カリスマシェフの食育とは?Apple TV+『雑食するヒト』レネ・レゼピにインタビュー
(C) Amy Tang

“世界一予約が取れないレストラン”「noma」のシェフ、レネ・レゼピがクリエイター&ナレーターを務めるApple TV+ドキュメンタリーシリーズ『雑食するヒト』。2024年秋に再オープンする「noma 京都」も話題の世界的カリスマシェフに本シリーズ製作のきっかけや、取り上げられていた食材、子どもたちへの食育などについてお話を伺った。

 

『雑食するヒト』レネ・レゼピにインタビュー

――都市や料理、またはレストランにフォーカスしたドキュメンタリーは数多くある中、食材を取り上げているのは珍しい印象です。「noma」のように食材にこだわる思いが直結しているのだと思いますが、ドキュメンタリーをご自身で手掛けたいと思ったきっかけを教えてください。

10年以上前のことですが、テレビ出演のオファーがいくつも来たことがありました。1年の間に、月に一度か二度はオファーがあったと思います。でも、ほとんどがただのエンターテイメントのためのもので、興味をそそられるものはありませんでした。でも、もしテレビに出るとしたら、どんな番組にしたいかと考えるきっかけにはなりました。

私がいつも食べ物について感じていることは、人々が食べ物に対して持っている価値観がとても低いということです。私たちは、食べ物がどこから来るのか、ほとんど知りません。材料や料理のレシピ、自然界の季節感とのつながりを失っています。そして、その根本には人間の健康と地球の健康があります。食べ方は私たち自身に大きな影響を与え、誰と一緒に食べるかが私たちを幸せにしたり、不幸せにしたりする要素にもなりえます。そして、食べ物の生産方法は、地球の健康状態にほぼ1対1の関係があると言えます。だからこそ、食べ物がどれほど大切なものかをもっと多くの人に知ってもらい、感動を与えるような番組を作りたいと思い、『雑食するヒト』が誕生したのです。

――第1話で取り上げられたトウガラシ。辛いものが苦手な場合、トウガラシを一番おいしく食べられる方法は何でしょうか? 個人的にお好きな辛い料理も教えてください。

トウガラシは興味深い食材です。多くの人が「辛くて口の中が痛くなるもの」と考えがちですが、塩やコショウ、酸味など、「うまみ」のように調味料として使いこなすことができれば、ほとんどの料理をより美味しくすることができます。例えば、比較的辛さが控えめなチリソースがあれば、好きな料理に一滴加えてみるといいでしょう。日本のカレーに少しだけ辛みを加えると、味が引き立ちます。また、これは日本の人々には抵抗があるかもしれませんが、普段食べている豆腐に、わさびや醤油、ショウガだけでなく、チリオイルを少し加えると、とても美味しくなります。

今、日本で私が好きなトウガラシを使った料理の一つは、実は中華料理の麻婆豆腐です。麻婆豆腐は、東洋のスパゲティボロネーゼのようなもので、日常的に食べられる料理の一つです。これが私の日本での一番好きな辛い料理です。

――第3話では「お客さんに塩を欲しいと言われたらシェフはパニックになる」と発言されていましたが、逆にお客さんから掛けられた言葉で印象に残っているものがあれば教えてください。

『おかわりが欲しい』と言ってくれることが、一番うれしいことです。料理をとても気に入ってもう一度食べたいと思ってくれるのは、キッチンにいるときに味わえる最高の気分です。

もし塩を求められたら…。正直言って、キッチン全体がパニックになります。パニックというのはつまり、最初に頭をよぎるのは、『ミスをしたのではないか?』ということ。『味付けが足りなかったのか?』と、自分たちを疑います。キッチンでは、決して起きてはいけないことなので。これは、高級レストランでも普通のお店でも同じです。味付けや調理に納得しない場合、一度でもそういう経験をすると、もう二度と戻ってこなくなるかもしれません。10回、20回と何度も訪れてくれているお客様でも、たった一度の悪い経験で来なくなることがあります。それだけに、常に気を使っています。

でも、やっぱり一番うれしいのは『もう一皿いただけますか?』と言われることです。『こんな料理は初めてで、もう一度味わいたい』と言われることがシェフにとってはベストなことなのです。

――レネさんの場合、たくさん聞かれるんでしょうね。

確かに聞かれますが、想像するほど頻繁ではないんです。食べる量が増えてしまうことがわかっているから、きっと食べ過ぎを心配しているんでしょう。

――本作を通じ、改めてレネさんの食への探求の素晴らしさを感じました。プライベートでは3人のパパだそうですが、食育としてレネさんが心がけていることがあれば教えてください。(私には5歳の娘がいますが偏食で困っています)

まず、ほとんどの子どもが好き嫌いのある時期を経験すると思います。私の子どもたちもみんなそうでした。長女は現在16歳、もうすぐ17歳ですが、今では何でも食べますし、外食や新しいものを試すことが大好きです。

しかし、彼女にも3~4年の間、パンやパスタばかりを好む時期がありました。季節外れの果物がスーパーに並んでいても、それは今食べるものではないという事実にフォーカスし、基本的な食育に重点を置くことを心掛けました。つまり、食べ物の旬がいつなのかを教え、基本的な料理の仕方も教えるのです。誰もがご飯の炊き方やジャガイモの調理法、目玉焼きやオムレツの作り方など、基本的なことを学ぶべきです。そうすれば、彼らの料理人生はより豊かで健康的なものになるでしょう。とても簡単なことですが、将来に大きな影響を与えます。

――はい。その通りだと思います。子どもには料理を教えてあげたいと思っています。自分が子どもの時にそのような経験をしてこなかったので、今、大人になってみての影響がとても大きいことは間違いありません。

そうですね。特に長女は誰よりも早起きをして、キッチンにいるんです。僕と妻が出かけているときは、彼女が他の子どもたちに料理を作るんです。ポークチョップやポテトなんかをね。簡単な料理だけど、それで十分です。

――日本の食材で特にお好きなものは何ですか?

(C) Amy Tang
 

かつお節が大好きです。素晴らしい食材だと思います。昆布も大好きです。この2つは万能で、家でもよく使っています。ゆずも大好きです。ゆず味の全部が。そして、週に何回も食べる日本の食材を一つ選ぶとしたら、そばです。絶対にそばですね。私にとっては、神からの食べ物のようです。麺づくりの最高峰だと思います。

――今回の滞在でお気に入りになった食べ物や新たな発見があれば教えてください。

京都の夏がオーブンのように熱いことを知りました。40度あって、湿度は75パーセント。灼熱です。冬から春、秋に滞在していた時とは大違いでした。だから、今は暑すぎて食材のことを考えるのが少し難しいです。

Apple TV+『雑食するヒト』作品情報

作品名『雑食するヒト』
原題Omnivore
ジャンルドキュメンタリーシリーズ
配信先Apple TV+
話数全8話
クリエイターレネ・レゼピ、マット・グールディング

Apple TV+『雑食するヒト』全8話は独占配信中。

(海外ドラマNAVI)

Photo:Apple TV+画像提供 レネ・レゼピ (C) Amy Tang