異色の犯罪ドラマ『ランドスケーパーズ秘密の庭』平凡な中年夫婦の究極の愛と逃避行を描く

2022年3月29日 2023年1月24日 ※本ページにはアフィリエイト広告が含まれます

イギリスで実際に起きた殺人事件をドラマ化した、英Sky×米HBOの犯罪ドラマ『ランドスケーパーズ　秘密の庭』。実力派俳優のオリヴィア・コールマンとデヴィッド・シューリスが主演し絶賛を集めた作品が、いよいよ日本で初配信・放送される。その見どころを紹介しよう。

異色の犯罪ドラマ『ランドスケーパーズ秘密の庭』平凡な中年夫婦の究極の愛と逃避行を描く

スターチャンネル独占『ランドスケーパーズ秘密の庭』舞台裏映像が公開

スターチャンネルEXにて独占配信中のイギリスドラマ『ランドスケーパーズ秘密の庭』。妻の両親を殺害し、家の裏庭に埋めた夫婦が15年後に逮捕されるというイギリスで実際に起きた事件をドラマ化したクライムドラマから、主演を務めるオリヴィア・コールマン、デヴィッド・シューリスらキャスト・スタッフによる舞台裏...

『ランドスケーパーズ　秘密の庭』は、オリヴィア・コールマンが夫のエド・シンクレアと共に設立した「サウス・オブ・ザ・リバー・ピクチャーズ」と『チェルノブイリ』や『ギャング・オブ・ロンドン』を手がけた「シスター」の共同製作による全4話のミニ・シリーズ。エド・シンクレアが脚本・製作総指揮、『Giri/Haji』やベネディクト・カンバーバッチ主演映画『The Electrical Life of Louis Wain（原題）』などで熱い注目を集めている日系イギリス人のウィル・シャープが監督・脚本・製作総指揮をつとめた。イギリスでは昨年11月に放送され、Rotten Tomatoesで批評家筋から98パーセントの高評価を獲得するなどして話題を呼んだ。

本作は2014年にイギリス人のエドワーズ夫妻が殺人罪で25年の懲役を受けた実在の事件をもとにしている。北フランスの町でひっそりと暮らすクリスとスーザン。言葉の壁により仕事が見つからず、経済的に行き詰まったクリスは、思いたってイギリスの継母に財政援助を乞う電話をかけるが、長年隠していた秘密を継母に告白してしまう。それは15年前に妻スーザンの両親の死体をマンスフィールドにあった両親の自宅の裏庭に埋めたというものだった。継母が警察に連絡したことから、急きょイギリスに帰国し、取り調べを受ける夫妻だが、捜査や裁判が進むにつれ、二人の隠された過去と事件の全貌が明らかになっていく...。

1 オリヴィア・コールマンとデヴィッド・シューリスに絶賛の声
2 コメディやファンタジーが混在した異色の犯罪ドラマ
3 心の闇を鋭く追求する
4 『ランドスケーパーズ　秘密の庭』放送情報

オリヴィア・コールマンとデヴィッド・シューリスに絶賛の声

主役のエドワーズ夫妻を演じた、オリヴィア・コールマン（『ザ・クラウン』）とデヴィッド・シューリス（『ハリー・ポッター』シリーズ）がとにかく素晴らしい。深い愛と信頼で結ばれているが、どこか大人になり切れずに自分たちの夢の世界に生きるクリスとスーザンを見事に演じる。一見平凡な中年夫婦だが、その穏やかな表情の裏に狂気がちらちらと見え隠れするという演技が秀逸だ。英ガーディアン紙は、オスカー女優であるオリヴィア・コールマンの「キャリア最高の演技」と絶賛している。

コメディやファンタジーが混在した異色の犯罪ドラマ

本作が単なる実録犯罪ドラマではないところも注目だ。イギリスでは昨今、実際に起きた事件のドラマ化がトレンドになっており、最近では『ペンブルックシャー・マーダー 21年目の真実』や『DES／デス』などが日本でも放送された。しかし、本作はこれまでの再現ドラマとは一味異なり、犯人である中年夫婦のキャラクターや夫婦関係、内なる世界に焦点をあて、ブラックコメディ、ファンタジーの要素を交えながら、殺人事件をそれぞれの人物の視点から描くドラマになっている。

クリスとスーザンは強い絆で結ばれた夫婦で、その愛の世界は究極の恋愛ストーリーともいえるが、夫婦が妄想の世界に逃避していくと、視聴者たちもその不可思議なファンタジーのなかに引きずり込まれていく。クリエイターのエド・シンクレアとウィル・シャープは犯罪事件の人間的な内面性に焦点を当てたかったと語る。シンクレアは大学で法律を学んで犯罪学に興味があり、シャープは双極性障害を公言し、過去に精神疾患についてのTVシリーズを製作している。夫婦が執着的なまでに溺愛する名作映画や西部劇のシーン、舞台劇のような演出、独特の色使いを用いて夫婦の内面を表現する実験的な手法は見事である。その一方で、シンクレアは、犯人に同情して犯行を肯定するドラマというわけではないとも話している。

心の闇を鋭く追求する

本作の面白さは、見終わった後で視聴者に疑問を突きつけるところにあるだろう。犯罪者と非犯罪者を分ける要素は何だろうか？

イギリスでカップルが起こした殺人事件としては、イアン・ブレイディとマイラ・ヒンドリーによるムーアズ殺人事件やフレッドとローズのウェスト夫妻による恐怖の館殺人事件が有名だが、これらがサイコパスな犯人による猟奇事件だったのに対し、本作のエドワーズ夫妻は、物腰が柔らかい地味な中年夫婦である。一見善良な夫妻が犯行に及び、殺害後も犠牲者が生きているようにみせかけ、15年間も何食わぬ顔で日常生活を続け、フェアリーランドのような世界に逃避していたことで、視聴者は改めて考えさせられるのだ。人間誰しも辛い過去や経験があり、ふとしたきっかけで心の闇が暴走する可能性は誰にでもある。果たして自分は犯罪者にならない確信はあるのか？　現実と妄想の境目は？　このドラマはそんな不安と恐れを視聴者の心に呼び起こすのである。

夫婦の深い愛を描いた究極のラブストーリー、現実と妄想が曖昧な世界を描くファンタジー、警察の執念の捜査で犯人を有罪判決に追い込む刑事サスペンスと、見る角度によりさまざまな様相を呈する異色のクライムドラマ。その独特の世界をぜひ堪能していただきたい。