『ゲーム・オブ・スローンズ』原作者がテレビ界における脚本家の苦境を説明

全米脚本家組合(WGA)による約15年ぶりの大規模ストライキの話題で持ちきりのハリウッド。大ヒットドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』原作者として知られるジョージ・R・R・マーティンが、かつてテレビの脚本家として働いていた経験から、この件について意見を述べた。米Deadlineが伝えている。

必要なのは業界の将来を見据えた行動

1948年生まれのマーティンは、1970年代に執筆活動を始める一方、1980年代から1990年代にかけてドラマの脚本家も務めていた。そんな彼が、1985年にドラマ『新トワイライト・ゾーン』を皮切りにテレビの脚本家としてのキャリアが始まったとブログで振り返った。幅広い下積み経験を経て成長していくかつてのシステムがなければ、彼はどのようにシリーズを実際に作るのか、その方法を決して学ぶことはできなかったと考えているようだ。

「私のキャリアにおける最初の14年間は、散文しか書いていなかった」と書き始めたマーティン。「テレビは好きだったけど、テレビの脚本を書くことなんて1985年まで夢にも思っていなかった。CBSが『トワイライト・ゾーン』の新バージョンを立ち上げることを決めて、製作総指揮のフィリップ・デグェールがあるエピソードを書くために私を呼んでくれたんだ。当時はみんな始まりがそうだったように、自由契約の脚本。試してみようと決めた。するとフィルや彼のチームが私の書いたものをとても気に入ってくれて、数日後にはスタッフとして加わらないかというオファーをもらったんだ」

その後、マーティンは何が起きたかよく分からないうちに、組合の最低賃金で脚本スタッフとして6週間の契約を結び、LAへ向かったそう。「1980年代、脚本スタッフはピラミッドの最下層だった」と当時の業界事情を補足。

「テレビ界に入るため(撮影スタジオのある)バーバンクに飛行機で到着した時、テレビ制作に関して私が知っていたことといえば…あまりにも最低限なこと過ぎて適切な言葉が浮かばない。でもそこから多くを学んだ」と綴るマーティン。デグェールをはじめとした素晴らしいスタッフから、脚本の対話や構造のみならず、プロダクションについても学んだそうだ。

「私はただ脚本を書いていただけじゃない。キャスティングセッションにも関わった。監督たちとも仕事をした。読み合わせの場にもいた。『新トワイライト・ゾーン』の一編、『The Last Defender of Camelot(原題)』は私の脚本が初めて制作に繋がったエピソードで、その撮影中は毎日現場にいたよ」と仕事の実情について明かしたマーティンは、さらに編集作業も間近で見るなど、テレビ制作に必要なことについて色々と学んだという。

「私が『新トワイライト・ゾーン』に関わってきた間にテレビ制作について学んだことと同じくらいのことを教えてくれる学校は、世界のどこにもない。もしも脚本スタッフ、ストーリーエディターとして『新トワイライト・ゾーン』で学んでいなければ、どんなことも不可能だった」と断言。改めて自分もキャリアの初めは右も左も分からないような新人だったと述べ、「私の意見では、それこそが組合が闘うべき最も大切なこと。こうしたキャリアを辿ることができる権利。新しい脚本家や若い脚本家、そして散文作家が同じピラミッドを昇っていくことを可能にするために」と脚本家の権利を守る重要性を訴えている。

全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)との交渉決裂から始まった今回のストライキ。放送が主流のこれまではパイロット版を製作してから企画進行に移るかを決めるプロセスだったが、配信が主流になった昨今は事前に脚本を4話分ほど用意してから製作決定の判断をするスタイルに変わってきている。そこから企画にゴーサインが出れば、新たに脚本スタッフを増やして進めていくという流れだ。こうした変化を受けて、WGAは企画初期段階の脚本チームの人数を定めることや、契約期間にある程度の長さを確保するよう要求したが、AMPTPは拒否。さらに再利用料やAIの問題など様々な点で脚本家が危機感を抱かずにはいられない状況が続いており、業界としてどのように安心を確保できるかが問われている。

「AMPTPが、制作期間中に仕事の一環として番組に携わる脚本家にその報酬を支払うことを拒否したのは、単に間違っているだけでなく信じられないほど目先のことにとらわれている。もしも2023年のストーリーエディターが制作経験を積むことを許してもらえないなら、2033年のショーランナーはどこから来るとスタジオは思っているんだろうか?」とマーティン。彼が言うように、業界の将来のことも考えて広い視野で見据えることが必要と言えるだろう。(海外ドラマNAVI)

参考元:米Deadline

Photo:ジョージ・R・R・マーティン ©2012 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.