから始まった。
・1817年(マサチューセッツ州)
少年だったチャールズは、狂乱した父親に殺されそうになるが、母親の命懸けの抵抗によって助けられ、家を後にする。温厚だった父親の急激な変貌によって家族崩壊したことが一生消えない心の傷となって彼を苦しめる。
・1848年(メーン州)
悪魔の書を再びブーン一族の手元に引き寄せたチャールズの従兄弟スティーヴン、娘のマルセラ、そして父親のフィリップが謎の死を遂げる。呪われた屋敷チャペルウェイトと製材所が主(あるじ)を亡くしたことから、チャールズに相続願いの手紙が届けられる。
・1850年(日本近海からメーン州へ)
捕鯨船の船長となったチャールズは、父親から受けた暴力のトラウマから陸で生活をすることを拒み続けるが、妻の遺言を尊重し、亡くなった従兄弟スティーヴンの屋敷と製材所を相続。だが、悪魔の書にまつわるブーン一族の呪いに巻き込まれ、子どもたちを危機にさらしてしまう。
➁孤立無援の中で芽生えたチャールズ親子の"固い絆"
「もう関わりたくない」...冒頭、チャペルウェイトに越して来たばかりのチャールズ親子に元家政婦が吐き捨てるように言った言葉が、ここでの立場を暗示。町の"疫病神"のレッテルを貼られ、中立であるはずの教会関係者、保安官、さらにはスティーヴンが経営していた製材所の職人も、チャールズ親子に背を向ける。
だが、不当な扱いに屈しないチャールズは、自身のトラウマや幻覚と戦いながらも、子どもたちとの暮らしを守るため、時には激しく、時には辛抱強く、町の人々を説得する。「本当の敵は俺たちじゃない、亡者ジェイコブだ!」と。
その鬼気迫る姿を見ていた子どもたちは、父親への信頼感をより深め、そして唯一の理解者である家庭教師のレベッカ(エミリー・ハンプシャー)の献身的な愛も勝ち取ることに。
「最後に悪を退けるのは、愛の力」...同じニュアンスのセリフが劇中にも使われているが、人々の差別や亡者の恐怖に立ち向かう美しい親子愛が、観る者の胸を熱くする。
【親子愛に胸熱!チャールズの子どもたち】
・オナー・ブーン(ジェニファー・エンズ)
思春期の長女。幼い妹と弟の母親代わりを務めるしっかり者で、チャールズの心強い味方。製材所の心優しい青年に恋心を抱く。
・ロア・ブーン(シレーナ・グラムガス)
片足が不自由な次女。母を亡くした直後、しばらく口をきかなくなる。チャールズが内に秘めている悩みやトラウマを察する繊細な一面も。
・テイン・ブーン(イアン・ホー)
幼い長男。まだ純真無垢な末っ子だが、それゆえに物語を大きく揺るがす出来事に関与してしまう。だがチャールズは、そんな息子を攻めるどころか、彼の正義感を称える。
・レベッカ・モーガン(エミリー・ハンプシャー)
大学を卒業し、帰省中の新人作家。雑誌に掲載する小説のネタ作りのためにチャールズ一家の住み込み家庭教師になるが、彼らと触れ合ううちに心惹かれていく。
③オスカー俳優エイドリアン・ブロディ、魂の熱演!
家族を大切にする厳格な父親でありながら、その裏では少年時代のトラウマや悪夢に苦しめられる複雑なキャラクター、チャールズを熱演したエイドリアン。オフィシャル・インタビューで、「孤立無援の中で家族を守り、何とか運命を切り開いていこうとするチャールズがとても好きだった」(一部抜粋)と語っているが、自分の中にはびこる呪いを認め、弱さと強さが交互にぶつかり合いながら、子どもたちのために戦う決意を次第に固めていく姿は、彼の繊細なアプローチがなければ、ここまでエモーショナルに表現できなかっただろう。
そして、家族や町の人々の心を束ねながら、亡者ジェイコブとの決戦の時を迎えるチャールズ。黒歴史を自分の代で終息させ、子どもたちに明るい未来を届けるために、彼は究極の決断を選択する。愛なくしては絶対に成し遂げられないその方法とは...。全ての悪を一人で背負い、父親としての役目を果たそうとするチャールズの生き様に、もはやかける言葉が見つからない。悲しいけれど希望に満ちたエイドリアンの"神のような目"が今も心に焼きついている。
ホラーであることは間違いないが、その根底に流れる親と子の愛情物語がここまでしっかりと、しかも劇的に描かれた作品はなかなか出会えないもの。恐怖に立ち向かうからこそ見えてくる真の家族愛...コロナ禍によるリモート生活で人恋しさが募っている方、日々の暮らしに刺激が足りない方に、ぜひオススメしたい傑作だ。
エイドリアン・ブロディ/プロフィール
1973年ニューヨーク州生まれの48歳。アメリカン・アカデミー・オブ・ドラマティック・アーツと高校で演劇を学び、オムニバス作品『ニューヨーク・ストーリー』(1989)で映画デビュー。その後、テレンス・マリック監督作『シン・レッド・ライン』(1998)で注目を集め、2001年、ロマン・ポランスキー監督作『戦場のピアニスト』でアカデミー賞主演男優賞を受賞する。その他の作品にスパイク・リー監督作『サマー・オブ・サム』(2002)、M・ナイト・シャマラン監督作『ヴィレッジ』(2003)、ウェス・アンダーソン監督作『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)などがある。
『チャペルウェイト 呪われた系譜』配信・放送情報
<配信>「スターチャンネルEX」
【字幕版/吹替版】 全話配信中
視聴ページはこちらより
<放送>BS10 スターチャンネル
【STAR1 字幕版】 毎週火曜23:00 ほか
【STAR3 吹替版】 毎週金曜22:00 ほか
https://www.star-ch.jp/drama/chapelwaite/sid=1/p=t/
(文/坂田正樹)
Photo:『チャペルウェイト 呪われた系譜』© 2021 Sony Pictures Entertainment. All Rights Reserved.