SF映画の概念を覆す!最新作『アフター・ヤン』は近未来を舞台にした新たな愛の物語

初の長編映画『コロンバス』で絶賛を浴びた新進気鋭のコゴナダ監督が、今最も勢いのある製作会社A24(『ミッドサマー』『ムーンライト』ほか)とタッグを組み、静謐で愛にあふれたかつてないSF映画『アフター・ヤン』(10月21日公開)を生み出した。主演を務めるのは、映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』で悪役ペンギンを怪演し、そのスピンオフドラマがHBO Maxにて製作されることが報じられている名優コリン・ファレル。まさに夢のコラボといえる最新作に込めた熱い思いをコゴナダ監督が語った。

『アフター・ヤン』あらすじ

舞台は、人型AIロボット“テクノ”が一般家庭に普及した近未来。茶葉の販売店を営むジェイク(コリン)、妻のカイラ(ジョディ・ターナー=スミス/『ウィズアウト・リモース』)は、中国系の幼い養女ミカとベビーシッターのテクノ、ヤン(ジャスティン・H・ミン/『アンブレラ・アカデミー』)と共に慎ましくも幸せな日々を送っていた。だがある日、ヤンが突然故障し、動かなくなってしまう。ジェイクはふさぎ込む娘のためにヤンの修理に奔走する中、ヤンの体内に撮り残されていた断片的な記録映像を発見する。そこには、家族に向けられたヤンの愛おしいまなざしと、ある秘密が残されていた…。

――今回、幅広いジャンルで独創的作品を送り続けている製作会社A24とタッグを組んでいますが、その経緯を教えていただけますか?

コゴナダ監督:これが不思議なんですが、ちょうど『アフター・ヤン』の脚本を書き上げた段階で、「コゴナダ監督が何か書いたらしいぞ」という情報がA24に届いたらしいんです。僕たちは秘密裡に進めていたので、なぜ漏れたのかわからないんですが、同時にキャスティングも始めていたので、その筋から外部に漏れてしまったのかもしれません。それからしばらくして、脚本を読んだプロデューサーから「ぜひ出資させてほしい」と声をかけていただき、こうしてタッグを組むことになったのですが、最初は反応の早さにちょっと驚きましたね。ただその反面、「A24は常に面白そうな監督に目を光らせている」と聞いていたので、正直、すごく嬉しかったのも事実です。

 

――A24の映画製作に対する姿勢やシステムなど、どのような印象でしたか?

コゴナダ監督:A24が素晴らしいのは、他社とは違う感性を持っていて、ユニークな作品を世界に送り続けているところ。今回一緒に組んでみて思ったのは、クリエイティブな面で自由を与えてくれるし、作り手の声や個性を尊重してくれるんです。本当に素晴らしい体験でした。

――アレクサンダー・ワインスタインの「Saying Goodbye to Yang」(短編小説集「Children of the New World」)を映画化したいと思った一番のポイントは何だったのでしょう?

コゴナダ監督:本作のプロモーションで、ロボット工学の博士たちと何度かトークセッションさせていただいたのですが、皆さん口を揃えて、ヤンのようなアンドロイドが登場するのはまだまだ先だとおっしゃっていました。ただ私は、「AIがどこまで進化するのか?」ということよりも、私たち人間が人間でないものにどれだけ思い入れを持つことができるのか、それを実証する方が面白いんじゃないかと思っています。現にテクノロジーと人間との関係性は、かなり感情的なものが育まれてきていますからね。そこが私にとってはとても興味深いことなんです。

 

――スマートフォンなんかはいい例ですよね。なんとなく相棒のような存在になってますし…

コゴナダ監督:そういうことですよね。この映画ではアンドロイドでしたが、あなたが持っているスマホでもいいですし、なんでもいいのです。私たちはそれにものすごく思い入れを持ってしまい、壊れたり、失くしたり、捨てなきゃいけなくなったときに、とても悲しい気持ちになったりしてますよね。それがどういうことなのか?それを家族という絆の中で描いてみたいと思ったんです。

 

――葛藤を抱えたコリン・ファレルのパフォーマンスが素晴らしかったです。彼を主役に選んだ理由、そして、彼の存在はこの作品に何をもたらしてくれましたか?

コゴナダ監督:一家の主であるジェイクは、自分の家族、仕事もそうなんですが、人生そのものに何かこう“つながり”を感じられなくなってしまっていて、もう一度再建したいと願っている複雑なキャラクターです。物語はヤンの内側を模索することが軸になっていますが、同時にジェイクの内面を模索する物語でもあるので、そういった重層的な心の動きを演じられる資質がなければこの役は成立しなかった。コリンはそういう複雑さがあるんですよね。

彼を観ながら、心の傷、痛みを抱えて生きていると観客は感じ、どんどんその心情に引き込まれていく。初期の作品『タイガーランド』から彼のファンだったのですが、セリフがなくても、その瞳から魂や歴史みたいなものを感じさせる深さは、コリンにしか出せないものだと思っています。

 

――『コロンバス』では年齢も人種も育った環境も違う男女が、屋外のシンメトリーの美しい映像を背景に描かれていましたが、今回はほぼ“屋内”で撮影されていた印象があります。車の撮り方も外観を映さず、未来感、走行感を出す演出が秀逸でした。本作で特にこだわった撮影法と、その理由を教えてください。

コゴナダ監督:『コロンバス』では、ワイドショットを使って屋外メインで撮影しましたが、おっしゃる通り、今回は逆に屋内撮影を意識的に狙いました。脚本にも「屋内で撮りたい」とわざわざ書くほど自分にとって大きなチャレンジでした。

その理由は、SF映画というと、例えば終末であったり、ディストピアであったり、滅亡の危機が迫っていたり…大きな世界観で描く場合が多いのですが、家庭の中で起きるような狭い空間で繰り広げられる“未来の日常生活”を描いてみたいなと。

窓越しのショットとか、何かに反射して見える景色とか、屋内シーンは全て戦略的なものですが、実は私自身、外で撮るのが大好きなので、毎日ウズウズ、ちょっぴりストレスを感じながら撮影していました(笑) でも、作品的には狙い通りのものができたと思います。

映画『アフター・ヤン』は、10月21日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかロードショー。

(取材・文/坂田正樹)

Photo:『アフター・ヤン』© 2021 Future Autumn LLC. All rights reserved.