タイムループSFの“最新進化系”登場!『ラザロ・プロジェクト 時を戻せ、世界を救え!』

SFに「タイムループもの」というサブジャンルがあるのをご存じだろうか? タイムトラベルものの一種で、主人公が何度も時間を遡っては同じ期間を繰り返し体験するというものだ。今回紹介するイギリスの最新SFドラマ『ラザロ・プロジェクト 時を戻せ、世界を救え!』はまさにそのタイムループものの最新進化形となっていて、あの手この手で視聴者の予想を外していくところがおもしろい。

『ラザロ・プロジェクト 時を戻せ、世界を救え!』あらすじ

主人公のジョージ(パーパ・エッシードゥ『ザ・キャプチャー 歪められた真実』)はアプリ開発を仕事にしている優秀なプログラマー。仕事も私生活も順調な日々を過ごしていたが、新たな疫病によるパンデミックの発生で全てを失いそうになる…が、突然半年前の何事もなかった頃に時間がまき戻っていて驚愕する。ところが、恋人も友人たちも、何も覚えていないというのだ。彼は混乱しつつもなんとか状況を改善しようとするのだが……。と、ここまでが第1話の導入部。ここから、なんとか違う「歴史」を作り出そうと、何度も時間を遡っては再挑戦するジョージの長い長い悪戦苦闘が始まる。

大きなカギとなるタイムループの掟

ここまで読んで、「そういうの、どこかで見たことが」と思った方も多いのではないだろうか。実はこういうタイムループSFは、特に日本では映画や小説のみならず、マンガ、ゲームなど様々なメディアで扱われている、人気の題材だからだ(たとえば最新だと、先日まで放送されていたテレビドラマ『ブラッシュアップ・ライフ』も、主人公が同じ人生を繰り返しながら最良の選択を探していくという、タイムループものの秀作だった)。

現代的なタイムループものといえば、ケン・グリムウッドが小説『リプレイ』(1987年刊)が有名だろう。なぜか人生を何度もやり直すことになってしまう主人公を描いたこの作品は、翌年、88年、世界幻想文学大賞を授賞したほか、様々な文学賞にノミネートされ、話題となった。

だが、日本においてはそれよりも先に、タイムループを扱った傑作アニメ映画がある。鬼才、押井守監督による『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』がそれだ。なぜか延々と学園祭前日を繰り返し続ける主人公たちの姿を描いたこの作品は、そのシュールな展開と演出に、今でもディープなファンが多い。

アメリカ映画におけるタイムループものの傑作と言えば、まずはハロルド・ライミス監督の『恋はデジャ・ブ』(1993年公開)だろう。ビル・マーレイ扮する性格の悪い主人公が、何故か繰り返される一日を過ごすうちに、段々と改心していくというコメディだ。

さて、こういったタイムループものでは「いかにして繰り返しから脱出するか?」と「なぜ繰り返しが起こっているか?」という二つの問題を解決するのも重要なテーマとなることが多い。

たとえば、『ミッション:8ミニッツ』(2011年公開)、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014年公開)及びその原作「All You Need Is Kill」(2004年刊行)、『ハッピー・デス・デイ』(2017年公開)とその続編『ハッピー・デス・デイ 2U』(2019年公開)などは、いずれもその点が物語の焦点となっている。このタイプのタイムループものは、繰り返しから脱出出来ないと死んでしまうとか、大変な大惨事が発生してしまうといった、サスペンス要素が含まれていて、一気に物語の緊張感が増すのが特徴だ。

 

 

そして、実は『ラザロ・プロジェクト』も第1話の後半からこのタイプの物語であることがはっきりする。タイムループは、人類を破滅から救うため、ラザロ・プロジェクト(ラザロ計画)という秘密組織が制御・実行していたものだということが明らかになるのである。ここから物語のテーマはループ脱出からループによる問題解決へと移行するのだ。

ラザロ(英語読みだとラザルス)という人物をご存じだろうか。新約聖書の中の『ヨハネによる福音書』に登場する、イエス・キリストの友人で、病死するがイエスの力で蘇ったとされている。ここから、現在の欧米においては復活や蘇生に関連する学術用語にも、「ラザロ症候群」や「ラザロ生物群」などと、「ラザロ」という言葉が頭につけられることがある。つまりラザロ計画とは、人類復活計画とでもいう意味を持つネーミングなのだ。

ここでおもしろいのは、ラザロ計画も自由自在に時間を巻き戻すことはできないという設定になっているところ。地球の公転軌道上にある特異点を地球が通る毎年7月1日だけ戻れるというのである。そして、最大で前回の7月1日までしか過去に戻ってやり直せないというのである。そして、組織のルールとして、人類が滅亡しそうな大事件が起きない限り、時間を巻き戻すことは禁止とされている。これらの制限が物語の大きな鍵となる。

さらにシリーズ中盤以降、物語のテーマはさらに「最適な選択は何か?」、「誰を助けるのか?」というものに変質して、視聴者を唖然とさせていく。しかも最終回では、それまで不可能だとされていた「ある事象」まで起こって、登場人物たちを驚愕の事態が襲う(これ以上はネタバレになるので書けない!)。

 

 

というわけで、本作のおもしろさは、視聴者が「なるほどこういう話なのか」と思ったあたりで物語のテーマがシフトして予想外の展開が起こるという、シナリオの上手さにあるのだ。

ちなみに、本国イギリスではすでに第2シーズンの製作が決定している。もしかすると、2020年代を代表するSFドラマに成長することになるかも。

Amazon prime Video チャンネルの「スターチャンネルEX」にて、4月5日(月)から独占日本初配信スタート。公式ページはこちらより

(堺三保)

Photo:『ラザロ・プロジェクト 時を戻せ、世界を救え!』© Sky Studios Limited (2021). All Rights Reserved.